トヨタ・ヤリス ハイブリッドG(FF/CVT)
人が変わったように体育会系 2020.03.21 試乗記 トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」がフルモデルチェンジ。プラットフォームやパワートレイン、内外装デザインなどすべてが刷新され、車名まで従来のグローバル名たる「ヤリス」に改められて登場した。まずは最量販モデルと位置付けられる「ハイブリッドG」の出来栄えを確かめる。名前も含めすべてが新しい
20年3代続いた車名を変えるなんて、たぶん前例のないことである。しかし4代目ヴィッツは、今回のモデルチェンジで欧州名と同じヤリスになった。
トヨタが2017年にWRC(世界ラリー選手権)に復帰して以来、ヤリスは早くもトップコンテンダーである。今年は10年ぶりに日本開催が実現し、シリーズ最終戦で愛知/岐阜県内をヤリスWRCが走る。そこで「日本名ヴィッツ」というただし書きは使いたくなかったというのも改名の理由のひとつだったようだ。
なによりも新型ヤリスはプラットフォーム(車台)からパワートレインや足まわりまでオールニューである。名前も含めて、どれだけ新しくなったのか。期待して試乗に臨んだのは、ハイブリッドの上級モデル、G(価格は213万円)である。
内装は黒とこげ茶のツートーン。色のせいもあって、けっこうプレミアム感がある。だが、キャビンはタイトだ。ボディー外寸は旧ヴィッツと変わらないが、中は狭くなった。強く寝たフロントピラーが迫る前席空間はクーペ的だ。前席ドア内側のたっぷり大きいドアグリップなどを見ても、いの一番に広さを狙ったコンパクトカーではないことがわかる。
しかし走りだすと、オオッ! と思った。サプライズだ。たしかにこれはヤリスである。こんなヴィッツはいままでなかったぞ。“オオッ!”を味わいながら約30km、高速道路には乗らずに帰った。ヤリス ハイブリッドは、下(一般道)を走りたくなるクルマである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
意のままに速いハイブリッド
新しい1.5リッター3気筒ハイブリッドのサプライズは、まずパワフルなことである。旧ヴィッツの1.5リッター4気筒ハイブリッドと比べると、エンジンも駆動用モーターも3割ほどパワーアップした。一方、車重は40kg軽くなっている。快速ハイブリッドに生まれ変わるのも理の当然だ。
とくにスタートダッシュが力強い。ドライブモードの切り替えで、「ノーマル」のほかに「スポーツ」と「エコ」が選べるが、どのモードでも右足を深く踏み込めば、速い。パートスロットルでのレスポンスもいいから、意のままに速い。おかげで、緩急の差が激しい混んだ町なかでも楽しく走れる。
足まわりも想定外にスポーティーだ。サスペンションは硬めで、しかも“基礎”であるボディーにカプセルのような堅牢感がある。ただし、サスペンションがしなやかに動いて、ボディーは揺れないという、いわゆるフラットなアシではない。ワンインチアップしたオプションの185/60R15タイヤを履くせいもあってか、ロードノイズも大きめだ。しかし旧ヴィッツ ハイブリッドの退屈な動的キャラクターを思い出すと、よくここまでスポーティー方向に舵をきったものだと思う。ヤリス ハイブリッドは人が変わったように体育会系なのだ。
スポーティーなシャシー
夕方5時に借り出した試乗車に乗れるのは翌朝11時までだった。早起きしてロケ地へ向かう。
ゆうべアクセルを踏み過ぎたせいなのか、朝、始動すると数秒でエンジンがかかり、充電を始めた。ぼくの場合、朝は試乗のマジックアワーで、どんなクルマもいちばんの好印象を受ける時間帯なのだが、やはり足まわりは硬いなあと思った。
高速道路で運転支援システムを試す。ハンドル右スポーク上で操作できるACC(アダプティブクルーズコントロール)は使いやすい。ツータッチで自動巡航に入る。センタートレースするレーンキープ機能もよくできている。ときどきグイッとハンドルに介入してくるが、やってる感があっていいと思う。
ステアリングホイールは37cm弱と小径だ。操舵力は軽いが、ステアリング系の剛性感はすごく高い。期待して行きつけのワインディングロードを走った。平滑な路面ではいいのだが、補修跡やうねりのある荒れた路面だと揺すられるし、突き上げも大きい。乗り心地の荒さがハンドリングの楽しさをスポイルしてしまう。硬くてもいいが、もっとしなやかさとフラットさがほしい。
いずれにしても、「とにかく燃費」というモチベーションでハイブリッドを選ぶ人にとって、このシャシーはスポーティーに過ぎると思う。というか、これで行くなら“ハイブリッドスポーツ”のような看板を掲げたほうがよかったのではないか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
まさかの快速ゆえに楽しい
