シンガポール生まれのにくいヤツ
電動ミニバイク「モトチンプ」に迫る
2018.01.12
デイリーコラム
ホンダのアレを思い出す
最近、「Motochimp(モトチンプ)」という電動バイクが、乗りもの好きの間で、ちょっとした話題になっている。その名前とスタイルが、かつて個性派コンパクトカーとして大ヒットした初代「ホンダ・シティ」の良き相棒、「モトコンポ」とよく似ていることも要因のひとつだ。モトチンプとは、一体何なのだろうか?
その正体は、シンガポール生まれの愛らしいスタイルを持つ小型電動バイクだ。ボディーサイズは、全長1102mm×全幅655mm×全高1153mmと非常にコンパクト。サスペンションを持たないシンプルな構造だが、原動機付自転車として登録可能で、公道走行を楽しむことができる。性能としては、最高速度は45km/h、航続距離は最長60kmと日常の移動には十分なスペックが与えられている。
充電についても専用の急速充電器で、満充電までわずか1時間と手軽。また、モトコンポのようにハンドルが畳めるため、かさばることなく自動車に積むこともできる。車両重量は50kgあるが、そのうち10kgを占めるリチウムイオンバッテリーは着脱可能なので、積載時や充電時などの利便性も高い。
最大の魅力は、やはりスタイルだろう。シンプルで直線的な部分はモトコンポに通じるものがあるが、赤、青、黄のボディーに、パーツの塗り分けによる、白い縦ストライプが入るのがユニーク。そのポップな感じは、バイクというよりは、まるでおもちゃのようだ。それもそのはずで、デザインを手掛けたシンガポール人デザイナーが、かつて大手おもちゃメーカーの商品デザインにも携わっていた人物と聞けば、まさに合点がいく。
別事業の拡大を視野に
デザインの原案は、デザイナー氏の娘さんが、10歳の頃に描いた「女の子が乗ってみたいバイク」がベースになっている。女の子が好むかわいらしさと、おもちゃの親しみやすさが融合された魅力なのである。名称もデザインも、特にモトコンポを意識したわけではないそうで、スケッチを描いた娘さんが申(さる)年生まれだったことから、バイクを意味する「Moto」に親しみやすい「Chimp」(チンパンジー)を組み合わせた結果だそうだ。
どうやら、シンプルさと利便性を追求したらモトコンポと近いものになった、というのが正解らしい。ただデザイナーは日本好き。「小さくかわいいものを好む」「小さくとも機能性の高いモノづくり」という日本の文化をよく理解しているのだろうなと思った。
そんなモトチンプを開発したのは、シンガポールに本社を置くVanda Electrics社というベンチャー企業だ。同社は、リチウムイオンバッテリーと電動モビリティーの開発を行っており、モトチンプのほかに、EVスポーツカー「デンドロビウム」やEVトラック「アントトラック」の開発も進めており、これらの市販を目指している。全く異なる3種の電動モビリティーの用意する背景には、魅力的な乗り物の普及を通して、バッテリー事業を拡大していきたいという狙いがあるという。将来的には、自社での生産拠点を持つことを考えているそうだが、現時点では、わずか20人ほどの少数精鋭態勢で開発とマーケティングを行うファブレス企業であり、リチウムイオン電池やモトチンプの生産は、中国・シンセンの協力会社で行っている。
世界での販売がどうなっているかというと、まだ香港のアパレルブランドとのコラボで少数を販売したのみで、驚くべきことに正式販売は、実は日本が最初なのだ。これも、開発責任者でもあるデザイナーのこだわりで、日本からスタートしたいという強い要望があったからという。その背景には、小さく愛らしい乗りものを好む人たちが日本に多いためニーズが期待できる、などの理由もあるようだ。
低価格化と女性へのアピールが課題
日本での展開については、蔦屋家電での先行販売に続き、2018年春の正式販売開始を目指し、現在準備が進められている。
日本仕様は、法規対応だけでなく、公道でのロードテストなどのフィードバックをしつつ、性能を向上させた。海外のウェブサイトで動画が公開されているプロトタイプに比べ、現在は加速や最高速度は高められている。
日本法人となるVanda Electrics Japanでは、「価格の面からも現時点では嗜好(しこう)性が高いものなので、まずは1台1台をていねいに売っていき、長いスパンで普及させていきたい」としている。これも、「新たな電動モビリティーを決して一時のはやりにしたくない」との思いからだ。そして今後は、実際のユーザーの声を積極的に聞き入れて、モトチンプを育てていきたいという。
当面の最大の課題は、やはり価格だ。普及を考えると、48万6000円というのは安価とは言えない(編集部注:2018年1月10日に、蔦屋家電・特別価格として39万9600円に価格改定されている)。日本法人も、もちろんこの点は十分理解しているが、日本から販売をスタートさせるという状況がある上に、現時点では生産台数もまだ限られるため、量産効果が得られない。ただ、価格を抑えられるよう努力はしていきたいとのことだ。
女性を意識したモトチンプだけに、日本での初披露の舞台は、2017年3月の「神戸コレクション」だった。しかし、関心が高いのは圧倒的に男性だという。このため、女性ユーザーを取り入れるべく、おしゃれなヘルメットなど専用アイテムの開発にも力を入れていきたいとのこと。
電動バイクの市場は、EV同様にまだまだこれから。日本が大好きなデザイナーが手掛けたシンガポール生まれの電動ミニバイクが、日本でどのように育ち、世界に発信されるのか。乗り物の電動化が進む今、身近な電動車としてモトチンプは興味深い。何はともあれ、まずは試乗してみたいと思ったのは、筆者だけではないだろう。購入希望者に対して、今後のどのように触れあう機会が与えられるのかにも、注目したい。
(文=大音安弘/写真=Vanda Electrics Japan、編集=関 顕也)
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大音 安弘
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