より強烈な「Z06」も登場! 史上初の“ミドシップコルベット”が快進撃を続ける理由
2021.11.05 デイリーコラム 拡大 |
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MR化の背景にあるGMの野望
予想通りというべきか。ミドシップ化なった「C8」こと8代目「シボレー・コルベット」に、高性能グレードの「Z06」が追加されるという発表が先日あった。生産は2022年夏となる予定だが、発表された内容を読む限り、試乗テストの機会を、今、最も待ち遠しいと思う一台である。否、正直に言って欲しい。そういう意味ではZ06の登場こそ“予想通り”ではあったけれど、その内容という点では予想をはるかに超えてきたと言っても過言ではない。
新型コルベットがミドシップとなって登場した時点で、その先にさまざまなプログラムが用意されていることは自明だった。スタンダードグレード(発売済み)→高性能グレード(今回のZ06)→プラグインハイブリッドグレード→フル電動グレードというストーリーを描き切ったからこそのミドシップレイアウト採用=重いバッテリーの搭載に有利なレイアウトであったからだ。つまりシボレー(ゼネラルモーターズ)はコルベットというスポーツカーをあらためてグローバル市場に問うことで生き残りをかけた、というわけだ。
もちろんアメリカ人のためのスポーツカーであることは今後も変わりなく、電動化の道筋は東西両海岸沿いのマーケットにおいても重要な戦略となるだろう。もちろん、その官能的パフォーマンスで長らくイタリア勢が牛耳ってきたマーケットを奪取するというつくり手と乗り手双方の念願達成という野望もあって……。
先々の話は尽きないが、今回発表されたZ06はまだ電動化の手前、戦略としては以前のコルベットと変わりのない段階である。スタンダードグレードに対する高性能グレードの追加発表で、ネーミングもまた伝統的だ。けれども冒頭にも記したように、その中身は圧倒的だった。否、驚愕(きょうがく)したとも言っていい。GMははっきりと古典的スポーツカー界の天下をまずは取ってみせると宣言したのも同様だからだ。そのために欧州のレース界をも席巻してやろう、と。その中身には若干の“後出し感”もあるが、そんなことなどお構いなし。もとより戦の正しいやり方など理解できない国だから、そこはもう遮二無二の挑戦というわけだろう。
この期に及んで自然吸気の大排気量エンジンを開発
筆者がそう考える理由はひとつ。GMという巨大メーカーがその深大なる知見をもとに、今あえて新しいエンジンを、それも近い将来には北米コンサバ市場向けのみと使い道も限定されるはず(逆に言うと、巨大なローカル市場の存在は特殊なアメリカ車の強みだ)の大排気量マルチシリンダー自然吸気エンジン=5.5リッターV8 DOHCの「LT6」を開発して積んできたからである。しかも、今となっては世にも珍しいシングル(フラット)プレーンのV8ユニットだ。
史上最高パフォーマンスのV8エンジンをつくる。そんなかけ声のもとで完成したLT6は、自然吸気ながら最高出力670HP/8400rpmを誇り、レース用ベースユニットとしても究極の作品となった。自然吸気エンジンとしてはもちろんコルベット史上最高スペックで、非ハイブリッドの過給機(ターボやスーパーチャージャー)付きを加えてもトップ5に入る。文句なしに史上最高のV8エンジンであり、V8王国の主要な歴史的メンバーであるGMシボレーとしては、内燃機関の未来が閉ざされてしまう前に、なんとしてもその称号を得たかったのではあるまいか。
前項で“後出し感”といったのは、同じくフラットプレーンV8を使ってきたフェラーリやマクラーレンが自然吸気を諦め、さらにはダウンサイズのプラグインハイブリッド化を推し進めて「こちら側にはもう戻らない」という決意表明をしてみせた後の登場だから、という意味だ。
裏を返せば、アメリカンV8を積んだスポーツカーを愛し続けてきたペイトリオッツにとってもそれは悲願であった。そしてこのエンジンは、アメリカンスポーツカーの雄であり、歴史そのものといっていいコルベットにこそお似合いというものだ。思い返せばこのモデルは、過去に何度もデザイン的にマラネッロコンプレックスをにじませてきた。
おそらく、これまでのコルベットとはまるで違うエンジンフィールやエキゾーストサウンドを響かせて走るZ06は、世界中の“20世紀的クルマ好き”にとって最後に乗っておくべきクルマになるに違いない。筆者も可能であれば所有してみたいと思っている。
