ホンダCB1000F SE(6MT)
主役は遅れてやって来る 2026.03.07 試乗記 ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。“Z”か“CB”か、それが問題だ
ライターのゴトー、現在はカワサキの「Z」や「マッハ」、ヤマハの「RZ」に乗っているのだけれど、実はホンダの「CB750F」が大好きである。高校時代にCB750Fが登場してナナハンってすげぇと思い、大型二輪免許を取得してすぐ手に入れた。『バリバリ伝説』が大好きだったこともあって、当時付き合っていた彼女のことを「アイチャン」(主人公・巨摩 郡の彼女の名前)と呼んでひっぱたかれたこともあった。アメリカで飛行機の操縦をしていたときの愛車も「CB1100F」だった。
ご存じのように、昔からZとCBはライバル関係にある。どちらも魅力的なものだから、ゴトーもいろいろなZとCBに乗った。高校時代は「Z400FX」、アメリカでは最初「Z900」に乗っていてCBに乗り換えたのだが、同じ空冷でもZとはずいぶんフィーリングが違うものだなあと思ったものである。Zは重々しくトルクで走る感じだったのに、CB750FもCB1100Fも、エンジンがシュンシュンと回って速い。ただ、速いからCBがよいかといえば、簡単に結論が出ないのがバイクの面白いところ。当時は結局、ZとCBの両方を所有し続け、その日の気分で使い分けていた。CB1000Fがデビューした今、当時のゴトーと同じようにZ900RS(参照)とCB1000Fで悩んでいる人もいるのではなかろうか。
「そんな昔の話いらねーから」という読者諸氏もいることであろう。しかし待て。昔話をするには理由がある。今のZ900RSとCB1000Fの関係は、1980年代のZとCBのそれに似ていると思うからである。
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変わったところもあるけれど
前項の前置きからもわかるとおり、空冷CB乗りだったゴトーは、どうしても当時のバイクとCB1000Fを比較してしまう。このバイク自体が昔をイメージしているのだから、それも当然だ。1980年代を知らない若者からすると、かなり面倒くさいオヤジライダーだが、たぶんゴトーと同世代の読者もいると思うから、正直な感想を書きたい。
バイクにまたがって「違うなあ」と思うのは、タンクからはみ出して見えるエンジンが“ない”こと。そしてメーターやハンドルまわりの雰囲気だ。当時のCB750Fは、ジュラルミンのハンドルとか無反射ガラスのでっかいメーターとか、とにかくいろいろな部分がゴージャスだった。それに比べるとCB1000Fは、よく言えばシンプル。悪く言えば、ちょっと質感に欠けるような気がする。
もっとも、昔のバイクはウインカーとかメーターとか、無駄にでかくして存在感をアピールしていたところがあるから、そんなところをマネする必要はないわけだし、当時と比べなければ極めて普通。チープな雰囲気というわけではない。Z900RSの場合は、メーターなどのディテールも空冷Zをイメージしていたが、CB1000Fはノスタルジーな雰囲気はタンクの形状やカラーリングだけにしておいて、後は中身で勝負、ということなのである。「小型のデジタルメーターは味気ない」という声も聞くが、それとてステアリングまわりが軽くなることで、軽快なハンドリングに貢献しているはずだ。
いっぽうで、元CBオーナーのゴトーが感動したのは、エンジンのフィーリングである。とても軽くて鋭い吹け上がり。レスポンスも鋭くてシュンシュンと回る。しかも、排気音やフィーリングが昔のFっぽいのである。ノーマルマフラーの旧CB750Fは、低・中回転で加速するときにドロドロという独特の排気音を奏でていた。あの排気音をほうふつさせるのだ。これが味わい深い加速フィーリングをつくり出している。2気筒ごとにファンネル径を変え、吸気音に味つけしているのも奏功しているのだろう。
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完成された1リッター4気筒の魅力
大排気量マルチの魅力は、低回転からスロットルを大きく開けたときの加速感であると思う。実用域でどれだけ気持ちよく加速してくれるかが肝なのだ。
CB1000Fの低回転からの加速感は独特だ。トルクが太くて、2000rpmくらいからでも相当に力強く加速するのだけれど、振動がなくてスムーズな回り方をするものだから、強烈なトルクで押し出されるようなフィーリングではない。軽やかにスルスルとスピードが上昇する。そこに、先に述べた排気音やエンジンフィーリングも加わるから、ストリートで普通に走っているだけでもずいぶん楽しい。さらにスロットルのマネジメントがよく、開けはじめのレスポンスが過敏ではないから扱いにくさがない。
高回転のフィーリングもまたいい。5000rpmくらいから排気音が一気に変わってドカンと加速する。低いギアで全開にすると、フロントタイヤを軽く持ち上げながらダッシュしていく。トラコンの設定は変えていないから、もしかしたら若干のヤンチャ感も演出されているのかもしれない。このエンジンのパワーフィールは、昔のCB好きからすると文句のつけどころがないほど。フライホイールマスが小さめでシュンシュンと回るキャラクターは、ライダーによって好みが分かれるところだろうけど、こういう感じが好きな人は多いんじゃないかと思う。とても完成された現代的な4気筒のイメージである。
加えて、ストリートを走っていて「よくできているなあ」と感心したのがクイックシフター。回転を上げずに走っているときでも、的確に作動してくれるから、メチャクチャに楽。低回転では若干の変速ショックがあるけれど違和感はない。なんだか「E-Clutch」のような雰囲気で変速できるものだから、ついうっかり停止時にクラッチを握り忘れ、エンストさせてしまったほどだった。
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リターンライダーにもおすすめしたい
ポジションはコンパクトにまとまっていて、とても自然。前傾もきつくなくて、ストリートでバイクを扱いやすい。倒立フォークだけれども、ハンドルの切れ角はそこそこに確保されていて、通常の片側一車線の道であればUターンも苦にならない。
ハンドリングは基本的には速度に関係なく素直。安定感も十分に確保されているが、ビッグバイクならでは、という感じのどっしりした雰囲気ではない。どちらかといえば軽快さを強く感じる。
サスペンションの動きはとてもよいのだけれど、セッティングは若干ハード気味。普段走っているときはとてもしっとりとした雰囲気なのだけれど、荒れた路面ではショックが多少伝わってくる。ただ、このサスのおかげでスポーティーに攻めたときは実にシックリとくる。加えてリッターバイクとは思えないような自由自在感がある。試乗のステージをワインディングロードにしなかった編集部H田に、文句を言いたくなったくらいである。
ついでに言うとこのバイク、リッターバイクとしては車体もコンパクトで、押し引きをとても軽く感じた。シート高だって795mmだから、同じクラスのバイクと比べたらずいぶん低い。たぶん空冷CB世代のライダーのなかには、「またビッグバイクに乗りたいけれど、体力的に大きなバイクは疲れる」なんて人もいることだろう。であれば一度、CB1000Fに触れてみることをお勧めしたい。「あれ、これだったらまだビッグバイクいけるかも」と思うかもしれない。
それにしてもこのバイク、登場の仕方まで1980年代のCBっぽい。後から登場して、おいしいところを持っていくパターンである。Z900RSと比べたらエンジンのパワーもあるし、価格も抑えられている。果たして人気絶頂のZ900RSに対し、あのときのような勝ちパターンに持っていけるのか。そこがとても楽しみなのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=本田技研工業)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2135×835×1170mm
ホイールベース:1455mm
シート高:795mm
重量:217kg
エンジン:999cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:124PS(91kW)/9000rpm
最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:17.9km/リッター(WMTCモード)
価格:159万5000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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