【番外編】バイパー、能登へ行く
2025.01.09 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
排気量8リッターのアメリカンマッスルカー「ダッジ・バイパー」で目指すは深秋の日本海。その旅程で記者が覚えた、AIやデンキに対する考えとは? 最後の目的地である能登半島の突端で思ったこととは? webCG編集部員が、時代遅れの怪物と中部・北陸を駆ける。
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2泊3日で中日本を縦・横断
読者諸氏の皆さま、こんにちは。webCGほったです。皆さん健勝であろうか? こちらは息災だが(健康診断の結果は信じない主義)、どうせ画面の向こう側に、私の体調なんぞに興味がある人はいなかろう。興味があるのはバイパーの様子だけ。ご安心あれ。今日も元気に飲んだくれておりますよ。バカ高くなったハイオクガソリンを。
思えば当連載も更新をやめてはや2年。あのときはバイパーのもろもろを修理し、個人的にやり切ったので「もうええか」となったのだ。以降、一度も更新をしなかったのは、本当に書くようなことがなかったから。バイパーはあれから一度も壊れていないし、語るに値するイベントがあったわけでもない。最近、徐行時にリアからカラコロ音がするようになったので、折を見ていつものバイパー屋さんに診てもらおうと思っているのだが、本当にその程度(?)だ。
だったらなんで今回筆を執ったのかというと、新年が巳年(へびどし)だから……じゃなくて正月があまりに暇だったから。9連休ってあんた、生活の95%が仕事でできてるワーホリに耐えられるわけないでしょう。というわけで、特段ネタがあるわけでもないのにこうしてPCと向き合っている次第である。せっかくなので、昨今の思うところも織り交ぜながら、昨秋行った中日本縦走ツアーのことを書こうと思う。
あれは10月末のこと。例によって労基対策の有給消化を厳命された記者は、ちょっと能登に行こうと思った。さっそく2泊3日の旅程を組み、適当な宿を適当にポチる。「忘れ物は現地調達」の精神で荷造りし、軽快に家を出たのは10月27日午前5時55分のことだ。月末なので記者の貧乏スマホには通信制限がかかっているが(=ナビアプリがあんまり使えない)、初日のゴールは湯田中で、道のほとんどは既知のもの。まあ問題なかろう。
練馬ICから関越に乗り、碓氷軽井沢ICで上信越を脱す。御代田のパン屋で朝食をむさぼったら、向かうはわが心の聖地・浅間白根火山ルートだ。……が、まぁこの辺は過去にも触れた旅路なので(その1、その2)、詳述は割愛する。それにしても、われながらすげえ経路だな。適当の極みだ(笑)。
クルマの旅のだいご味ってなんだっけ?
Googleマップで武蔵野から湯田中のルートを検索すると、最寄りのICは上信越道の信州中野ICと出る。軽井沢から下道なんて、人生の無駄もいいところだ。朝食にしても、御代田でパンを食うのなら佐久ICで降りるべきだし、そもそも能登に行きたいってのに、湯田中というのは実に半端な中継地である。A型の読者諸氏は、泡吹いて倒れているに違いない。
なぜにこんな道をたどったかというと、それは記者が、無駄で無計画な旅が好きだから。わざわざ軽井沢から御代田にパンを食いに行ったのは、ICを降りてから「そういえば」と朝食スポットを探したため。事前のルート組みでも、万座まで浅間白根火山ルートで行くか、日本ロマンチック街道で行くかを悩んでいたぐらいで、「高速道路で最寄りのICまで」なんて成功が約束された旅は、ハナから眼中になかった。というか、そんなに効率的に移動したけりゃ、電車使えや(笑)。
……なんて、威勢よくタンカを切ったけど、いや私もわかっているんですよ。こんなことをしてると時代に取り残されるってことぐらい。なにせ最近は、折に触れてはAIの進化に目をむいている日々である。「Honda 0」の技術取材会で触れたAIコンシェルジュ機能にはおったまげたし(参照)、わたくし自身、ついに記事制作で文字起こしアプリや議事録作成アプリの乱用に手を染め始めた。いずれ、それもそう遠くない未来には、「2泊3日で能登に行きたいんだけど」と口にするだけでクルマが自動で旅程をこしらえ、自動で旅館の予約までしちゃう時代が来るのだろう。
