第675回:【Movie】イタリアでダイハツは不滅です! 熱気渦巻く「テリオス」愛好家のイベントに潜入
2020.10.01 マッキナ あらモーダ!ダイアーツはダイハード
早いもので、ダイハツ工業が2013年1月末にヨーロッパ市場から撤退してから、7年以上が経過した。
しかしイタリアには、いまだ熱いファンが存在するというのが、今回のリポートの内容である。
前回は筆者が住むトスカーナのシエナ県で開催されたルノー/シトロエンのミーティングをお伝えしたが、同じ週末に別のイベントも開催されるとの情報を得た。
シエナ郊外は、各ブランドがカタログ撮影に使うほどの風光明媚(めいび)な地である。そのため、初夏と秋口を中心に、さまざまな走行会の開催地となるのである。
イベントの内容を知って驚いた。「ダイハツ・テリオス(2代目は日本名「ビーゴ」)」の愛好家による集まりであった。
彼らのクラブ設立は、ダイハツが欧州市場を去る前の2008年。小さな会合のほかに毎年1回走行会を開催している。今回は記念すべき第10回の開催地として、シエナを選んだのだった。
クラブには、「フェイスブック」に約1500人、「インスタグラム」にも約1200人のフォロワーがいる。いっぽうその日、イタリア各地から集まった初代および2代目テリオスとファンの数は30台と65人であった。円滑な運営のため完全予約制とし、台数と参加申し込みの締め切り日を厳守したためだ。実際、クラブのSNSを見てみると、期日後の問い合わせだったために丁重に断られたオーナーがいたことが確認できる。
会場では、アクセサリーによるドレスアップ派に加えて、本当は「スズキ・ジムニー」を探していたものの、薦められて買ったテリオスがすっかり気に入ってしまったというファミリー、さらには新しい「トヨタ・ヤリス」を売り払ってまで中古のテリオスを購入した女性など、さまざまなファンに出会うことができた。
丈夫でめったに壊れない。オフロードを楽しめるうえ、家族車としても十分に実用的でスタイリッシュ、というのが、彼らがテリオスを愛する理由だ。
コースは70kmの道のりを約3時間かけて走るというものだった。シエナ郊外にあるピッツェリアの駐車場を出発直後、自転車ロードレース「エロイカ」で有名な未舗装路へ。そして古代ローマ以前の先住民族・エトルリア人が多く住んでいたムルロ周辺を周遊したあと、再び砂利道を楽しみ、出発点に戻って皆でピッツァの昼食を楽しんだ。
ところで、パーツの入手はどうしているのだろうか?
イベントオーガナイザーのマルコさんによると、「ダイハツ・パーツサービス(DPS)があるから大丈夫」という。
DPSとはダイハツがイタリア販売から撤退する際、そのパーツ販売業務を譲渡してもらうかたちでイタリア北部ベルガモに設立された法人である。それとは別に、並行輸入を手がける日本車専門パーツショップも役立っていると教えてくれた。ひと安心である。
ファンイベントといえば、メーカーがPRエージェントを介して多額の費用をかけて実施するものが少なくない。いっぽう、テリオス・クラブ・イタリアは、事実上ファンの善意だけが原動力だ。なにしろブランド自体が、この国にはもう存在しないのだ。
にもかかわらず、彼らから伝わるパッシオーネ(情熱)は、メーカー主催のイベント参加者に勝るとも劣らない。インタビューした相手は、ひとり残らずテリオスへの愛情を惜しみなく披露してくれた。それどころか、「俺のクルマも見て見て」と声をかけてくるオーナーが相次いだ。「Daihatsu」はイタリア語で「ダイアーツ」と発音するが、彼らがいるかぎり「ダイハード(不死身)」に違いない。
マルコさんによると、「もはやメンバーは、家族のような雰囲気」と語る。これからも日本のダイハツは、大変であろうがパーツ供給を円滑に続けてほしいものである。彼らの笑顔を絶やさぬため、そして日本ブランド全体の名誉のために。
【テリオス・クラブ・イタリアの走行会】
(文と写真と動画=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/動画=大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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