スズキ・バレーノXT(FF/6AT)
本格派の手応えアリ 2016.05.25 試乗記 ターゲットは「フォード・フォーカス」? スズキから新しいコンパクトモデルの「バレーノ」が登場。新開発のBセグメントプラットフォームの実力やいかに? 1リッターの直噴ターボエンジンを搭載した上級グレード「XT」を借り出し、その走りを試した。「ハンドル以外はフツーだね」
「ひょっとしてこれ、ちょっとフォードあたりを意識して作ってきてるっぽくないですか?」とか「そういえば、ウワサによるとスズキは『フォーカス』、参考用に買ってもってるらしいですよ」とか、そういう話がでたりもしたのであった。どこでかというと、バレーノ試乗体験ありの、筆者をふくむ某グループというかナンというかのウチワのちょっとした雑談のなかで。
いまのクルマのなかで、乗り心地の快適さや運転しやすさの方面においてフォードはひとつのお手本で……というのがまず前提としてあって、したがってバレーノ、結論的にはなかなか、あるいはもっと、見どころがある。“日本車”にしては。ホントにフォードを意識したなら目のつけどころがナイスだし、いいクルマのなんたるかをわかっている。運転してみて惜しいところやもっと頑張ってほしいところがあったりはしても、方向としては大いに正しい……のではないか。
記憶内の時刻をジーッと巻き戻して第一印象。ホントの一発めは走りだす前の「おお!! ハンドルのテレスコピック調整機構がついてる!!」だったのだけど、走りだしてからの一発めの「おお!!」はハンドル手応え関係。具体的には、「ああ、フリクションだあ」といいたくなる種類のそれがミョーに強いのと、それと電動アシストの戻し制御。ハンドルをグイッときったところから、明らかにタイヤのセルフアライニングトルクとは違うチカラが介入してくる。電気モーターでギュイッと。これがまた、ミョーに強い。日本車じゃないみたく。ただし、ワーゲンあたりの戻し側アシストはもっとこう……。スーッ→ピタッ。っと。
「で、それ以外は全体にフツーだね」と筆者は言った。言ったんですねえ。助手席の人に向かって。「アクセル関係にしろブレーキ関係にしろ、初めて運転してギョッとするようなところはないよ」。これ、ハッキリ覚えております。
ドライバーを驚かさないという美点
当初ギョッとしたハンドル手応え関係も、その当初を過ぎてみたら実はかなりフツー。首都高や中央道や難度高めのワインディングロード(低速意地悪クネクネ系)もふくめていろんな道をひととおり走ったけれど、進路の管理に困ることはほぼ、なかった。というか、かなりラクだった。運転しやすかった。アシスト過剰の手応えスカスカ系がフツーの日本車というか日本仕様スズキ車とは別モノで、バレーノの場合、ハンドル手応えがナマに近い。もちろんナマそのものでは全然ないにしても、要はアシストが控えめなぶん、ナマに近い。そのナマに近いことが、当初の「ああ、フリクションだあ」な印象の要因でもあったのではないか(とイイワケしてみる)。当初というか、発進直後や大きくきって戻すときはその後なんべんも「ああ……」とか「やっぱり……」とかってなったのだけど。ハンドル手応え。
ハンドル関係にしろブレーキ関係にしろアクセル関係にしろ、バレーノがイイのは運転手をビックリさせない。ちょっときったら、あるいはちょっと踏んだら、こちらの意図や予測を超えるキョーレツか急激かの反応が返ってきて、思わず手を止めたり足を止めたり……ということがない。まずは自分のイメージできるなり踏むなりしてみて、それで足りなければもっときるなり踏むなりすればOK……だし、その「もっと」のときも、制動なり加速なり旋回なりのGフォースの変化がガクッとならない。滑らか~につなげていける。コンティニュアスに。
自分の意図やイメージにしたがっておこなったあらゆる操作が一発で正解ピンポンだったらそれが理想ではあるのだけど(「ボクスター2.7」の素の仕様あたりはこのケース)、「もし足りなかったら足せばよい」はその次くらいにデキがよろしい。でバレーノ、そのあたりにいる。運転手をビックリさせることのない、穏やかな性格にしつけられたクルマである……といっても、少なくとも大間違いにはならないでしょう。オマエ、ホントに日本車?