オプション(7万7000円)の駐車支援システムが付いていたので、白線の区画がある公共駐車場で並列駐車を試した。ドライバーがやるべき操作は、クルマが教えてくれる。車庫入れバックが始まったら、基本、ハンドルにもペダルにも触れなくていい。複数の駐車場で10回くらいやってみた。区画に対してちょっとナナメってるぞと思ったら、もういちど前進して、まっすぐにしたことが2回あった。駐車が完了すると、アラウンドビューモニターを駆使した合成映像がディスプレイで踊り、最後、そこに止まっているドヤ顔のヤリスが映る。まだ自分がやったほうが少し早いから、クルマの往来の激しいところでお世話になろうとは思わないが、すでに十分、使える装置である。
急ぎ足の初試乗で約260kmを走り、燃費は18.3km/リッター(満タン法)だった。カタログ値(35.8km/リッター)の半分。もうちょっと走ってくれるかと思った。試乗車のオドメーターは1400kmあまりで、過去最高燃費は23km/リッター台と出ていた。
でも、まさかの快速ハイブリッドスポーツハッチは、それゆえ楽しいクルマだった。ヤリスに興味のある人は、ぜひディーラーに足を運んで実車を確認し、試乗させてもらうことをおすすめしたい。これはヴィッツではない、ヤリスという新種なのだから。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・ヤリス ハイブリッドG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車重:1060kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3600-4400rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:35.8km/リッター(WLTCモード)
価格:213万円/テスト車=281万8600円
オプション装備:185/60R15タイヤ&15×6Jアルミホイール<センターオーナメント付き>(5万9400円)/コンフォートシートセット<マルチカラーファブリックシート表皮+ヘッドレストセパレート型フロントシート+運転席イージーリターン機能+シートヒーター[運転席・助手席]+買い物アシストシート[助手席]+ローズメタリック加飾[フロントコンソール・フロントドアインナーガーニッシュ・ステアリングベゼル]+ピアノブラック塗装メーターリング+助手席シートバックポケット+助手席シートアンダートレイ+LEDアンビエント照明[インサイドドアハンドル・フロントコンソールボックス]>(5万1700円)/3灯式フルLEDヘッドランプ<マニュアルレベリング機能付き>+LEDターンランプ+LEDクリアランスランプ<デイライト機能&おむかえ照明機能付き>+フルLEDリアコンビネーションランプ<LEDライン発光テールランプ&ストップランプ+LEDターンランプ>(8万2500円)/ブラインドスポットモニター<BMS>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>+インテリジェントクリアランスソナー<パーキングサポートブレーキ[静止物]>(10万0100円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク<パノラミックビューモニター付き>(7万7000円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×1個>(4万4000円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/TV+Apple CarPlay+Android Auto(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3000円)/トノカバー(1万1000円)/フロアマット<デラックス>(2万3650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1437km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:259.6km
使用燃料:14.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.3km/リッター(満タン法)/19.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。 -
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.17試乗記スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。



















































