第145回:ダッジ・チャージャー最強! 潜水艦にだって勝つ!
『ワイルド・スピード ICE BREAK』
2017.04.28
読んでますカー、観てますカー
キューバでもストリートレース
ドム(ヴィン・ディーゼル)はレティ(ミシェル・ロドリゲス)と一緒にキューバの休日を楽しんでいた。前作ではアゼルバイジャンやアブダビでクルマを空に飛ばす「スカイミッション」を成し遂げて世界を救ったのだから、しばし優雅なバカンスを楽しんでもバチは当たらない。
キューバは有名な古いアメ車天国である。若者たちが自慢の愛車をチューンしてストリートレースを繰り広げている。革命政府が本当に西側の乱れた文化を許容しているのかは疑問だが、『ワイルド・スピード』の世界ではこれが日常なのだ。ビキニ姿の美女たちがナイスバディを見せつけるように踊る中、筋肉で武装した男たちが意地をかけてレースに挑む。
見物していたドムも巻き込まれてしまい、街一番の腕利きと対決することになった。彼が乗るのは“キューバ一速いクルマ”「フォード・カスタムライン」で、ドムに与えられたのは“キューバ一遅いクルマ”「シボレー・フリートライン」である。どちらも1950年代のクルマだから、実際にはたいしたスピードは出ないはずだ。ドムはシボレーのバンパーやフェンダーをはずして軽量化し、ニトロを仕込んで見事に勝利する。レースが終わればみんな仲間だ。ハイタッチを交わし、敵は親友になる。
シリーズのはじめから貫かれている世界観だ。ただ、ロサンゼルス近辺の狭い地域だけで物語が展開した第1作とはスケールが違う。活躍の舞台はワールドワイドに広がり、チンケなトラック強盗だったドムは世界的な陰謀に立ち向かうチームを率いている。第8作となる『ワイルド・スピード ICE BREAK』は、もはや新シリーズと言ってもいい。ブライアンがいないからだ。
ベルリンとニューヨークでカーチェイス
前作の『スカイミッション』は撮影中にブライアン役のポール・ウォーカーが自動車事故で亡くなったため、代役やCGを使って完成させた。ブライアンはイクメンパパとして穏やかな生活を送っていることとなり、2人の主役が並び立つ形から、ドムひとりが前面に出る構成に変わることになったのだ。しかし、ファミリーの大黒柱であるはずの彼が、仲間を裏切ることになる。
キューバの街角で「トヨタ・ランドクルーザー」が立ち往生しているのを見たドムは、困っていた美女に声をかける。彼女はサイバーテロリストのサイファー(シャーリーズ・セロン)だった。ドムは立ち去ろうとするが、何かを見せられて表情が固まる。彼にとって世界で一番守らなければならないものが写った写真だった。
ヨーロッパではテロリストが危険な兵器を手に入れていて、ホブズ(ドウェイン・ジョンソン)を通じて奪還するよう指示される。ローマン(タイリース・ギブソン)やテズ(クリス・ブリッジス)にも声をかけ、最強のチームが再結成された。無事テロリストから兵器を取り戻したのはいいが、最後にドムが不可解な行動を取る。奪還作戦は失敗し、ホブズはとらわれの身となってしまう。
『ワイルド・スピード』シリーズでは、回を追うごとにカーチェイスシーンが派手になっていった。新たな仕掛けが用意されているのは当然である。ベルリンでは巨大な鉄球が現れてクルマを襲う。当たったらひとたまりもないので、華麗なステアリングさばきで避けるしかない。
ニューヨークでは、システムを乗っ取られた無数のクルマが暴走を始める。「ジープ・グランドチェロキー」「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」「ヒュンダイ・エラントラ」など、メーカーや車種を問わず街を走るクルマがすべて操られてしまうのだ。隊列を組んでコーナーを駆け抜け、ビルのパーキングからはクルマが降ってくる。自動運転システムは装備されていないと思うが、インパクトのある演出の前にはささいなことだ。
氷の上なのにムルシエラゴ?
『アイスブレイク』とサブタイトルが付けられていることからわかるように、氷上で最後の対決が行われる。チームの面々は、用意されたたくさんのクルマの中から好みの1台を選んで決戦に臨む。超高速戦車の「リプソー」は正しいチョイスだ。150km/h以上のスピードを出す能力があり、無限軌道は滑りやすい氷の上でもトラクションを確保できる。
「スバルWRX」を選んだのも納得がいく。水平対向エンジンと4WDの組み合わせは、電子制御によって高い操作性を実現している。コンパクトなサイズも有利に働き、アジリティーを生かして敵の攻撃をかわすに違いない。「ランボルギーニ・ムルシエラゴ」という選択はどうだろうか。確かに4WDではあるものの、あまりにも車高が低すぎる。アイスランドの氷は表面が荒れているようだから、ボディー下面が当たって亀の子になるのがオチだろう。
もっとどうかしているのはドムだ。いつも通り「ダッジ・チャージャー」に乗って登場する。ベルリンでは最新型の「ダッジ・チャレンジャーSRT」に乗っていたのに、なぜここで1960年代のモデルを持ち出すのか。もちろんドムの腕ならFRであろうと自在にコントロールできる。ABSやESCなどという小ざかしい装備は必要ない。巨大な原子力潜水艦にだって真っ向から勝負するのがこの男なのだ。
シリーズは後2作が予定されていて、2021年の第10作でフィナーレを迎えるらしい。次は潜水艦以上の敵を登場させなければならず、最終作では宇宙からの侵略者と戦うことになるかもしれない。それでもドムはチャージャーで立ち向かうことだろう。『ワイルド・スピード』とは、ドムがドライブするチャージャーが最強であることを前提にした世界なのである。
(鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第293回: スイフトが主役の映画? いや、監督がスイフトなんです!
『藁にもすがる獣たち』 2026.9.24 曽根圭介の小説を原作にした2度目の映画化。韓国版では「ヒョンデ・ソナタ」が殺人カーだったが、今回は「トヨタ86」に。もっと活躍するのはチャンピオンイエローがまぶしい“スイスポ”。スズキファン必見のアクションエンターテインメント! -
第292回:350SEが運ぶのは幸福か、それとも究極の不幸か……
『星の時 4K』 2026.8.20 ブラジルの女性小説家クラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した小説を、女性監督スザーナ・アマラウが1985年に映画化した伝説の作品。「メルセデス・ベンツ350SE」がもたらす運命の瞬間を謎めいた手つきで描き出す。 -
第291回: あの衝撃的なラストシーンは2CVで撮影されていた!?
『ヌーヴェルヴァーグ』 2026.7.9 1959年のパリで、ゴダールが『勝手にしやがれ』の撮影を開始。脚本もなく演出はその場で指示するという型破りのスタイルに、俳優もスタッフも困惑し現場は混乱を極める。はたして映画は無事に完成するのか……。 -
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か
『シラート』 2026.6.4 失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
第289回:最強の格闘家は破壊されるクルマに自分を重ねた
『スマッシング・マシーン』 2026.5.14 ドウェイン・ジョンソンが映画化を熱望した伝説の格闘家マーク・ケアーの栄光と没落の人生を描く。東京ドームで行われた総合格闘技イベント、PRIDEグランプリ2000を完全再現!
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。