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「コルベット」を支えるアメリカという巨大マーケット
端的に言ってC8コルベットの完成度は高い。よくできたスポーツカーであり、そして素晴らしいGTカーでもある。筆者はすでにデモカーで3000km以上を走ったが、これほど日常の移動が楽しいスーパーカーは久しぶりだった。動的クオリティーの安心感という点では、初代「ホンダNSX」や「アウディR8」の系譜に連なると思う。そしておそらくスタンダードモデルに乗って感じられた懐の深さは、基本の骨格が今回の670HPはおろか、この先の800HP、さらには1000HPオーバーまで対応しているからにほかならない。
と、ここまで読んでいただくと、クルマ好きの読者にはひとつの疑問が湧き起こってくることだろう。どうしてGMシボレーにこんな素晴らしいスーパーカーがいまさらつくれて、しかもこの価格帯(同クラスのイタリアンに比べて2分の1から3分の1)で売ることができたのか? ということだ。ホンダがより進化したPHEVスーパーカーのNSXを諦め、フェラーリやマクラーレンがV8をスペシャルモデルに限定し、ランボルギーニやポルシェが電動化に必死というまさに逆境というべきこのタイミングで、なぜこんなにもコストパフォーマンスの高いV8ミドシップスーパーカーを出せたのか?
答えは簡単だ。それはコルベットという商品のマーケットは、もちろん主に北米地域が担っているのだが、われわれが思っている以上に巨大だからである。
数字をひもとけば一目瞭然だ。最新の数字を紹介しておくと、C8の2021年モデル(2020年9月~2021年8月)の販売台数は約2.6万台、同じく2020年モデルは約2万台であった。先代「C7」がデビューした当時と比べると3、4割のダウンだが、これはパンデミックや半導体不足、それにUAW(全米自動車労働組合)ストライキのせいだといわれている。それはともかく、本調子でないとはいえ初年度に2万台(も!)売れてしまうのだ。過去を見れば最高で年間5万台以上売れた年もある(1979年の「C3」が約5.4万台)。そこまでさかのぼらずとも、「C4」以降のコルベットは最大で3.5~4万台を一年で売ってしまうモデルだった。
他のスーパースポーツとは一線を画す存在
なにが言いたいか。GMシボレーは、他ブランドのスーパーカーたちとはひとケタ違う数の消費者に支えられているということだ。ちなみにフェラーリは全モデル足して年間1万台前後である。先日生産終了のアナウンスがあった2代目NSXが年産最大2000台を目指していたことも記憶に新しい。
翻ってコルベットは、直近のミニマムでも約1万台だ(2018年の「C7」で9686台)。最低でも必ず1万台さばけるとなれば、現代の設計および生産技術を考慮すると、これくらいのクルマができて当然といえば当然ではないか。いきなりのミドシップ化も、完全なるブランクペーパーから開発を始めることができたという点で、設計技術の進化した今ではかえって好都合であったに違いない。この手の高性能スーパーカーにおけるモデルチェンジで気にするべきは、大抵、先代モデルであるのだから。
そして、1000万円のコルベットが年間最大4万台近く売れるとなれば、販売価格と生産台数の掛け算で考えると、割高なV8ミドシップフェラーリ(3000万円で5000台)のほうが逆に安く思えてくるほどである。
トヨタやフォルクスワーゲン、GMのようなゼネラルブランドにとって、本来この手のスーパースポーツビジネスは鬼門である。コルベットのように台数が稼げるモデルは異例だ。大抵はその1割も期待できない。それゆえ、開発コストはまだしも“ブランド宣伝費用”だと割り切れたとしても、(ゼネラルブランドゆえ)世界中に張り巡らされたディーラー網でのメンテナンス環境を整えるあらゆるコスト(わずかな台数のために!)や耐久性などの保証問題などを考えると、本当に割に合わないビジネスなのだ。
ここまで考えて気づく。コルベットというクルマは怪物だ。ミドシップとなったことで、そのモンスターぶりが顕在化したといっていい。
(文=西川 淳/写真=ゼネラルモーターズ/編集=堀田剛資)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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