第47回:114万9019円の愉悦
2022.12.21 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
限りある石油資源をむさぼり、今日も生ガスをばらまいて走るwebCG編集部員の「ダッジ・バイパー」。今年に入り、ずっと不調だった毒ヘビが、このほど整備から帰ってきた。どこを直し、どう変わったのか? どれくらい諭吉が飛んだのか!? 赤裸々にリポートする。
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今回のハナシは長いですよ
読者諸兄姉の皆さま、こんにちは。こよいも浮かれた師走の街に唾を吐く、webCGのほったです。今回はちょいと、バイパーの保守についていささか込み入った話をしたい。先に言っておきますが、長いんでお覚悟あれ。
早速だが、このほどバイパーが修理から帰ってきた。……なんていきなり書いたら、以前から当記事を読まれている方は、「え? 入院してたの?」と思うことだろう。そりゃそうだ。前回のリポート(もう2カ月以上前だ)でもそんなこと書かなかったし。なんせ入院も退院も、あまりに急だったのだ。今秋にちょいと多摩・笛吹と出かける用事があって、その直後に入庫。このタイミングで久々に旅のリポートでも……と考えていたところ、予想外にもアッサリ退院とあいなった。「今回も長期入院かな」と思っていたので、当方も当惑している次第である。
過去にも何度か紹介しているとおり、今年(2022年)に入って筆者のバイパーは、ずっと調子が悪かった(参照その1、その2)。長年の不摂生によるアレやコレやが、年初の健康診断(=車検)で一気に露見したのだ。主たる症状は以下のとおりである。
(1)車体の右流れ
ハンドルを常に左に切っていないと、真っすぐ走らない。車検の際、インナーロッドに不具合のある左後輪のみセッティングができなかったため、右後輪のトーインを打ち消せなくなったのだ。
(2)ブレーキの“吸い込まれ”
ブレーキペダルを踏み込む際、ブレーキが利き始めるポイントがときどき奥まるようになった。いわゆる“吸い込まれる”というやつで、2、3度だが、さしたる手ごたえもなく「シュコ」っと奥までいって冷や汗をかいた。そういう場合は、素早くリリースして再度踏み込むと、2度目は利く。
(3)クラッチの摩耗
年貢の納め時である。
部品が手に入らない
さて。計画的な愛車の保守に努める皆さまは、首をかしげることだろう。「車検で発覚」とか「今年ずっと不調で~」というくらいなら、なぜもっと早くに手を打たなかったのか? 理由は簡単。とにかく部品が手に入らなかったのだ。原因は、お察しのとおり昨今の情勢不安……ではなくて(それも影響しているのだろうが)、それ以前にシンプルに、わが相方も古いクルマになったのだ。
例えば今回交換したクラッチレリーズシリンダー、実は配管関係を除くコアの部分は、「フォード・ブロンコII」あたりと共通のものだったりする。……そう、今から30~40年も前につくられていた、ブロンコIIと同じものなのだ! いかに流用できる部品があるといっても、ここまで古ければ入手もムズくて当然だろう。
古参の読者諸兄姉のなかには、「バイパーなんて最近のクルマ」と思う人もいるかもしれないが、ここ日本で“初代”といって想起されるGen1・Gen2の生産期間は、1991~2002年。初期の個体ならトヨタ博物館クラシックカー・フェスティバルにも参加できるわけで、このクルマはもう、クラシックカーの世界に片足を突っ込んでいるのだ。今回の修理でも、“右流れ”の原因だった左リアのインナーロッドはついに部品が見つからず、「長さが同じGen3のフロント用を分解→車体側の締結部をGen2リアのものと付け替えて装着する」というアクロバットな技を駆使することとなった。
いずれにせよ、この世代のクルマは今後、部品供給が先細りするのは必定。バイパーオーナーに限らず、車齢20年ほどのクルマを所有する御仁はお覚悟あれ。
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なに考えてんだショーバーグ?
