第563回:ランボ創業者の伝記映画は2019年に封切り!
クルマ好きを納得させる自動車ムービーのあり方とは!?
2018.07.20
マッキナ あらモーダ!
1世紀を前に
「イベントで会おう」
このところ、フランスのシトロエン・ファンから次々とメールが舞い込む。
今年の夏か? と思ってよく聞けば、なんと来年の話をしているのだった。2019年は、シトロエンの創業100周年にあたる。
厳密にいうと、ブランドのシンボルとなった山形歯車を手がけたのち、第1次世界大戦中に砲弾の大量生産に成功したアンドレ・シトロエン(1878-1935)が、最初の自動車「ティープA」を発売した1919年から1世紀を迎えるのだ。
それに合わせて、シトロエンが所有するラ・フェルテ・ヴィダームの敷地では、2019年7月にメーカー主催のイベントが催される。熱烈ファンとしては、1年前からそわそわしているというわけだ。
もうひとつ、彼らが盛り上がっている理由は、100周年よりひと足先に制作された、予告編ともいうべきショートムービーである。『Citroen Campagne de Marque』。
実際に視聴してみると“Notre vision de la mobilite nait de votre desir de liberte”――私たちのモビリティーのビジョンは、あなたの自由への望みから生まれる――というテーマに納得する。
1分半という短い時間の中に、「2CV」から「Hトラック」「メアリ」「CX」「ヴィザGTi」……と、歴代モデルが次々と登場する。これはシトロエンファンが、1年前から心躍らすに十分なビジュアルである。
本稿執筆時点で、すでに4万6000回以上が再生されていることからも、彼らの盛り上がりぶりがうかがえる。
「伝説の男」を国際編成で描く
いっぽうイタリアでは、ランボルギーニの創始者フェルッチョ・ランボルギーニ(1916-1993)の生涯を描いたアメリカ映画の撮影が2018年春に開始された。
タイトルは仮題で『ランボルギーニ - ザ・レジェンド』と付けられている。公開は2019年の予定だ。
監督は2004年『クラッシュ』でプロデューサーを務めた米国人ボビー・モレスコが務める。
第2次大戦中に軍用車を扱った経験をもとに、まさに裸一貫でトラクター製造を始めたフェルッチョが、やがてスーパースポーツカーづくりに挑戦する姿を綴(つづ)る。同時に、工場従業員との交流、彼を取り巻くさまざまな女性たちとのライフスタイルも描くようだ。
フェルッチョ役は、青年時代を1993年生まれのロマーノ・レッジャーニが、それ以降をスペイン人俳優アントニオ・バンデラスが演じる。現実のフェルッチョがスーパーカー立ち上げ時代に熱いバトルを繰り広げたエンツォ・フェラーリ役には、米国人俳優アレック・ボールドウィンが起用されている。また、フェルッチョがギリシアの戦地で出会ったイタリア娘クレリア・モンティ役は、ハンナ・ファンデア・ヴェストヒュイセンが務める。
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クルマ映画の難しさ
自動車絡みのムービーというのは、一般のものとはまた別の評価にさらされる。
トヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎を描いた1980年の日本映画『遙(はる)かなる走路』は、彼の生涯を知るのに格好の作品である。
ただし、劇中に登場するトヨタの第1号車「トヨダAA型」の造りがオリジナルとは乖離(かいり)している。トヨタ博物館の開館(1989年)に合わせて精密に製作された復元車があれば、よりリアリティーが増したのにと思うと惜しい。
テレビドラマではあったが、エンツォ・フェラーリの生涯を描き2003年にイタリアで放映された『フェラーリ』もしかりだ。日本でも放映されたと聞くから、ご覧になった読者もいるだろう。ボクが見るかぎり、マラネッロやモデナの情景が美しく描かれていて、人間エンツォが生き抜いた大地を十分に感じることができた。
しかしながら、当時イタリアの自動車雑誌では、「あの部分の登場人物のやりとりは、現実と違う」といった議論が活発に戦わされていたのを記憶している。
今回のフェルッチョ・ランボルギーニ伝が、エンスージアストにとっても見応えあるものになるのか気になるところだ。
“親父”の役、ありませんか?
すでに書いたように、フェルッチョの生誕地ボローニャ郊外フェッラーラ県チェント町では2018年春にロケ撮影が開始された。
フェルッチョ時代のランボルギーニを知る元テストドライバー、ヴァレンティーノ・バルボーニ氏に2018年5月に確認したところ、彼も「つい先日、撮影が始まったよ」と教えてくれた。
米国映画であるものの、エキストラのキャスティングはチェントで行われることになっており、2018年春にはその第1回が実施された。当日の記録動画によると、普段は人口約3万5000人の町に、「われこそは」とやってきた人の列ができていた。
地元に住む外国人、子供、お年寄り、自動車ファン、映画愛好家、さらには「父親がフェルッチョを知っていた」という女性と、集まった人々の顔ぶれは多彩だ。
そういえばフェルッチョは、本田技研工業の創始者・本田宗一郎にも会っている。かつてフェルッチョの長男トニーノがボクに語ってくれたところによると、「私の父はイタリア語で、ミスター・ホンダは日本語で話していた。それでも不思議なことにお互い通じ合っていた」という。
キャスティングは第2回のイタリアロケを前に、2018年秋にも行われるらしい。“親父”ことミスター・ホンダ役とかあれば、張り切って応募するのだが。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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