またも欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞! 「トヨタ・ヤリス」がヨーロッパで絶好調な理由
2021.03.15 デイリーコラム販売台数でもナンバーワンに
2021年3月1日、「トヨタ・ヤリス」がヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー(欧州COTY)2021に選ばれた。
今回ノミネートされたのは29車種。上位5車の獲得点は以下のとおりだ。
トヨタ・ヤリス……266点
新型フィアット500……240点
クプラ・フォルメントール……239点
フォルクスワーゲンID.3……224点
シュコダ・オクタヴィア……199点
国別でみると、欧州仕様ヤリスの生産国であるフランスのほか、ハンガリー、ポーランド、トルコで最高点を獲得していた。
ヤリスとしては、2000年の初代以来2度目の受賞である。欧州COTYの歴代受賞車を振り返ると、「フィアット500」(2008年)のように、後にロングセラーとなった人気車種と、「オペル・アンペラ/シボレー・ボルト」(2012年)のように、意欲的ではあったものの市場での評価は限定的だった車種が入り交じっている。
今回受賞した4代目ヤリスは、欧州において前者である。しかも人気の立ち上がりが早い。筆者が住むイタリアでは2020年11月、国内新車登録台数で「フィアット・パンダ」に次ぐ2位となって注目を浴びた。2021年1-2月の新車登録台数も8082台を記録し、順位を維持している。1位パンダの2万5702台とはいまだ3倍近い開きがあるものの、定番車種「ランチア・イプシロン」「シトロエンC3」を抑えているかたちだ(データ出典:ANFIA)。
欧州全体で見ると、もっと驚くべき数字を達成していた。2021年1月のEU圏内販売台数で、ヤリスは「プジョー208」「ダチア・サンデロ」を超えて、なんと1位(1万8094台)に躍り出ている(出典:ACEA)。
充電が要らないEV
欧州販売におけるヤリスの武器は、先代である3代目から疑いなく「ハイブリッド」である。
新型コロナ感染症の蔓延による販売低下を補うべく、欧州各国で導入された新車購入奨励策は、おおむね環境対策車に対して優遇幅が大きく設定されている。そうしたなか、マイルド式でない本当のハイブリッド、かつ欧州で使いやすいコンパクトなボディーということで、ヤリスにユーザーの注目が集まっている。
もちろん、“ゼロ・エミッション”であるEVのほうが補助金の適用割合が高い。だが車両はまだ高額であり、インフラも不十分である。日本の一部メディアは、あたかも欧州全体でEVや充電インフラが順調に普及しているように伝えているが、EU圏内における充電設備の実に75%は、オランダを含む上位わずか4カ国に偏在している(データ出典:ACEA)。大半の国は、とても明日からフルEVに乗り換えられる環境ではない。ここで欧州COTYに話を戻すと、その審査員は22の国と地域の59人のメンバーで構成されている。EV普及に時間を要すると考える審査員たちが、「EVよりもハイブリッド」という判断を下し、それがヤリス受賞につながったのは間違いない。
イタリア市場を観察していると、これまでもハイブリッドに関心はあったものの、「『プリウス』は価格が高い」「大きくてスタイリッシュでない」「タクシー風だ」(筆者注:欧州でのプリウスの普及は営業車が先導した)といって躊躇(ちゅうちょ)していた人々が、ヤリス購入に踏み切ったとも考えられる。
人気は納車待ちにも表れている。「トヨタ・クラブイタリア」のフォーラムでは2020年秋から「ヤリスの納期」というスレッドが立っており、「3カ月待ちだった」いう書き込みがいくつも見られる。コンパクトカーといえば即納新古車が人気のこの国で、珍しい状況だ。
トヨタの欧州法人による、先代ヤリス時代からの「充電が要らないEV」という巧みな告知も功を奏した。これはハイブリッドを注目させるのにかなり効いたようで、それに感銘を受けて実際に購入したユーザーを筆者は知っている。
現在もオフィシャルサイトのFAQ欄には、「ハイブリッドは充電が必要ですか?」といった初歩的な疑問に対する解説がつづられている。日本のテレビニュースのように最新技術をわかりやすく解説する番組がないヨーロッパで、トヨタはひたすら自社で啓蒙(けいもう)を続けてきたのだ。
石の上にも22年
筆者の知人ジャンニ氏は、キア製SUV「スポルテージ」から先代ヤリス ハイブリッドに乗り換えた。「欠点はラゲッジルームの小ささだけ。燃費、静粛性、降雨時の接地性ともに大満足」と評価する。目下、夫人のためにもう1台ヤリスを物色中であることも教えてくれた。
ヤリスは、まぎれもなく欧州で史上最も成功した日本ブランド車になるだろう。生産国フランスにかけて言えば、日本よりも先にパリで成功した画家・藤田嗣治を思わせる快挙……と記したいところだが、筆者のヤリス感はもう少し俗人的である。
最も印象的だったのは1999年の初代だ。ニースのトヨタ・デザイン拠点で開発されたそのプロポーションは、小さいながらも日本車らしからぬ彫刻的マッス(塊)感で、欧州の古い町並みとマッチしていた。2代目ではその性格は幾分抑えられたものの、それでも同様の雰囲気を帯びていた。対して3代目以降は、アグレッシブさで存在感を示すデザインになった。2020年末から欧州でも導入された「GRヤリス」も、そのイメージを増幅させた。
そんなヤリスに対する筆者の思いを例えれば、帰国子女の幼なじみが突如ダンスパフォーマンスにより日欧でブレイク。祝福したい気持ちと、化粧や服が派手になってしまったことへの当惑が交錯する、といったところだ。
だから個人的には、「あの初代のボディーにハイブリッドが搭載されていたら……」と、はかない幻想を抱く。各国で車齢15年以上の初代ヤリスを今も頻繁に見かけ、走行10万kmの個体でも円換算で40万円近くで取引されているのは、私と同じように初代をこそ好ましく思う人が少なくない証左だろう。
そうした極めて個人的な述懐はともかく、気がつけばヤリスは誕生から22年。同クラスのライバル車がひしめく旧大陸で、かつ1台あたりの利幅が少ない小型車にもかかわらず、大切に育て上げたトヨタの地道さにはあらためて敬意を表するのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、トヨタ/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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