第23回:車検だヨ! 全員集合(後編)
2018.02.28 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
2年に1度の恒例行事であると同時に、一部のオーナーにとってはカーライフ最大の鬼門でもある「車検」。中古並行・改造歴有りなwebCGほったの「ダッジ・バイパー」は、無事にもろもろの検査をパスすることができたのか? 飛び去っていった諭吉の枚数とともに、赤裸々にリポートする。
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予想外のスケジュールに大混乱
基本的には不定期で、時にはひと月以上も間が開いてしまう本連載である。「次はまだなの?」「すわ打ち切りか?」と毎度のごとくハラハラしている御仁(そんな人いるのか? いてほしいな)におかれては驚いたことだろう。2月は一年のなかで最も短い月だというのに、なんと2度も更新してしまった。ぶっちゃけ記者も驚いた。予想外のことだった。
なんでこんなことになったかというと、わがバイパーが予想以上に早く、車検から帰ってきたからである。前回……あの「ドロ泥の香りがプンプンするぜ」と締めくくった第22回が一般公開されたまさにその日に、相模原のコレクションズさんから「車検通りましたヨ」と連絡が入ったのだ。その時の記者の心持ちを想像してみてほしい。なんという気まずさ。なんという間の悪さ。まったくもって、お店に顔を出しづらい。
さらに言うと、記者にはこのとき、お店に顔を出しづらいもうひとつの理由があった。引き取り予定日の2月10日は、千葉県は市川の実家で過ごすことになっていたのだ。というのも、編集部で借りていた撮影車両の「フォードF-150ラプター」が、あまりにデカすぎてビルの駐車場に止められないことが判明(先に気付けよ)。急きょわが家が管理する、平置きの駐車場で保管することとなったのだ。
この結果、本来なら片道小1時間で済むはずだったバイパー引き取りの道のりは、市川→(徒歩と電車で2時間)→武蔵野→(代車で1時間)→相模原と、実に3時間に膨れ上がることとなった。往復で都合6時間の小旅行である。往路で武蔵野に寄らなきゃ多少は短縮できただろうが、このときはくしくも代車を借りていたので、それもかなわず。入庫時に迷惑をかけているから(前回参照)日程を変更するのも心苦しい……と、もろもろの不都合が見事に積み重なり、とんでもなく面倒くさいことになっていた。
ああ神様仏様、もしもホントにおはすなら、貴様らゼッタイ俺の敵だ。
車検で引っかかった不具合の数々
そんな訳で2月10日、記者は代車の「メルセデス・ベンツBクラス」を駆って、鶴川街道を相模原へと向かっていた。休日だっつーのに見慣れたJRに揺られ、都合1時間の歩行を経てわが家(武蔵野の方ね)にたどり着いた記者の心身は、すでにボロボロ。ホント、ちょい古Bクラスの癒やしの走りが骨身に染みた。ありがとうダイムラー。
3連休初日の渋滞を菩薩(ぼさつ)の境地でやり過ごし、いつもの2倍の時間をかけて“相模原のオアシス”ことコレクションズさんに到着。クルマ置き場にBクラスを止めて(3週間お世話になりました)工場をのぞいてみると、わがバイパーはすっかり帰り支度を整えて待っていた。
人に気をもませておいて、しかも一番面倒くさいタイミングでご退院か。おまえ、ホントいい性格しているな。
などと無機物相手に嫌みをくれてもしょうがないので、そろそろ真面目に、今回の施術内容をリポートしましょう。前回の紹介はちょっと大ざっぱすぎたうえ、新たに追加された項目もあるので、まずは車検で引っ掛かったポイントをあらためておさらいする。
(1)ヘッドランプのカットオフができていない
(2)排気音がデカすぎる
(3)サイドマーカーの装着位置が悪い
(4)ウインカー点灯時にポジションランプが消えてくれない
(5)2つのウインカーが交互に点灯してしまう
以上である。5つの項目のうち、実に3つがウインカー関連というのが何とも言えない。ホント、これまでどうやって車検に通っていたのやら。(5)などは一目見てわかるレベルの欠陥だというのに(ドライバーからは見えないけどね)、今まで警官に呼び止められなかったのが不思議でしょうがない。
