第287回:ボディーは小さくとも立派な名車!
思い出の「ダットサン・ベビイ」が復活
2015.04.07
エディターから一言
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子供たちにクルマの楽しさを伝えた小さな名車が、50年ぶりに復活。そのお披露目式の様子を、再生作業にまつわるエピソードとともにリポートする。
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こどもの国の開園50年を祝って
2015年3月28日、日産グローバル本社ギャラリーで、小さな赤いクルマが公開された。といっても新型車ではない。今から半世紀も前に作られた、いうなればクラシックカーだ。それが今回、日産の有志によって構成される日産名車再生クラブの手でレストアされ、この日お披露目と相成ったのだが……。
そもそも皆さん、このクルマをご存じだろうか? 知っている方は相当な日産通。知らないという方の中にも、実は乗ったことがある人がいるかもしれない。
その車名は「ダットサン・ベビイ」。今をさかのぼること50年の1965年に、神奈川県横浜市にあるレジャー施設「こどもの国」の開園を記念して、日産が園内を走る子供用自動車として製作、寄贈したものだ。その数なんと100台(!)。遊園地のゴーカートなどより、はるかに本格的な自動車を走らせられることから人気を集め、このアトラクションの利用者は8年間で約20万人を数えることとなった。
時はたって2012年、「開園50周年を祝う、なにかいい企画はないものか?」と考えていた同園の三国 治園長が、施設の片隅で眠るダットサン・ベビイを発見し、日産に再生を打診。今回のプロジェクトがスタートすることとなった。
レストアを請け負った日産名車再生クラブとは、日産テクニカルセンター(日産自動車の開発部門)の従業員を中心に構成されたボランティアの組織である。2006年の発足以来、年に1~2台のペースで車両のレストアを手がけており、今回のダットサン・ベビイは記念すべき10台目の再生車となる。その活動は完全に“手弁当”で、家族サービスを犠牲にして休日に作業を行うというのだから、古いクルマ好きの筆者としては頭が下がる。この日も「休日にパパが何をしていたのかを知ってほしい」と、家族連れで式典に参加するメンバーの姿があった。
「子供のおもちゃ」と侮ることなかれ
そんな日産名車再生クラブが、9カ月以上の時間を要し、「バンパーのネジまでこだわって再生した」ダットサン・ベビイ。実車を見ると、その本格的な作りに驚かされる。
子供の乗り物と侮ることなかれ。シートベルトはもちろん、ワイパーにウインカー、片側だけだがサイドミラーもついているのだ。それもそのはず。このクルマは「こどもたちに本物の自動車交通教育を提供する」という目的のために用意されたもので、日産名車再生クラブ代表の木賀新一さんいわく「当時の法規はクリアしているので、その気になれば公道を走ることだって可能だった」とのこと。もっとも、車速については20km/hを超えると警報が鳴り、30km/hでリミッターがかかる仕組みになっている。当時の子供たちは、100km/hまで刻まれた速度計の目盛りをにらみつつ、歯がゆい思いをしていたに違いない。
おもしろいのがペダル類で、ブレーキペダルがとにかく横に長い。これは万が一に備え、助手席に座る大人もブレーキが踏めるようにするためなのだ。同じ理由から、助手席側には左足で操作するアクセルペダルが備わっていた。
それにしても、ボディーの割には足元スペースがゆったりしているのだが……。エンジンはどんなふうに積まれているのやら、と思いフロントフードを開けてもらうと、エンジンがない。スタイリングのせいですっかりだまされていたが、ダットサン・ベビイはミドシップだったのだ。
このクルマ、そもそもは愛知機械工業が製作していた2人乗りのユーティリティートラック「コニー・グッピー」をベースに製作されたものだ。エンジンは空冷2ストロークの単気筒200cc。シフトは前進と後進が選べるのみ。「日本で初めてトルクコンバーターを実用化した」という岡村製作所のトルコン付きトランスミッション(変速機構はない)のおかげで、2ペダルで気軽に運転できた。
不思議なのが足まわりで、なんと四輪独立懸架、しかもフロントはダブルウィッシュボーンと、当時としてはスポーツカーもかくやの高度な機構が用いられていた。しかも、そのフロントサスはサブフレームにマウントされ、アッシーごと脱着できる代物。技術者歴35年という日産の坂本秀行副社長も「なんで(安価な小型トラックに)こんな構造を採用したのか? そもそも、なぜミドシップなのか?」と不思議がることしきりである。
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特殊なクルマだからこその苦労話も……
それにしても、50年も前に100台だけが製作された(試作車を含めても105台とのこと)、しかも市販されていないクルマである。再生には普段とは違う苦労があったのではないか? 質疑応答にて木賀さんにそう尋ねたところ、「それはもう」とさまざまなエピソードを披露してくれた。
まずいつもと違ったのが、ベース車が“よそさま”のクルマであること。日産製のクルマなら大抵の資料が社内に残っているのだろうだが、ダットサン・ベビイではそうはいかない。コニー・グッピーの生産元である愛知機械工業の協力は必須だったのだ。
次に困ったのがクルマの大きさ……というか小ささである。なにせトレッドが狭いので、作業場の地下ピットをまたがせようと思ったらまさにギリギリ。作業風景の写真を見ているだけでも、クルマが落っこちやしないかとハラハラするほどだ。
しかし、それらに輪をかけて問題となったのが、やはりパーツの欠品だったという。特殊なクルマだけに、今となっては手に入らないような特殊なパーツが多かったのだ。特に困ったのがシールラバーで、多少劣化している程度ならシリコンをしみこませて磨けば何とかなる(……場合もある)のだが、今回はすっかり朽ちていたので、サプライヤーに一から作ってもらったのだとか。
ゴム関係の部品といえば、もうひとつ難儀したのがタイヤである。もちろん再生産品はない。バイク用のタイヤなら近いサイズのものもあるが、オリジナルとは形がかけ離れている。いろいろと調べた結果、「台湾のゴルフカートに使われているタイヤの形が似ている」との情報を得、ようやく満足のいく品を手に入れることができたそうである。
こうした苦労話に加え、個人的に興味深く感じたのが、クルマを分解していた時のエピソードだった。「イスの下から当時の入場券や、アイスの袋などが出てきた。せっかくなのでパネルにして保存した」というのだ。まるでタイムカプセルである。
小さなボディーに、50年分の歴史とささやかなナゾ、そして再生に至るまでのさまざまなエピソードを満載したダットサン・ベビイ。4月いっぱいは日産本社ギャラリーに展示され、その後はこどもの国の50周年記念イベントなどで活躍する予定となっている。せっかく動態保存の状態にあるのだから、ぜひどこかで、走る雄姿を見せてほしい。
(文=webCG 堀田/写真=webCG 堀田、日産自動車)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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