それでもなお、記者は「こういうのはな、面倒なのが楽しいんだヨ」と斜に構えていられるだろうか。……いや、自分は案外「ケッ」とか言ってそうだな(笑)。でもご世間さまはどうでしょう。“便利”って凶暴だもの。やはり一気に意識が変わり、こんな旅行は昔話になってしまうかもしれない。
そして同時に思うのだ。そうなった時代には、クラウドにはない体験ってやつは、すべてなきものとされてしまうのかな? 偶然の無駄足で、「へぇ、中山道と北国街道の分岐ってこの辺なんだ(追分宿)」なんて学びを得たり、万座・鹿沢口のコンビニから見た景色がお気に入りリストに追加されたり、路傍の駐車場に「なんだろう?」と思って潤満滝に気づいたり、そうした出会いはなくなってしまうのだろうか。だとしたら、記者からしたら、それこそ「そんな旅、電車で行けや」である。
日々の取材でAIやらコネクテッドカーやらの革新に圧倒されるいっぽうで、そこからこぼれるものが気になって仕方がない原始人は、「進歩ってなんなんだろうな?」と、湯田中の温泉でそんなことを考えてしまった。
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やっぱりまだ、EVは選べません
ツアー2日目の行き先は、石川県の南部に位置する白山である。ユネスコの世界ジオパークにも指定される、雄大で自然豊かなエリアだ。湯田中からだと、これまた新潟まで出て北陸道・東海北陸道と走れば手っ取り早いが、そんなぬるま湯を選ぶ我が輩ではない。目指すは北アルプス越え。長野道を松本まで下ったら、高山バイパスにぶちあたるまでひたすら国道158号線を突っ走るのだ。
この区間の158号線といえば、「これが国道かよ?」と誰もが戦慄(せんりつ)するデンジャラスロード……というのはちょっと大げさだが、なかなかに走りがいのある山坂道であることは事実だ。絶望の安房峠はトンネルという名のショートカットが開通しているが、それを勘案しても全線の難易度は低いとはいえず、しかも同日は随所が補修工事による交互交通となっていたため、走破はなかなかにハードだった。とりあえずわがバイパーは、そこらじゅうでアゴを擦った。
いっぽう、梓川沿いの渓谷などは紅葉が本当に素晴らしく、記者はすきを見てはクルマを止め、景観を激写しまくった。で、途中で気づいたのである。アレ、俺、この道走ったことあるぞ。そして思い出したのだ。雨のなか、金沢-軽井沢間で行われた「トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ」試乗会の悪夢を(笑)。
あのときはwebCGチームにあてがわれた試乗車が電欠しかけ、本気で怖い&寒い思いをした。で、電気自動車(EV)は万能にあらず、少なくとも記者のような無計画野郎には向いてないといった旨を正直にコラムに書き(参照)、無事袋だたきにあった(笑)。今、世間ではEVの普及は踊り場に来ているご様子(無難な表現)。当時、記者のリポートをくさした皆さまに「ザマーミロ!」と言うつもりはあまりないが(ちょっとはある)、やっぱあのとき覚えた実感は、そんな的外れなものではなかったよなと思う今日この頃だ。
今回の旅にしても、3日間の総走行距離は1255.3km。既述のとおり気まぐれに寄り道しまくったこともあり、ときには「これ、目的地まで燃料もつかな?」と冷や汗が垂れた。それでもなんとかなったのは、「なにかあっても、どっかにスタンドあるでしょ」という安心感があったから。ガソリンスタンドにたどり着きさえすれば、正味5分で400kmの航続距離がチャージできるとわかっていたからだ。泊まった宿は2カ所とも充電器なんてなかったし、やはり無頼な旅のお供は、EVではまだムリだと思う。
まぁ、こんなこと書いてながら、実は記者も大好きなんですけどね、EV。なんせSF世界の夢の乗り物が、現世を走っているのだ。ときめくキモチは理屈じゃないんだよ。かつて「ホンダe」に未来を見た記者は、今から「N-ONE」のEV仕様や、スズキの「eビターラ」が楽しみでならないのだ。
