ポルシェ・パナメーラSハイブリッド(FR/8AT)【海外試乗記】
“2桁燃費”のスーパーサルーン 2011.05.25 試乗記 ポルシェ・パナメーラSハイブリッド(FR/8AT)ポルシェの4ドアサルーン「パナメーラ」に追加されたハイブリッドモデルをオーストリアでテスト。その走りと実際の燃費はどうだったのか?
ポルシェ史上もっとも低燃費
1000万円を超えるようなクルマに乗る人は、燃費なんて気にしない――そんな理由で、かような価格レンジに属するハイブリッドモデルを否定的な目で見る人は今でも少なくない。たしかに、そんなモデルの存在意義が燃料消費量の低減によるエコノミー効果にのみあるとすれば、それは「ご意見ごもっとも」だ。
しかし、昨今欧州メーカーから次々リリースされるさまざまなハイブリッドモデルの真の狙いは、かの地で規制が強化されつつあるCO2削減プログラムへの対応と、そうした動きに真摯に対応をしているというイメージを分かりやすくアピールするという点にもあるはずだ。ポルシェがリリースしたこの最新モデルも、まさにそうした中の1台と考えられる。
「パナメーラSハイブリッド」――それが、単なる“環境対応”へのイメージリーダーなどではないことは、欧州の最新測定モード「NEDC」によるCO2排出量が159g/kmというスペックにも証明されている。同じパナメーラの他グレードは「S」が247gで「4S」が254g、「ターボ」が270gで6気筒エンジンを積むベースモデルが218gという具合。ヨーロッパ地域で販売される「ディーゼル」でも167gだから、ポルシェ自ら「史上もっとも低燃費なモデル」と、誇らしげに紹介したくなる気持ちも理解できるというものだ。
そんなこのモデルに搭載されたハイブリッドシステムは、一部パーツが耐久性向上のために強化され、より高いパフォーマンスを発揮させるために、やはり一部に新たなソフトフェアが採用されたという以外は、「基本的にはカイエンSハイブリッドのそれと同様」とのこと。すなわちそれは、このモデルが“2ペダル・パナメーラ”の中では唯一のトルコンAT搭載車であることも意味している。「メカニズム上、他グレードが用いるPDKで成立しないわけではないが、システムの開発を『カイエン』と『フォルクスワーゲン・トゥアレグ』向けでスタートさせたこともあり、まずは同じユニットを用いるというコンセンサスができていた」というのが開発陣による説明だ。
頻繁にエンジンが止まる
その走りのモードは、当然ながらカイエンのハイブリッドモデルのそれに準じている。バッテリーの充電状態がある一定値以上であれば、スタートから市街地走行程度までの速度域を担当するのは電気モーター。また、エンジン始動後もアクセル踏力を緩めてコースティング状態に移れば、エンジンとモーター間に挿入したクラッチの作動により、走行中のエンジン停止という制御が頻繁に行われることが、目前中央に据えられた大径タコメーターの指針の動きから確認できる。
かくも忙しくエンジンは作動と停止を繰り返すが、その断続に伴うショックやノイズは無視できるレベル。静粛性の話題を加えるならば、同じ過給器でも通常はターボチャージャーに対するマイナス要因として挙げられるメカニカルチャージャーが発する特有のノイズは、「ほとんど認識することができない」という優秀な仕上がりだ。
必要とあらば、エンジンパワーに加えて電気モーターが出力を上乗せし、より高い動力性能を発揮とうたわれることの多いハイブリッドモデル。が、このモデルの場合はアクセルペダルを踏み加えても、それが相当な量に至らない限り、まずはスーパーチャージャーによる過給効果が大きなトルクを生み出して加速力を上乗せし、モーターの出番はなかなかないことが、タコメーター左側の小さな(それゆえに視認性は少々劣る)“Eパワーメーター”の針の動きによって読み取れる。
すなわち、このモデルでの走りの効率の高さというのは、主にアイドリングストップと発進時及びコースティング時のエンジン停止、そして減速時のエネルギー回生によって実現していると推測が可能。転がり抵抗の低減によってCO2排出量の数字を、標準タイヤ装着時よりも8g削減させるというミシュラン製オプションタイヤも、もちろんそこに貢献していることになる。
「S」に恥じないHV
ドイツとオーストリアの国境地帯をベースに開催された国際試乗会は、あいにくの雨という天候となった。が、そうしたシーンの中でも前出オプションタイヤは、グリップ能力やハンドリングの正確性、ノイズ面などで一切のマイナスの印象を感じさせなかった。「カイエンSハイブリッド」に比べ全般に走りの軽快感が強いのは、260kgという重量差の影響が大きいはず。一方、4.8リッターのV8エンジンを搭載する「パナメーラS」との比較を意識すると、サウンド面を含めその迫力という点では「やはりV8版にアドバンテージがある」というのが率直な感想だ。
ちなみに、ハイブリッドモデルにはV8車に存在する4WDバージョンが存在していないが、その理由は「軽さにフォーカスしたモデルであると同時に、“自社製エンジン”ではないゆえに、前輪用のドライブシャフトのレイアウトを低いノーズと両立させるのが難しいため」とのこと。しかし、その結果として51:49という理想の前後重量配分を成し遂げたというパナメーラのハイブリッドモデルが、「S」のグレード名に恥じない、自在なハンドリング感覚を味わわせてくれたのは確かな事実だ。
今回は270kmほどのテストルートのほぼ全行程を、ひとりでステアリングを握ることができたので、そこで得られた燃費データを発表しておこう。その値はトータル120km強の距離の前半セッションが10.7km/リッターで、150km弱の後半セッションが11.0km/リッターという値。もちろん、燃費データは走行パターンに大きく左右され、しかもボードコンピューターの精度にも未知の部分はあるので、これらはあくまで参考値。しかし、それにしても「どちらも“2桁燃費”を軽々達成」というのは、実際の走りのパターンに照らし合わせると、素直に驚きだった。
さすがはポルシェの一員らしく(?)、たしかに価格はそれなりに高価。しかしそれは確実な燃費向上=CO2削減効果を実感させ、走りの点でももちろんポルシェ車にふさわしいと納得のできる実力を伴うもの。0-100km/h加速が6.0秒で最高速は270km/h――システム出力380psのそんなハイエンドサルーンの燃費が「確実に2桁」となれば、それは今の時代、「600psの12気筒エンジンを搭載」といったフレーズ以上のインパクトがあるのではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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