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恥はかいてナンボです
それでは各項目について、じゃじゃっと解説させていただく。
まず(1)について。ご存じの方も多いと思うが、自動車のヘッドランプは対向車の眩惑(げんわく)を防ぐため、ロービーム時の照射範囲を一部遮断することが義務付けられている。具体的には、クルマが左側通行の日本では右上方への配光がカットされているはずなのだ。ところが、わがバイパーはアメリカ仕様のまま、すなわち左上方の配光がカットされ、右上方の配光はそのまんまだったのだ。というわけで、ヘッドランプを分解&加工。車検に適合するよう照射範囲を調整してもらった。
……ちなみにワタクシ、前回の記事内でこの不具合を「ヘッドランプのレンズカットができていない」と記していますね。お察しの通り、これは弁明の余地のない盛大な勘違いである。入庫時に受けた説明を失念し、電話での経過報告を聞き間違え、しかも勝手に独自解釈。「レンズカットって車検に影響があるんだ。へえ~」などと、新しいことを知った風だった自分を恥じるばかりである。大変申し訳ありませんでした。
かように自身の黒歴史をwebに刻みつつ、哀しみの連載は続く。顔を上げ、前を向いて話を(2)に進めよう。といっても、この排気音問題については特に語ることはないんだよね。マフラーにあれこれ突っ込むなどして、対処してもらっただけである。排気が細くなったことで、8リッターのデカブツが機嫌を損ねないよう切に祈る。
後は懸案のウインカー三連星。まず(3)だが、日本の法規では車両後端から横に1m離れた場所からサイドマーカーが見えないと車検を通らない。が、ノーマルのバイパーにはそもそもサイドマーカー自体が装着されていなかった。かつて初代バイパーを正規輸入していたインポーターは、フロントホイールハウスの後方にサイドマーカーを追加することで対処していたというが、1枚モノのフロントカウルにドリルで穴をあけるというのはさすがに忍びなさすぎる。貧乏性な記者は、フロントバンパーのウインカーのレンズを、後ろからも見えるよう出っ張らせることで対処してもらった。
お財布への負担は“普通のクルマ”と変わらない?
次に(4)。これはポジションランプとウインカーを、ひとつのランプでまかなっていたことから起きた問題である。ウインカーを作動させたとき、点滅の“滅”の状態でもポジションランプ分の電流が流れていたため、ランプが薄く光り続けていたのだ。最後の(5)については、読んで字のごとし。バンパーに備わるウインカーとコンビランプ内のウインカーが交互に点灯するようになっていたので(なんでやねん)、(4)ともども灯火類の電気回路をなんやかんやして直してもらった。
以上が、今回の車検における施工のすべてである。
なお、ジドーシャにまつわる法規のあれやこれやは、クルマの種類や登録年次などで大きく異なる。本稿の内容は、あくまで「2006年初度登録のダッジ・バイパー」に限った話として理解していただきたい。説明もかなりはしょっているので、これを参考にオーナー車検なんかしちゃだめだゾ。……まあ、そんな人いやしないでしょうが。
最後に、今回もまたお支払いの内容を潔く披露させていただく。
2018年の車検に要した費用は、重量税と自賠責保険の支払いを含め、以下のとおりとなった。
19万8688円(税込み、法定費用含む)
うん。はっきり言って拍子抜けである。
自身のFacebookの書き込みを掘り返すと、かつてのマイカー「ローバー・ミニ」の最後の車検にかかった費用は、18万円だった。隣席の藤沢青年に聞いたところ、“ワッペングリル時代”の「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」は15万円だそうな。
20万円弱というバイパーの車検代、正直安くないか? 安いよね? そりゃ国産コンパクトカーとかと比べたら高いけどさ。本連載にしては珍しく愛車自慢させてもらうと、バイパーって腐っても最高出力450psで、当時のGTやら耐久レースやらを総ナメにした高性能スポーツカーですぜ。同年式のライバルを想像してみてくださいよ。この値段で車検をパスできそうなクルマ、あります?
