シボレー・コルベット クーペZ06 3LZ(MR/8AT)
アメリカの本気 2023.08.16 試乗記 アメリカが誇るスーパースポーツ「シボレー・コルベット」に、より走りを突き詰めた「Z06」が登場。ワイドボディーにレース直系の5.5リッターV8 DOHCエンジンを搭載した一台は、「究極の純エンジン搭載モデル」と呼ぶにふさわしいマシンに仕上がっていた。史上最もレース色が濃い「Z06」
シボレー・コルベットの誕生は1953年。ということで、今年は70周年の節目を迎えている。途中、1983年のブランクなどがあったにせよ、同一の名前を用い続けるスポーツカーとしては世界最古であることは間違いない。
その長い歴史においては、モータースポーツとの接点も多く築かれてきた。Z06はC2世代から設定されたオプションコードで、耐久レースのレギュレーションに則したパッケージを指すものだったが、C5世代以降は正式グレードに昇格している。
さらにC6世代では、スモールブロックの限界まで排気量を高めた、Z06の原点を思い起こさせる7リッターV8を搭載。そしてC7世代では過給器により猛烈なパワーを放つ6.2リッターV8を搭載……と、その過激さを高めてきたが、エンジンの動弁機構はOHVという伝統を守り続けてきた。
そのエンジンをリアミドシップにマウントするという、コルベット史上最大の変革を果たしたC8世代。MRを選んだ最大の理由はレース、とりわけ世界耐久選手権のGTE規定で勝てるパッケージの獲得だった。長年にわたってFRをやり尽くした果てにみえたのが、コルベットの父ともいえるエンジニア、ゾーラ・アーカス=ダントフが夢見たMR化への道だったという帰結には、歴史の綾(あや)が感じられる。
それでも搭載するエンジンはOHVというところに矜持(きょうじ)をくみ取っていたファンも多いだろう。一方で、勝つためにこの道を選んだからにはエンジンも抜本的な手段で戦闘力を高めることに不思議はない。
そういう開発陣の思いが結実したのが、C8世代のZ06だ。開発は、今年100周年を迎えたルマン24時間レースでクラス優勝を果たした「C8.R」と完全並行で実施。また、来年以降のGT3カテゴリーへのレギュレーション変更を見込んで開発されている「Z06 GT3.R」のベースモデルにもなる。歴代でもロードゴーイングレーサーの色合いが最も濃いモデルといえるだろう。
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正規導入されただけでもありがたい
搭載されるエンジンは型式名称「LT6」。90°バンクのV8で自然吸気の直噴DOHC、排気量は5.5リッターとなる。アルミ合金製シリンダーのボアピッチは111.76mmとスモールブロックの文脈を継承しており、ボア×ストロークは104.25×80mm。その比率でいえば「ホンダS2000」の「F20C」型や「フェラーリ458」の「F136FB」型よりもショートストローク型という、近年まれにみる攻めた骨格となっている。クランクはフラットプレーン式となり、コンロッドはチタン鍛造、超ミニスカートのピストンはアルミ鍛造とムービングパーツの軽量化は徹底している。写真でみる限りの話ではあるが、徹底的に肉抜きされた部品が放つ緊張感はレーシングエンジンそのものだ。
シリンダーと同じくアルミ合金製となるDOHCの4バルブヘッドまわりも、チタン製インテークバルブやナトリウム封入エキゾーストバルブを採用するなど、軽量化や冷却効率に配慮したパーツが用いられ、バルブの狭角化も相まって圧縮比は12.5と非常に高く設定されている。オイル潤滑はドライサンプとなり、クーリングチャンネルはデザインの変更にあわせて前部3つ、後部2つに増設、かつ大開口・大容量化が図られた。こうして得られたアウトプットは最高出力646PS/8550rpm、最大トルクは623N・m/6300rpmとなる。レッドゾーンは8600rpmに設定され、リッターあたりの出力は118PS余りと、5.5リッターというキャパシティーを鑑みれば、市販車屈指の高回転型ユニットといえるだろう。
本国仕様の新しいZ06はセンター4本出しのエキゾーストを特徴とするも、消音性能の関係で仕向け地によっては騒音規制に抵触するのではとうわさされていた。日本ではC7世代の「ZR1」も同様の理由で正規輸入がなかったため、今回も導入は難しいだろうと勝手に予想していたが、MR化により右ハンドル仕様の設定ができたことで、一定数が見込めるという判断もあってか、日本での販売が実現したというわけだ。英国は基準車の販売から間もないが、かの地にも日本同様のエキゾーストシステムでZ06が正規導入されることも予想される。ひと目でそれとわかる“真ん中出し”ではないのが残念だが、正規輸入されただけでもめっけもんだと思いたい。
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2025mmの全幅が放つ存在感
一方で、そんな細かい話を瞬時に忘れさせるのが、基準車より80mm以上拡幅されたエクステリアだ。取材車は真っ黒仕様だったため目立ちにくいが、それでもフロントフェンダーやサイドインテークで強調されるワイド感がただならぬ威圧感を放っている。というか、オラっぷりが半端なく、膨張系の他色をみるのがちょっとためらわれるほどだ。幅を利かせるというのはまさにこういうことを指すのだろう。
取材車はカーボンホイールやセラミックブレーキ、エアロパーツなどでサーキット走行を前提としたパフォーマンスを供する「Z07パッケージ」が非装着の、性能的にはスタンダードな状態のZ06だ。本格的なデリバリーは来年以降ということもあり、こういったオプション関係がどのような扱いになるのかは検討中のようだが、基本的な運動性能の素性やエンジンのフィーリングは十分に知ることができる。