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2024年10月現在の能登
尾添川沿いのゲストハウスで一泊し、熊肉&キノコ鍋を鯨飲して爆寝したら、いよいよ旅は最終日。目指すは狼煙町・珠洲岬だ。山を下って金沢まで出、のと里山海道を一路北上。そして雄大な日本海にまたも思い出した。この道、ハーレーダビッドソンの試乗会で走ったことあるわ(その1、その2)。昨日に続き、2日連続のなんだかなぁである。
しかし、能越自動車道、珠洲道路と進むうちに、そんな軽口をたたく気分は引っ込んでいった。幹線道路は各所が改修工事中で、そのたびに交互通行の渋滞に遭遇。舗装の亀裂の補修跡か、下道ではたびたび大きな段差に尻をど突かれた。小休止にと立ち寄った「道の駅 桜峠」では、歩行者を保護するポールが倒れたまま。珠洲市ではかしぎ、ブルーシートで屋根や壁を覆った家を方々で見かけ、奥能登絶景街道へ抜ける山道は、奥能登豪雨で路側が崩れたままだった。ごう音を立てるダンプとすれ違うたび、場違いなクルマで来たことに気が引けた。
今回、記者が能登に来ようと思った理由というかきっかけは、主に2つあった。ひとつは恥ずかしながら、「いしかわ応援旅行割」で安く宿が取れるから。もうひとつは所用で仙台へ行った折、道中で「能登を見に行こう」と思い立ったからである。放射線量の掲示板がある四倉PAで、お魚定食を食べていたときだった。
「道の駅 狼煙(のろし)」の割れた駐車場にクルマを止め、周辺を散策する。狼煙漁港では、報道で何度も見た崩れかけの漁協の施設が、そのままの姿で立っていた。白い灯台で有名な禄剛崎は護岸工事の真っ最中で、戻りしなに公園の階段を分断する亀裂に靴をひっかけた。
アゴを擦りながら駐車場を出て、最後の目的地の珠洲岬へ向かう。岸下にある「ランプの宿」は閉じていたけど、自然環境保護センターのほうは開いていたので入ってみた。スタッフに「『青の洞窟』の見学できますよ」と声をかけられたが、丁重にお断りする。翌日に三浦で人と会う約束をしていたので、長居ができなかったのだ。代わりにしおり(本に挟むあれだ)をひとつ買い、5000円札を募金箱に挿してお店を出た。
次は「ランプの宿」に泊まりたい
バイパーに戻り、通信制限中のスマホをモバイルWiFiでネットにつなぐ。武蔵野への帰路を検索すると、北陸道、上信越道、関越道を経由して走行距離580km、所要時間8時間25分と出た。この距離を一気に走るため、ウォークマンには某ロックバンドのデビューからのアルバムを、全部ぶち込んでおいたのだ。二十余年の時の流れを8時間半で追体験。おあつらえ向きに帰路は宵雨に見舞われ、内省に浸るには格好の時間となった。
思い出されるのは、やはり能登の風景である。実際に足を運んで見たその姿は、スマホやPCの画面越しとは全然違う重さがあった。怒りであったり悲嘆であったり、道徳的にはもう少し違った言葉を記すべきなのだろうが、ただ「こたえた」というのが、記者の心象を表す一番的確な言葉だと思う。そこに付け加えるものがあるとしたら、いささかの後ろめたさだろう。
ご世間では、復興の遅れに「国はなにをやってるんだ」と憤る声もあるようで、記者自身いら立ちを抱かなくもない。ただ、じゃあ手前は何をやったんだと問われれば、コンビニの募金箱に釣り銭を収めていたぐらい。義憤を振りかざせるほど立派な立場ではないのだ。せめて、正月をつぶして書いた当記事が、皆さんの胸に2024年10月時点の能登の姿を残せれば、なんておこがましいことを考えている次第である。
旅行から2カ月。震災から1年。Googleマップで金沢から珠洲までのルートを検索してみると、ちょっとだけ経路がシンプルになっていた。ひょっとしたら、新たに開通した道があったのかもしれない。能登が復興したら、ぜひまた珠洲岬に行ってみたい。今度はもうちょっとゆっくりして、青の洞窟を見学して、(おさいふが許せば)ランプの宿にも泊まりたいと思う。
(webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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