第5回:圏央道開通!! ただし7割(その4)
高尾山は”奇跡の山”
2014.09.25
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
”奇跡の山”とは?
「趣味は?」と問われたら、即座に、登山でございます、と答える私なのである。
「では、好きな山、ベスト3は?」と問われたら、これまた即座に、「南アルプスの北岳」「栃木県の那須連山」、そして「高尾山」と答える私なのである。つまり、私は、大の「高尾山好き」なのである。
植生が豊富で、日本全国に生育している5300種類ほどの植物の3割に当たる約1300種類が、標高わずか599メートルの高尾山に集まっている。たとえば、イギリス全土に分布している植物が1400種類だというから、いかに高尾山の植生が豊かだかわかろうというものではないか(『クルマで登山』“奇跡の山”、高尾山に迫る危機・第89回~参照)。
植生が豊かだから高尾山には5000種類もの昆虫が生息していて(日本3大生息地のひとつ)、するともちろん野鳥もたくさんいるわけで、その数、およそ130種類(日本全国に生息する野鳥は550種類)。
すごい?
そう。高尾山はすごい、のだ。しかも、すごい、だけじゃなく、同時に、驚くべき高尾山、なのである。
なにしろ、高尾山にはブナの木がある。本来なら標高800mから1600mくらいの場所に生育するはずのブナを、ケーブルカーの終点あたりで見ることができるのだ。ブナだけでなく、イヌブナとかカエデ類とか、本来ならもっと高い場所で生育するはずの木々が、どうしたわけか標高400mあたりにある。
つまり?
つまり、冷温帯にあるはずの木々が、高尾山という小さな山に、暖温帯の木々と共に生育しているという意味である。そんな山が東京にあるのだもの、まさに驚き、としか言いようがない。
高尾山は“奇跡の山”なのだ。
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高尾山の自然が心配
高尾山に薬王院が開かれたのは1200年前。以来、宗教的な理由から高尾山の森は守られてきた。そして、時代は移り戦国末期、小田原に本拠を置いていた北条の氏照が八王子に山城を築き、谷ひとつ隔てた高尾山を軍事上の重要拠点として「木の1本も切ってはならない」との令をだし、結果として森を守った。その後、天下統一を目指す豊臣秀吉に北条の小田原城は攻め落とされ、八王子城もまた、前田利家・上杉景勝の軍の前に落城することになる。
けれど、鎌倉街道や甲州街道が集まるここは交通の要衝の地であり、徳川の時代に変わっても重要な場所であることに違いはなかった。徳川家康は、高尾山を幕府の直轄領として森を守ったのである。明治維新の後、この直轄領は皇室の御料林となり、さらに、戦後は国定公園に指定された。
“すごくて驚くべき高尾山”の自然は、こうして開発を免れ、1200年間、ずっと守られてきた。だから、それやこれやを合わせて、高尾山は“奇跡の山”と言われるようになり、その自然文化遺産としての価値は高く評価され、世界遺産を推薦する日本の委員会で名前があがるほどだった。
その高尾山に圏央道のトンネルを掘るって、そりゃマズイんじゃないの!? と、たいがいの人はそう思うのではあるまいか(詳しくは『クルマで登山』を)。私もそう考えたひとりだったけれど、結果は、知ってのとおり、高尾山トンネルは2012年に開通したのだった。
で、大の高尾山好きとしては、これから先の高尾山の自然が心配でしょうがないわけなのである。高尾山の自然を育んできた地下水脈にトンネル工事の影響がでたら大変だ、と。大丈夫なのか、と。
(つづく)
(文=矢貫 隆)
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矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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