第321回:フェラーリの求人も! イタリア街角広告にワクワク
2013.11.08 マッキナ あらモーダ!ディーラー広告から家探しまで
イタリア車史を語るとき、その昔街中に貼り出されたフィアットのポスターが、たびたび話題になる。往年ほどの味わいはないが、その伝統は今も続いていて、新型車が発表されると地元ディーラーの名前が記されたポスターが街のあちこちに貼られる。
クルマに限らずイタリアでは、新規開店から死亡広告まで、おびただしいタイプのポスターが、街であちこちの壁を埋めている。
参考までにボクが住むシエナの場合、ポスターを貼り出す仕組みはこうだ。市役所で規定の広告料金(期間・スペースによる)を払って、貼ってほしいポスターを納める。すると後日、通称“アッタッキーノ”とよばれる市の職員が、三輪トラックでまわってそのポスターを貼ってくれる。ただし民間の広告看板スペースは、その限りではない。
いっぽうで、一般人の告知広告も活発である。よくあるのは「家探し」だ。シエナも含め多くの学生街で、賃貸は常に物件が品薄の状態である。不動産業者に行っても日本同様仲介手数料をとられるし、そもそも賃貸物件を扱っていないところが多い。
そこで、自ら「求む。アパート」と書き、興味ある人が持っていってくれるよう電話番号入り短冊を下部に付けたポスターを作る。そして、バス停や大学の掲示板など、人目のつくところに貼りまくる。
ボクと女房も何度か、そうやって家を探した。効果はともかく「信頼ある日本人夫婦」というキャッチを入れたり、似顔絵のイラストを入れたり、苦労しながらも楽しんだものである。
バス停にクルマ情報?
そんなわけで、今回はポスター&貼り紙の話をしよう。
最近、個人の貼り紙で増えているのは、仕事系である。【写真3】は「庭仕事やります」の文字が見える。オリーブの木の剪定(せんてい)といった仕事が記されているが、最後のほうを読むと、道の整地も引き受けている。直下には「仕事探してるの? 副収入を得よう!」といったコピーが躍る。
先日発表されたイタリアの失業率は12.5%、24歳までの若者に至っては40%という高い数値にとどまっている。貼り紙は、明らかにこうした深刻な状況を反映したものだ。
仕事で思い出したが、【写真4】は、この夏フィレンツェのサンタマリア・ノヴェッラ駅の新聞雑誌スタンドに貼り出されていた求人情報誌の広告だ。トップ記事は「フェラーリが工場従業員250名採用」。実際、貼り出される少し前、筆者はフェラーリのマラネッロ本社で、モンテゼーモロ会長の口から「採用を増やす」と聞いていたから、これは本当である。唐突にもF1の写真が掲載されているが、まあすぐにスクーデリア・フェラーリで働けると思う人はいないだろうから、誇大広告にはあたらないだろう。
クルマの個人売買系も、にわかに増えてきた。売買専門誌に出しても掲載されるのは遅いし、クルマが売れない昨今、下取りに出しても価格はたかが知れている。というわけで、自分で告知を作り、DIYセンターの入り口や、これまたバス停などに貼る。バス停が良いのは、バスがなかなか来ないとき、退屈しのぎに見る人が多いためだ。
【写真5】は2006年登録の「フォード・フィエスタ1.4ディーゼル」である。価格は「交渉可」としか記されていないが、走行9万7000kmだから、そう高いことはいわないだろう。
いっぽう大胆にも郵便ポストの脇腹に貼られた【写真6】は、2007年「オペル・コルサ1.0」で、走行5万7500kmである。価格は5300ユーロ(約71万円)だ。5ドアをアピールすべく、ドアを開け放っているところに、オーナーの工夫を感じる。
レトロものもたびたび発見できる。【写真7】は2代目「フィアット500」である。バンパーに付加されたオーバーライダーから、1968-1972年に生産された「500L」仕様と思われる。携帯番号のみが記されていて、詳細はお楽しみだ。
最近はイタリアにもPCが普及したことで、さらにこうした個人のクルマ売りたし広告づくりが加速している。
粋な広告にホッ!
クルマ系といえば、【写真8】は、県内のコイン洗車場で発見した広告である。洗車機に、つや出し効果のある新型ブラシが使われていることをアピールするものだ。「君のクルマをブラシで愛撫(あいぶ)」というキャッチとともに、そのブラシで洗われるお姉さんの写真が載っている。
特筆すべきは、「イメージです。まねしないでください」といった、イマジネーションを萎縮させるような文言は一切記されていないことだ。決して明るいニュースばかりとはいえないイタリアだが、こうした広告をみるとオトナの国だなと思い、住んでてよかったと思うのである。
……と記しながら、パリに赴いた際、日本語情報誌に載っていた引っ越し業者の広告【写真9】を見て、「さらば~地球よ~♪」という歌手・ささきいさおの歌が入ったカセットテープがもらえるのかと色めきたってしまった筆者であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
※お知らせ
2013年11月18日(月)渋谷・日伊学院にて大矢アキオの文化講座「イタリアの伝統工房・イタリアのプロダクト」が開催されます。 詳しくはこちらをご覧ください。

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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