昨年のトラブルからの復活劇でも感じたけど、バイパーって基本的にメンテでお金のかからない、オーナー孝行なクルマである。次のマイカーに「毒ヘビなんてどうでしょう」などと考えている読者諸兄姉のアナタ、じゃんじゃん清水の舞台からバンジーしてください。こっちの水は甘いですよ。フフフ……。
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頑丈なスポーツカーであることは間違いない
……はい。ウソをつきました。
古き佳(よ)きアメリカ人の手作りスポーツカーが、そんな素直でいい子なワケないでしょ。自動車ライターの渡辺敏史氏をして「ガサツなTVR」(このパワーワード、強烈過ぎる)と言わしめたクルマですよ。甘く見ちゃいけません。
確かに、この1年ちょいの経験から察するに、メカトラブルに強いというのは間違いなさそう。設計はシンプルでゆとりがあるし、壊れやすいハイテクはナシ。汎用(はんよう)部品も多い。大衆ブランドのクルマなので、いわゆる“お布施”を支払わされる心配もなさそうだ。そういう点では、はっきり「お財布に優しいクルマ」といえるだろう。
ただ、コレクションズの本多代表にお話を聞いたところ、予想外の場所にワナが仕掛けられているのもまた事実のよう。タイヤは漏れなくスーパーカーサイズなので交換費用に覚悟はいるし、ウィンドウモールなどを中心に、ゴム類には少しずつ欠品が出始めているという。しかし、それらはまだまだ小粒なトラップ。本命は別のところにいるのだ。
そんな訳でクイズです。
本多さんいわく、初代バイパーには「交換費用300万円」というとんでもない部品があったそうなのだが、いったいそれはなんでしょう? 答えは次のページですので、ググッたりしないで、ちょっと考えてみてください。
ヒント:「シボレー・コルベット(C4)」のオーナーならピンと来るかも。
いろいろな人に聞いてみましたが……
……読者諸兄姉の皆さま、答えが分かったでしょうか? それでは発表します。
正解はずばり、フロントカウルです。
メカもエレキもついていない樹脂製の板っきれが、300万円もしたのだそうな。
いやね、最初は記者も疑った。かつてインポーターが顧客や保険会社に請求していたというこの額に、「ぼったくりすぎだろ!」とあきれたものである。しかし、いろいろな人にいろいろ話を聞いたところ、どうもこれが適価だったようなのだ。
初代バイパーのフロントカウルは、とにかくデカい。デカすぎる。そして、これだけデカい樹脂製のパネルは、それだけでも製造、加工が大変らしいのだ。そのあたりに詳しいライターの大音安弘さんに聞いたところ、「樹脂製だと複雑な形状にも対応できるメリットがある反面、強度や寸法出し、表面の仕上げなどを考えると、大きなパーツの製造にはやはりノウハウや手間が必要なんですよ。それにこれだけデカいとなると、作るのはもちろん保管もオオゴトでしょう。輸送や梱包(こんぽう)の費用だってバカにならないでしょうし……」とのことだった。
実際、メーカー純正のフロントカウルのお値段は「当時で1万7500ドルから1万8000ドルくらいしたかな?」(コレクションズ本多さん)。んなアホな、と思ってデスク竹下に確認したところ「そんな珍しいことではないヨ」とアッサリ言われてしまった。「例えば、ベンツの『190EエボII(メルセデス・ベンツ190E 2.5-16エボリューションII)』の外装品、確かバンパーとリアウイングのセットで当時150万~180万円ぐらいしたと思うよ」
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車両保険をケチるのはNG
かように異常な高額商品のバイパーのフロントカウルだが、あれだけデカイと気になってくるのがアメリカ→日本間の送料である。これまたコレクションズの本多さんに聞いたところ、「実際に発注したら、とんでもない大きさの木枠に入って送られてきた。空輸だったのもあるけど、費用はなんだかんだで3000ドルくらいかかった」そうな。
これらの情報と、初代バイパーが正規販売されていた1997~2003年当時の為替を照らし合わせてみると、「……300万円って、ぼったくった額ではないのかも」と思えてくるから恐ろしい。
ちなみに、バイパー同様、C4世代のコルベットも逆アリゲーター式のフロントカウルを採用していたが、さすがに方々で顰蹙(ひんしゅく)を買ったのか、両車とも次の世代ではフェンダー別体のフツーのボンネットに変更されている。そりゃそうだよね……。
いずれにせよ、維持補修についてはメカ系とボディー系とで費用感がずいぶん違うのが、このクルマの特徴といえそう。後者で怖いのはやはり事故の類いなので、購入に際しては車両保険にキッチリ入っておくことをオススメします。
保険料が上がってしまうのは痛いけど、e-Bayとかをあさったところ、中古品や社外品などを狙えば、当時よりはずっと安価にフロントカウルも手に入れられそう。万が一の場合は修理屋さんと結託し、保険会社に300万円請求しつつ修理費を抑えて利ザヤを山分け、なんて……ぐふふ。
……いやいや、冗談ですよ。清廉潔白なwebCG編集部員が、そんなことするわけないじゃないですか。やだなあ、皆さん。
いや、マジで冗談ですからね?
(webCG ほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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