スズキ・バレーノXT(FF/6AT)/バレーノXG(FF/CVT)
“あと一歩”が欲しい 2016.04.14 試乗記 スズキの新型Bセグメントコンパクト「バレーノ」がいよいよ発売された。インドで生産され、スズキの“お膝元”である日本へと輸出される新しいグローバルカーの出来栄えやいかに? 運動性能と快適性を中心に、その実力を確かめた。スズキの世界戦略を担うグローバルカー
「ソリオ」「アルト ワークス」「イグニス」と、昨2015年から立て続けに話題のモデルを放ち続けるスズキが、このたびBセグメントの5ドアハッチバック、バレーノを発売した。
日本での年間目標販売台数は6000台と控えめだが、バレーノはれっきとした世界戦略車。その生産はインドの子会社であるマルチ・スズキ・インディア社が行い(部品の一部は日本から供給)、スズキが圧倒的なシェアを誇るインドはもちろん、「スイフト」で高い認知度を得たヨーロッパにも、その販売を拡大していく。つまりこれは“逆輸入車”である。
全長×全幅×全高のスリーサイズは全長×全幅×全高=3995×1745×1470mm。スイフトよりもちょっとだけ大きめなボディーには新開発のプラットフォームが用いられ、エンジンルーム長を抑えることで広い室内空間を得た。特にそのゆとりは後席の居住空間の拡大にあてられており、前席のヒップポイントから後席のヒップポイントまでの距離は805mmとしている。
また、トランク容量はラゲッジボードを上段に置いた状態で320リッターを確保しており、9インチのゴルフバッグを横置きで収納可能。さらにこれを下段にセットすれば、荷室高が620mmから870mmへと拡大する。
グレードは2種類。「XG」は自然吸気(NA)の1.2リッター直列4気筒DOHCエンジン(91ps/12.0kgm)を搭載するモデルで、CVTと組み合わせることで24.6km/リッターの燃費性能を発揮(JC08モード)する。ちなみにこのエンジンは、マルチ・スズキ・インディアで製作される。
一方「XT」は、1リッター直噴ターボの直列3気筒DOHCエンジン(111ps/16.3kgm)を搭載した上級モデル。燃費は6段ATとの組み合わせで20.0km/リッター(JC08モード)とXGにやや劣るが、このモデルは燃費よりも快適性や走行性能に重きを置いており、価格もXG(141万4800円)より高く設定されている(161万7840円)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
軽いクルマならではの難しさ
まず走らせたのはXG。いきなり好感触だったのはその操作系で、ステアリングやアクセル、ブレーキにある程度の反力があるために、クルマ全体のシッカリ感が際だっていた。
小型車というと、とかく軽い操作感が求められがちだが、こうして操作系にある程度の重たさを持たせた方が、実は運転が楽になる。ステアリングで体を支えることができ、ブレーキやアクセルも細かく調整しやすいから、車両の姿勢を乱さずに走れるのだ。特に高速道路での走行はその効果が高い。実際バレーノは直進安定性が高く、レーンチェンジも変に気を使う必要がないから、余計なストレスを感じずに走ることができた。
エンジンも予想以上に出来栄えがよかった。1.2リッターながら中速トルクがあり、全開加速でも5000rpmも回せば十分だからそれほどうるさくないし、エンジンルームの遮音も効いている。
トランスミッションもこの特性にうまく連動しており、CVT特有の回転だけが先走るような違和感はあまりなかった。意地悪くタコメーターを凝視していれば別だが、これならCVT嫌いにも薦めることができるのではないか。いっそのことアナログ式のタコメーターはデジタルにするか、なくしてしまってもよいと思えた。
もちろん惜しい部分もある。CVTは“段階”が切られていないから、エンジンブレーキをうまく使えない。シフトには「L」レンジもあり、実際かなりの高回転を許容するのだが、高速走行では心理的にもこれでLレンジにシフトダウンできず、結果としてフットブレーキを多用してしまう。高速巡航時にブレーキを踏むと、必ず後続車もブレーキを踏む。渋滞を作り出す原因にもなるので、ここは改善してほしいと感じた。
もうひとつ、フロアの遮音性が低いのも残念だった。その足元にエコタイヤを装着していることも大きいが、路面を問わず大胆に低周波のロードノイズが入ってくる。これが内装のプラスチッキーな素材の質感と重なって、一気に車格を落としてしまう。デザイン自体はそつがないだけに、もったいないと感じた。
もっとも、これは軽さで燃費や運動性能を高める“スズキらしさ”の影響でもある気がした。つまりシャシーの共振周波数帯が、予想以上に通常領域へと影響しているのではないか。また、この軽さは操舵(そうだ)初期における接地感の少なさにも影響している。かといって減衰力を高めれば、乗り心地は思った以上に悪くなる。軽いシャシーは大変なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
欲を言わせてもらえば……
対するXTは、XGで感じたネガティブさをかなりの面で払拭(ふっしょく)した一台だった。
1リッター直噴ターボは1.2リッターNAよりも断然トルクフルで静か。そして速い。絶対的な性能も高いが、高速巡航時にアクセルを“チョイ足し”するだけで、さらに速度を上乗せできたり、追い越し加速ができたりするのが秀逸だ。もはや普通に運転する限りは、1リッターターボで十分なのだと思い知らされた。またステアリングにはシフトパドルが付いているため、車速コントロールがしやすく、エンジンブレーキも細かく利かせられた。
足まわりについても、15インチから16インチへのタイヤのサイズアップに伴い、減衰力が高められたダンパーが(スプリングは同じ)操舵初期の接地感をグッと高めている。
ただ、直進時にステアリングから小刻みなバイブレーションが伝わるのが少し気になった。シートのよさも手伝って、やや硬めながらもどっしりとした乗り心地を実現できてはいるのだが、手のひらにはゴゴゴゴ……と小刻みな振動がくる。これもやはり、車重の軽さが影響しているのだと思う。加えて、ロードノイズもXTと同じくらい大きかった。
インド生産ながら、そのハンドリングはヨーロッパで鍛え上げたというバレーノ。国産(?)小型車らしからぬ、欧州車のように懐の深いハンドリング性能が得られる5ドアハッチではあるが、その煮詰めは少しだけ甘い。せめて上級グレードのXTだけでも、その遮音性と質感を高めてくれれば素晴らしい一台になると思うのだが、経済性が重視される小型車において、それはとても難しい注文なのかもしれない。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏)
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・バレーノXT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1745×1470mm
ホイールベース:2520mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:111ps(82kW)/5500rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:161万7840円/テスト車=178万9398円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムシルバーメタリック3>(2万1600円)/フロントマルチリフレクターハロゲンフォグランプ+ステアリングオーディオスイッチ+マルチインフォメーションディスプレイ+本革シート表皮+センターコンソールボックス+センターコンソールトレー<リア>+助手席シートヒーター+フロントセンターアームレスト(11万160円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万142円)/ETC車載器(1万9656円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:714km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
スズキ・バレーノXG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1745×1470mm
ホイールベース:2520mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)175/65R15 84H/(後)175/65R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:24.6km/リッター(JC08モード)
価格:141万4800円/テスト車=160万1856円
オプション装備:スタンダードメモリーワイドナビセット(14万7258円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万142円)/ETC車載器(1万9656円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:746km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。