かように、入院前からあまたの困難が立ちはだかったわがバイパーの手術だが、入庫時にもきやつは余計なサービス精神を発揮し、またメカさんによると、作業着手後も波瀾(はらん)万丈あったようだ。
まずブレーキの“吸い込まれ”についてだが、イザってときに症状が現れない。今回の修理も神奈川・相模原のモパー専門店、コレクションズさんにお願いしたのだが、わがバイパーは本多代表やメカさんの前でだけ、いい子に戻るのだ(怒)。入庫予約で散々「ブレーキが……」と騒いでおいてこのありさまなのだから、筆者のいたたまれなさといったらない。
だいいち、症状が出なければ原因究明も対策もあったもんじゃない。仕方がないので今回は、こうしたトラブルで考えられる主要因……すなわち「マスターシリンダーの不具合」と「エンジンの排気熱によるべーパーロック現象」の両方を想定して、施術を実施。経過を見ることになった。ここでちょっとクルマに詳しい人なら「排気熱によるベーパーロック現象って、どゆこと?」と思うことだろう。実はバイパーのブレーキラインは、一部がヘダース(エキゾーストマニホールド)の近くを通っていて、排気の熱でブレーキ液が沸くことがあるのだそうな。なんでこんな欠陥構造になっているのか? ロイ・ショーバーグ(初代バイパーのチーフエンジニア)を小一時間ほど問い詰めたいところである。
またクラッチのリフレッシュに関してだが、こちらではメカさんから興味深い“バイパーあるある”を教えてもらった。なんとGen1、Gen2のバイパーは、下からトランスミッションを降ろせる構造になっていないのだ。皆さんご存じのとおり、通常、FR車のトランスミッションを降ろす際は、エンジンから切り離したそれを後ろへ引き抜き、しかる後に下へと降ろすかたちをとる。しかしこのクルマでは、フレームの突起や梁(はり)が干渉して、それができないのだ。シフトカバーも開けられるようにはできていないし、到底、この辺のメンテナンスを想定したつくりになっていない。本当に、なに考えてんだショーバーグ……。
シフトカバーについてはまぁ、無理くりビスを引き抜くしかないわけだが、その後はどうするのか? エンジンとトランスミッションケースの狭い隙間に手を突っ込んで作業するのか? あるいはエンジンごとフロント側から引き抜くのか?(正解は次のページで)
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整備以前とはまさに別物
それでは正解だが、バイパー歴ウン十年、コレクションズのレース車も面倒を見てきたというメカさんが編み出した秘術は、フレームとトランスミッションケースの干渉部分を電ノコでぶった切るというものだった。乱暴に思われそうだが、実際のところこれが最も現実的で、クルマ的にも問題なく、コスト(=請求費用)も抑えられるのだとか。皆さん、当たりましたか? ちなみにこの意味不明なバイパーの構造は、Gen3以降は解消されているという。クライスラーがダイムラーと合併したタイミングだし、ひょっとしたらおヒゲのツェッチェ会長が、「ナニ考エテンデスカ⁉」とエンジニアを問いただしたのかもしれないね。
さて、そんなこんなで無事武蔵野に帰ってきたわがバイパー。肝心のその仕上がりはというと、まさに会心。入庫前とはクルマが別物だった。どこが違うのか? なんもかんも違うのである。それこそ始動時のエンジンのかかり方からして違って、今までは「ぼわーん!(爆音)」だったものが、「ざーん!(爆音)」と軽くかかるようになった。走らせても車体の右流れが解消されたのはもちろん、直進性が段違いだ。それこそハンドルを指でちょいとつまんでいるだけでも、真っすぐが盤石。過去にも修理やタイヤ交換のたびに直進性が増した感覚はあったが、今回は圧巻だった。
ブレーキも同様で、吸い込まれ病が治りましたとか、そういうレベルの話ではない。ペダル操作に以前はなかったストローク感が出ていて、最初はぎょっとしたほどだ。今までは、ぺダルの操作が重い……というか極端にカタくて、操作量というより足裏の圧、普通のクルマで言うと、ベタ踏みから先のところで常に操作しているような感覚だった。そして筆者は、この6年間ずーっと「バイパーのブレーキはこういうもの」と、それを普通に受け止めていた。今回はなにもかもが、ホントに目からうろこである。
最後は、順番でいくとブレーキ、ハンドルと並んでダメダメだったクラッチの話だが、その前にシフトについても語らせてほしい。このかいわいではクラッチしか触っていないはずなのだが、なぜか、喜ばしいことに、シフトフィールが劇的によくなっていたのだ! 擬態語で表すと「ぬたっ(Before)」から「ゴリっ(After)」。特にギアが温まっているとそれが顕著で、ニュートラルからゲートを選ぶとき、最後にギアがかみ合うときに、過去にはなかった硬質な感触がある。いやはや。バイパーでシフトフィールを語りたくなる日がくるとは思ってもみなかった。それも自分のクルマで。
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ニヤニヤが止まらない
もっとも、この変化は恐らく、トランスミッションの脱着による副次的なものだろう。なにせ今回は、シフトの中身には手をつけていないはずだから。一方、本題であるクラッチのオーバーホールがもたらした直接にして最大の変化は、クラッチペダルが軽くなったこと、そしてミートポイントが変わったことである。
