第211回:「はりはり仮面」のおまけは生きていた!? イタリアのおもしろステッカーを紹介
2011.09.16 マッキナ あらモーダ!第211回:「はりはり仮面」のおまけは生きていた!?イタリアのおもしろステッカーを紹介
史上最強の食玩
ボクが子供だった1970年代中盤に、「はりはり仮面」というスナック菓子があった。チューインガムやコーラ、『サンデー』や『ジャンプ』といった漫画雑誌がNG(小学館、集英社さんごめんさない)だった親が、なぜ「はりはり仮面」は買ってくれたのか、今もわからない。
本体のお菓子は単なるチョコレートバーであるが、面白かったのは、その「おまけ」であった。「おまけ」とは小さなステッカーだ。そこに印刷してある文字やイラストがおかしかったのだ。お笑いネタを文字で説明するほど野暮なものはないがあえて説明すると、トイレに座って水洗のヒモを引く男子のイラストとともに「文部省すいせん」と書かれたもの、座布団に座ったおじいさんの絵とともに「人間国宝」の文字、さらには「校長室」「女湯」などといったステッカーが入っていたこともあった。この「おまけ」ステッカー、クラスメートたちも、文房具などに貼って楽しんでいた。
ステッカーは“本体”である菓子とのシールドが悪く、匂いはおろか、ときおりチョコがこびりついていたこともあったが、それでも一生懸命集めたものである。
昨今いわゆる「食玩」の玩具部分がエスカレートするなか、価格対エンターテインメント性のコストパフォーマンスで、「はりはり仮面」を超えるものはいまだないと信じている。
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キーワードは自慢?
今回の話題はステッカーである。こちらで路上のクルマを観察していると、さまざまなステッカーやプレートに遭遇する。
夏のおきまりは、フェリーもの【写真1】である。船の出発前や航行中にスタッフが船倉内のクルマに貼るものだ。フェリー会社としては良い宣伝だし、ドライバーにとっては「夏休み行ってきたぜい」という自慢になる一石二鳥である。
フェリー会社のなかには、ステッカーに「サルデーニャ」「エルバ」といった航路だけでなく、西暦まで印刷しているところもある。ステッカーが古くなるにしたがって、自慢パワーが薄れることを狙ったものだろう。巧妙で計画的な陳腐化である。
次はここ数年、イタリアで流行しているものである。アウトストラーダのサービスエリアやガソリンスタンドの売店で買える「名前プレート」だ。
【写真2】のBMWワゴンオーナーは、たぶんシモーネさんという人であろう。ファミリーネームよりもファーストネームのほうが一般的。大抵がキリスト教の聖人にちなんだ名前で、既製品が用意できる欧州ならではの遊びである。そのうえ、シモーネといってもどこのシモーネさんだか判別できない。つまり半分匿名性も保てる。それを考えれば、汎用性・匿名性という論理で、日本でも「小林」とか「渡辺」といったクルマ用名字プレートがあってもいいはずなのだが……。
続くは、「大好きブランド」ステッカーである。所有していたり、応援するブランドのステッカーを貼る自動車オーナーは、イタリアでもよく見られる。その代表はいわずと知れたフェラーリである。【写真3】は2代目「フィアット・プント」に貼ってあるものだ。【写真4】は往年のベスパ整備工場ロゴのステッカーである。その次はドゥカティのクラブ「デスモ・オーナーズクラブ」のもので、ドゥカティスタが乗っていることは間違いない。
「赤ちゃん乗ってます」系の近年のトレンドは、ベビー用品や用品店のノベルティである。【写真6】は紙おむつ「パンパース」の広告を兼ねている。最近の傾向としては「赤ちゃん乗ってます」の文字は小さくなり、明らかに図柄優先になっている。後続車に知らせるというより、「赤ちゃん生まれました」自慢にウェイトが年々高まっている気がする。
後続車に知らせるという意味では【写真7】の「犬乗ってます」というのもある。日本でも似たステッカーが存在することからして、大切なペットを乗せているときにゆっくり走りたい気持ちは、どこの国も同じなのだろう。ついでに府中競馬場近くを走る「競走馬輸送中」と書かれたトラックを連想してしまうのは、ボクだけか?
自虐系もあり
ここまでのいずれのステッカーも、どこかに「自慢」というキーワードが隠れていることは事実だ。それに対して、「自虐お笑い」系もある。
【写真8】は、わが家の近所に止まっていた初代「フィアット・パンダ」である。イタリア語でなんと書いてあるかというと、「大人になったらフェラーリになるぞ」だ。形状からして【写真1】の名前プレートと同様の場所で販売されているのだろう。
「いつかはクラウン」はどこか脂ぎったにおいがするが、「大人になったらフェラーリ」はワハハと爽やかに笑えるところがミソだ。
しかしながら、この位置にいつも置いているということは、ドライバーはウインドスクリーンに反射するプレートを常に見ながら運転しなければならないわけで、ボクだったら気が散って運転できない。かなりの忍耐力ある目立ちたがりとみた。
笑いをとりたいドライパーは、けっしてイタリアだけではない。【写真9】は、ドイツ・デュッセルドルフで見つけた。2代目「スズキ・アルト」である。インドのマルティ社で製造されたバージョンと思われる。
リアウィンドウ上部の文字からして現オーナーはアラビア系かもしれない。それはともかく、下端に貼っつけられているドイツ語ステッカーの意味は、「もし俺が大きかったら、お前らを追い抜いてやるのに」というものだ。
このアルト、オートマチック仕様である。もともとかったるいうえ、古い昔のATで、最新のドイツ製高性能車に交じって走らなければならないことを考えると、ステッカーは笑いをとりたい気持ちのと同時に、オーナーの悲痛な叫びを感じる。
ところで個人的なことを言えば、ボクは「死ぬまでクルマを運転していたい」という考えは毛頭ない。ヘンな運転をしてみんなに迷惑をかけたくないし、そもそも自分でもケガをするのが嫌だからだ。
じいさんになったらパリでも東京でも上海でもいいから公共交通機関が発達した大都会に住み、クルマは好きな人と談義を楽しむ“おはなし派”に徹しようと思っている。
そのあかつきには、路上駐車しているクルマに貼られたステッカーを読みながら、「へー」とか「ほー」とか言いながら毎日夕方の散歩を楽しみたい。ボクの安らかな老後のためにも、自動車ステッカー製作者の皆さんは、「はりはり仮面」を超える面白いステッカー製作に日々頭をひねってほしいと切に願っている。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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