トランスミッションは基準車でも採用するトレメック社製の8段DCTを用いている。ファイナルは異なるがギアリングはローギアード側に詰めたようなものではなく、巡航時の回転数も基準車よりわずかに高い程度に抑えられている。120km/h域は8速がカバレッジするなど実用性も十分に考えられたものになっているようだ。ツアーモードで走る限り、発進や変速も至って滑らかで駆動まわりからの不快感はまったくない。
と、至って基準車的な感覚で乗れるのかといえば、そうとはいえないところもある。まずサスセッティングはパフォーマンスに相応なものとなっており、日常域ではさすがにアタリが硬い。突き上げなどの角は丸めてあるが、小さな入力ではそれが車体の上下動として現れる。今日びのスーパースポーツの感触からいえばはっきりとドライだが、試乗車のバネ下まわりはランフラットタイヤ&スチールブレーキの標準仕様だったことを差し引いてあげる必要もありそうだ。
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美点は高回転域だけにあらず
コルベットとしてはC4世代にロータスの協力を得てつくった「ZR-1」以来の搭載となるDOHCユニットだが、そのフィーリングはいかにもレーシング直系という剛性感や精度感に満ちたものだった。公差の小さい部品で丁寧に組み上げたエンジンというのは、いかにも遊びなくクリアランスが詰められたがゆえの微音や微振をギュルギュルと発しながら、高回転域に向かってギューンと軽やかに吹け上がる芯を食ったような感触が宿っている。もちろん、そこにはクルマの性格に合わせたマウント類の締め上げ方なども関わってくるだろう。
Z06のそれと似たような回転質感……といえば、思い浮かぶのは「ホンダNSXタイプR」の「C32B」型や「フェラーリF430スクーデリア」の「F136ED」型といったところだろうか。どちらもハナッからピュンピュンとバイクのようにためらいなく吹けるわけではなく、低回転域にある程度の手応えを感じさせながら、高回転域にかけてすべてがピシッときれいにそろっていく、そんな感触だ。ニュルなどを走るスクープ映像をみるに、正直、もう少し軽々しいものを想像していただけに、これはうれしい誤算だった。エンジンの情感はなにも高回転側だけに宿るものではない。LT6型は日常の退屈なトラフィックにいても、隙をみてそのありがたみを享受できるタイプだと思う。
一方で、高回転域は8500rpmのレッドゾーン付近までしっかりパワーがついてくる。当然ながらその域ではあきれるほど速く、レスポンスもビシビシに研ぎ澄まされていた。本国仕様に乗ったわけではないが、エキゾーストまわりの違いによる損失は無視できる程度といえそうだ。ただしサウンドは高音域にもうひと声、突き抜けるようなトーンが加わるとなおうれしい。
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終の一台にふさわしい
運動性能はこの高性能エンジンの発するパワーにおおむね負けていない。DOHC化によって基準車に対する重心高のアップを懸念したが、ダウンフォースの稼ぎ代もあってだろう、コーナーの切り返しなどでもペタリと安定している、その挙動をみるにつけ、変な心配はしなくてもよさそうだ。前後重量配分は40:60とミドシップの模範だが、アクセルをワイドオープンすれば、345幅のリアタイヤにもかかわらず意図的にテールを膨らませることも簡単だ。ドライブモードに応じてその挙動はきれいにたしなめられるが、抱くパワーに対する大人の配慮は求められる。
新しいZ06の正式な販売方法や仕様、カラーやオプションなどの詳細は間もなく発表されるだろうが、輸入台数は少なく都度抽選が前提になるものの、継続販売は検討されているという。このクルマもまた、世界中でクルマ趣味の終活にふさわしい一台として争奪戦となっているのだろう。返す返すもインポーターはよく日本での販売にこぎ着けてくれたと思う。幸運にも手に入れられた方には、ごくまれにみられるアメリカ車の本気のとんでもなさをたっぷりと堪能いただき、できるだけ多くの方に喧伝(けんでん)いただければと願う。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
シボレー・コルベット クーペZ06 3LZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×2025×1220mm
ホイールベース:2725mm
車重:1720kg
駆動方式:MR
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:646PS(475kW)/8550rpm
最大トルク:623N・m(63.5kgf・m)/6300rpm
タイヤ:(前)275/30ZR20 97Y/(後)345/25ZR21 104Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S ZP)
燃費:--km/リッター
価格:2500万円/テスト車=2504万6200円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万6200円)/ETC 2.0車載器(販売店取り扱い商品)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3118km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:274.9km
使用燃料:45.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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