もともとこのクルマは、ミートポイントが極端に手前で、買ったときから「こりゃ、いずれはクラッチやらんとダメだな」と思っていた。で、今回の施術でそのミートポイントが奥まった位置に移ったのだ。縄文体形の筆者からすると、頑張って足を伸ばさないと操作が難しく、またアクセル/ブレーキペダルとの位置のギャップもデカすぎる。つくづく、このクルマが本来何者であったか……すなわち「足長の巨人が闊歩(かっぽ)する、かの国のドメスティックなスポーツカー」であったことを思い知らされた。
なんにせよ、ブレーキのさじ加減やクラッチをつなぐタイミングなど、これまでの6年で体得したマイ・バイパーの走らせ方は、すべてご破算である。こりゃ今までの運転の仕方じゃだめだな。ドラポジも研究し直さにゃ……。なんて思いつつ、しかし筆者は、気持ちの悪いニヤニヤが止まらない。
今回の整備に要した費用は、アライメント調整を含め65万0320円だった。年初の車検のぶんを含めると、2022年の出費は締めて114万9019円ということになる。武蔵野在住のひとやまいくらの民草には、それは痛い出費である。しかし、人の不幸がダイスキな読者諸兄姉には恐縮だが(笑)、筆者は今、悪い気分ではないのである。
新車時のGen2バイパーがどんなクルマだったかをワタシは知る由もない。しかし、今のわが相方が、これまでで最もそこに近づいたのは間違いない。手間をかければかけたぶんだけ、クルマが“あるべき姿”に戻る感覚、そのたびにもたらされる新鮮な体験は、こうしたクルマと長く付き合う醍醐味(だいごみ)だろう。長年にわたり「ルノー・セニックRX4」に泣かされてきた川崎在住のカメラマンも、この主張には大いにうなずいてくれるはずだ。
今回、施術を請け負ってくれたメカさんによると、筆者のバイパーにはトランスミッションを降ろした痕跡がなかったという。2000年に工場を出てから、一度もオーバーホールを要することなくここまで走ってこれたのだ。ならば次にクラッチを開けるのは、2044年、走行距離18万kmのときか。そのときまで、またよろしく。
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オマケ ~新しい発見~
……本稿は前項にて終わりであるが、オマケとして、今回の件で得た筆者の新しい知見を披露したいと思う。読者諸兄姉のカーライフに役立てられれば幸甚なので、ご興味のある方は、ぜひお付き合いください。
(1)車齢が20年を過ぎたクルマは大胆に修理せよ
筆者はこれまで、車検やささやかなトラブルのたびに、「こことここを直して、あとは次回に先送り」とチマチマとした改修を続け、漸進的に寛解を目指してきた。しかしこの年式ともなると、その方法ではいざってときに「部品がもう無いから直せません」といき詰まる可能性がある(現にそうなりかけた)。ある程度年がいったクルマでは、直せる部分は直せるうちに、ドカンと直しましょう。
(2)自分で部品を調達するのは非常にリスキー
今回の修理にあたり、コレクションズさんが取り寄せたクラッチレリーズシリンダーだが、なんと3個頼んで2個使えないものが届いたという(写真Aキャプション参照)。こうした例を見るにつけ、「市場からなくなる前に」「ちょっとでも安く欲しいから」といって、個人がネット通販で直接部品を購入するのは非常にリスキーだと思う。特に海外から部品を調達するのは、その作業自体を楽しむのでなければ避けましょう。ちなみにコレクションズさん、ダメな2個は魔改造してバイパーでも使えるものにするそうです。
(3)そのクルマに詳しいお店を知っておこう
長くクルマを保持していると、ディーラーで買ったものでさえ、そのディーラーから「もう部品が出ないから面倒見ないよ」と三くだり半を突き付けられることがある。そうした際に途方に暮れないよう、かいわいで“駆け込み寺”になっているお店とは、平素からコネをつくっておきましょう。本稿でも紹介したような、無い部品を代用品で補ったり、創意工夫でこさえたり、はたまた独自の作業法で手間と工賃(≒顧客への請求額)を抑えたり……といったワザは、ノウハウの蓄積したお店にしか期待できません、ホント。
(4)バイパー買うならGen3がオススメ
ご多分に漏れず値上がりが進むバイパーだが、年式の都合もあってGen1、Gen2の相場はまだ現実的。それに、このヌメヌメした造形に「毒ヘビのオリジンといえばこれでしょ!」といって指名買いするファンも多いと聞く。しかし、はっきり言います。Gen2のオーナーが言います。あんまりオススメできません(泣)。理由のひとつは古いから。そしてこれからどんどん部品が欠品していくから。本稿でも触れたとおり、クルマのつくりもヘンテコだしね。それじゃあどの世代がオススメなのよ? と問われれば、今はやはりGen3だと思う。この世代は、ちまたじゃR33の「スカイラインGT-R」みたいなあつかいを受けているけれど(双方のオーナーさんゴメンナサイ)、ダイムラーの血が入った時代の製品だけに、Gen2以前とはモノのデキが違います。Gen4、Gen5との構造的な共通点も多いし、部品の調達もGen1・Gen2ほど困らないはず。バイパーが欲しいという奇特な御仁がおられましたら、ぜひ心の隅に留め置きください。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、コレクションズ/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。