堅固なボディーとよくできた“後ろ足”
乗り心地関係。走行中というか巡航中に上屋が上下動するなかで車高がダラシなく落ち込んだりしないのがいい。あと、いわゆるピッチングのでなさ加減も。最近見つけたナイスな試験路(って中央道のある区間ですが)ではお手本車のフォーカスもチェック済み。それとの比較でいってもバレーノ、なかなか。おお、やるじゃん。
あとそう、忘れちゃいけないリアサス関係。新プラットフォームのFFバージョンについてくるTBA(トーションビームアクスルの頭文字)というかコンパウンドクランクというかのこれ、形式的にはごくフツー。ただし、仕事ぶりはタダゴトでなく優秀。おかしな動きを一切しないので運転中に後ろアシを意識する(あるいは意識させられる)ことがなくて、そのぶん存在感が希薄といえば希薄なのだけど、直進性のよさや旋回時の安定感というか安心感に関して、おそらくかなり貢献している。立役者。
これだけ運転しやすいのだから、あるいはしっかり走ってくれるのだから、バレーノ、車体も相応にしっかりしている。じゃないと、こうはならない。
では以下、そういうバレーノの惜しいところや要注意点についてちょっと。
多くの人が気にしがちなところで、表面的なイイモノ感。客室内の音止めや路面の凹凸からのショックの対策が念入りに施されたクルマでは、これは必ずしもない。そういうことでいうなら、簡単な話、営業バンのテイストに近いかもしれない。バレーノ試乗記を書くための参考に……というわけでは別になかったのだけど、憎くない日本車の小型車ということで後日、「マツダ・デミオ」(「XDツーリング」の6ATの4WD)を借りてみた。で運転してみたところ、音止め対策の入念さはまるでちょっとした高級車みたいだった。格差大。プレミアム感(?)を求めてバレーノを買うと、その狙いはちょっとかもっと、ハズれるかもしれない。
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ダメなところもなくはないが
それと、直進時(というか非旋回時)のロール剛性。コーナリングをやってるわけでもないのにクルマの姿勢が傾く傾向というかクセが少しある。当然そのクセは旋回の初期(および、最後のロールの戻り終わりのところ)においてもでるわけで、ここはもうちょっと、しっかり“張って”いてほしい。あるいは、ハンドルを真っすぐに戻すやいなやスッとロール姿勢がフラットな角度へ戻ってほしい。そうだと、現状比さらに輪をかけて自信をもって思ったとおりに曲がることができるだろうに……などと想像しつつ、んー惜しい。
なお、このへんに関してひとつ原因としてありそうなのは、フロントの重さ。車検証によると610kg+340kg=950kgで、割り算すると、前軸の重量が全体の64%超を占めている。フツーに考えて、これはフロントヘビーの傾向が強い。もっとハナが軽かったら、もっと張ってもっとスッと戻るようになるのではないか。
あと、温度依存性の高さ。例えば気温25度とか27度のカンカン照りの昼間に運転したときと、そこからしばらく(数時間)クルマを冷やして16度とかの日没後に運転したときとで、印象がすごく違う。なんというか、ツンデレ。晴天の昼→日没後の順だとデレツンになるわけだけど。いろんなクルマを運転するなかで、そういう印象をもつときに履いているのがわりといつも同じ銘柄のような気がちょっとならずするので、これはひょっとするとタイヤ由来のコトかもしれない。デレな時間帯(や天候)でも乗り心地は陰険にツンケン系だったりとかして、どうもちょっと……。気になる。
というようなコトどもはあるけれど、バレーノ、なんというか本格派の手応えアリ。運転しやすくて、快適。あるいは疲れない。そういうクルマを買いたいと思っている人は、取りあえず試乗ぐらいはしておかないとソンです。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
スズキ・バレーノXT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1745×1470mm
ホイールベース:2520mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:111ps(82kW)/5500rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:161万7840円/テスト車=178万9398円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムシルバーメタリック3>(2万1600円)/フロントマルチリフレクターハロゲンフォグランプ+ステアリングオーディオスイッチ+マルチインフォメーションディスプレイ+本革シート表皮+センターコンソールボックス+センターコンソールトレー<リア>+助手席シートヒーター+フロントセンターアームレスト(11万160円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万142円)/ETC車載器(1万9656円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2651km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:570.5km
使用燃料:30.7リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:18.6km/リッター(満タン法)/19.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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森 慶太
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