【F1 2016 続報】第6戦モナコGP「ハミルトン、起死回生の勝利」
2016.05.30 自動車ニュース![]() |
2016年5月29日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第6戦モナコGP。トラブルや不運に見舞われてきた王者ルイス・ハミルトンが、6戦目にしてようやく今季初勝利を手にした。
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■メルセデス同士の“激突”、フェラーリとレッドブルの“激突”
前戦スペインGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグによる同士打ち&リタイアにはじまり、レッドブルとフェラーリによる激闘の末、マックス・フェルスタッペンがレッドブル移籍後初レースで初優勝、最年少ウィナー誕生という劇的なエンディングを迎えた。
メルセデス2台のコース上での“激突”といえば、2014年の第12戦ベルギーGPでもあったが、この時は、続く次のイタリアGPからハミルトンが5連勝し最大のライバルであるロズベルグを突き放すことに成功、最終戦で2度目のタイトルを手中に収めた。
今シーズン、メルセデス「W07」とそのパワーユニット、そして開幕4連勝で大量リードを築くロズベルグの優位性が早々に失われることは考えづらいものの、同じマシンを駆る2人のトップドライバー同士の、戦いの「潮目」が変わることはあり得る話だ。
一方で、王者に勝負を挑む第2集団においては徐々に戦局が変わりつつある。当初は打倒メルセデスの旗頭とされたフェラーリだったが、シーズンが進むにつれすぐ後ろにレッドブルが迫り、非メルセデス勢の初勝利もレッドブルに奪われてしまった。チャンピオンシップでも、2位フェラーリと3位レッドブルの差はわずか15点しかない。跳ね馬の赤いマシンと「赤い雄牛」の濃紺のマシン、その“激突”からも目が離せなくなってきた。
かように生き馬の目を抜くようなF1ワールドは、63回目のモナコGPにやってきた。パワーよりもマシン性能、そして世界中のどのサーキットよりもドライバーの腕と度胸が試されるモンテカルロの市街地コースで先手をとったのは、赤い血をたぎらせた猛牛だった。
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■リカルド、鬼気迫る走りで自身初ポール
過去10年でポール・トゥ・ウィン8回を数えるモナコ。勝利に最も近いポールポジションを獲得したのは、レッドブルのダニエル・リカルドだった。
スペインGPで、リカルドはウィナーのフェルスタッペンとは作戦を変え、レースをリードしながらも4位に終わっていた。その悔しさをモナコのコースにぶつけ、ガードレールにヤスリをかけるような鬼気迫る走りで決めた自身初、レッドブルにとっては2013年ブラジルGP以来となる予選P1となった。
およそ0.2秒離されてロズベルグが2位、Q3序盤に燃圧系のトラブルが発生し十分に走り込めなかったハミルトンはなんとか3位に収まった。
フェラーリはセバスチャン・ベッテル4位、キミ・ライコネンは6番手タイムながらギアボックス交換のペナルティーで11番グリッドに沈んだ。フォースインディアは予選で善戦しニコ・ヒュルケンベルグ5番グリッド、トロロッソのカルロス・サインツJr.を間に挟みセルジオ・ペレスが7番グリッドを得た。8番グリッドはトロロッソのクビアト、そしてマクラーレンのフェルナンド・アロンソが2戦連続でQ2を突破し9番グリッドにつけ、予選11位だったウィリアムズのバルテリ・ボッタスが繰り上がりで10番グリッドからスタートすることとなった。
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■ハミルトン、優勝までの作戦
快晴の土曜日とは打って変わって決勝日はしの突く雨に見舞われた。ウエットレースが宣言され、セーフティーカー先導で78周のレースはスタート。徐行走行が解かれたのは8周目からだったが、この周にジョリオン・パーマーのルノーがクラッシュしたことで、スロー走行を義務付けるバーチャル・セーフティーカーが10周目半まで表示された。
本格的なレースが始まると、トップはリカルド、2位ロズベルグ、3位ハミルトン、4位ベッテルとグリッド順のまま。リカルドは早々に好タイムをたたき出し、14周もするとロズベルグに対し10秒のギャップを築いてしまった。ペースの上がらないチームメイトにしびれを切らしたハミルトンは16周目にロズベルグを抜き2位に上がり、次はリカルドに照準を合わせた。
徐々に好転してきたコンディションを前に、各車ウエットから浅溝インターミディエイトタイヤに交換するタイミングをうかがっていた。上位陣では4位ベッテルが14周目、ハミルトンに離され3位でくすぶっていたロズベルグは21周目にインターに変え挽回を図った。
日も差し始めた24周目に1位リカルドもピットイン。ところが、所々路面が乾き出したにもかかわらず、ハミルトンは止まらずにスタート時に装着したウエットタイヤのまま周回を重ね、27周もすると真後ろには既にインターに履き替えていたリカルドが迫っていた。
ハミルトンは、ウエットからインターとつながず、インターを履かずにドライタイヤに変わるポイントまでトップに居座り、優勝を狙う作戦を採ったのだ。
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■リカルド、ピットでまさかのタイムロス
31周目にそのハミルトンがピットイン、今季デビューした一番やわらかいウルトラソフトのドライタイヤに履き替えた。
翌周リカルドもドライに変えようとピットへ。レッドブルがトップをキープする可能性は十分にあったのだが、何とレッドブルは交換するタイヤを用意しておらず、リカルドは足止めを食らうことに。コースに戻るとリカルドはハミルトンに1位の座を奪われていた。
ウルトラソフトの1位ハミルトン、スーパーソフトを履くのは2位リカルド。狭くツイスティーなモンテカルロでの、1秒を切る手に汗握る接近戦は、その後何度かのバーチャル・セーフティーカーを挟みながら、1秒、2秒、3秒と徐々に差が広がっていった。
ハミルトンにとっての不安材料といえば、一番やわらかいウルトラソフトの寿命だったが、残り数周となってハミルトンがファステストラップを記録すると杞憂(きゆう)であることが分かった。
1ストップ作戦という奇策と、レッドブルの致命的なミスのおかげで、ハミルトンは今季初優勝を遂げた。タイトルを決めた昨年10月のアメリカGP以来となる久々の勝利に喜ぶチャンピオン。今回7位と低調だったロズベルグとのポイント差は43点から24点に縮まり、残り15戦に向けた立て直しのレースとなった。
対照的に2位に終わったリカルドは悔しさをかみしめていた。「チームが呼んだからピットに入ったんだ」と、レッドブルのミスであることをほのめかすリカルドはぼうぜん自失の表情。2週間前のスペインでも同じようにチームの判断に従い勝利を逃していたのだから、心に負った傷は決して浅くないはずである。
次は北米に舞台を移してのカナダGP。決勝は6月12日に行われる。
(文=bg)