高級SUV市場を創出した立役者 「ランドローバー・レンジローバー」が別格である理由
2022.01.26 デイリーコラム 拡大 |
1970年春に市場に放たれた「レンジローバー」は、プレステージ四輪駆動車というジャンルを創設。その成功に刺激されて、亜流が世界各国から誕生していったことはご承知のとおりだ。
だが、レンジローバーを送り出した開発陣は、当初から“高級なしつらえを備えた”プレステージ四輪駆動車として設計したわけではなかった。
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目指したのは全天候型“快適”多用途車
開発陣が追い求めたのは、世界最高峰の快適な全天候型多用途車だった。1948年から「ランドローバー」をつくり続けていたことで、クロスカントリービークル(CCV)のなんたるかを熟知していたローバー社は、豊富な経験を生かし、新たなジャンルのオフロードカーを手がけようとしていた。
ローバーの新車プロジェクト担当チーフエンジニア、チャールズ・スペンサー“スペン”キング(ランドローバー創業者のおい)が掲げた新しいジャンルとは、フォーマルなローバーサルーンが備える快適性と走行性能に、ランドローバーが培ってきたオフロード性能を融合させるという“欲張りなクルマ”であった。
この計画が立案された1960年代半ばには、すでに市中にはCCVをベースに快適性を加えたSUV(当時はまだその呼称はなかった)が、ジープを生んだ米国や、欧州にも存在していた。だが、スペン・キングらはそれらをまねる気は毛頭なく、既存のランドローバーからの発展型とする妥協作も頭にはなかった。ラフロードを快適に走るために必要なメカニズムには惜しげもなくコストが投じられた。
長年にわたって研究を続けてきたフルタイム4WDの採用であり、この機能を最大限に引き出すことを意図した、4輪にコイルスプリングを用いたリジッド式サスペンションなどだ。
強固な閉断面鋼材を用いたラダーフレームも、アルミニウムを多用したボディーも、すべて専用の新設計であった。さらに、オンロード性能の面では、高速道路での快適で安全な100mphクルージング走行を可能にするため、4輪にディスクブレーキをおごった。
パワーと静粛な車室空間を得るために選ばれた軽合金製V型8気筒の3.5リッターエンジンは、乗用車の「3500サルーン(P5)」からの流用であり、オフロードでの使用を考慮して出力特性を変更した。
さらに仕上げとして、CCVには見えないスタイリングが施された。ボディーは軽量さと強靱(きょうじん)さを追求した凝ったつくりで、横転時の安全性を考慮したロールケージ構造を採用。パネルはボンネット外皮とテールゲートが鋼板製で、残りのほとんどがアルミ製である。アルミ製アウターパネルの隙間(チリ)は1cmほどと大きいが、その理由はボディーをぶつけた場合でも周囲のパネルに被害がおよばないようにとの配慮からだ。これなどはCCVの経験値の豊かさゆえだろう。
発売してみると……
開発者が意図したことが明確に分かるエピソードとしては、発売間もない時期には、ランドローバーではなくローバーサルーンの総合カタログにレンジローバーが掲載されていたことがある。
1970年にレンジローバーが送り出されると、まず、世界中の4WD設計者たちが、既存のCCVとは比較にならぬほどのぜいたくなメカニズムと、オフロードでの高い走破性と快適性を両立させつつ、ハイウェイを100mphで走行可能なことに驚愕(きょうがく)し、畏敬の念を抱くことになった。
さらに、いかにもCCV然としたランドローバーとは趣を異にした性格とスタイリングに、めざとい新しもの好きな一部の顧客たちが引きつけられた。ルーブル美術館が、1971年に「工業デザインの模範的作品」として展示したことからも、発売時の衝撃と斬新さが理解できる。
農園のツールとして
開発段階において、大きな購入層として当初想定されたのは農民たちであり、初期のモデルには、道具として酷使される全天候型多用途車としての性格が明確に表れていた。一例を挙げれば、泥だらけのゴツい長靴のままでの運転を考慮した大きなペダル類がある。
また、室内の水洗いができるよう、シートもフロアマットもすべてビニール製とし、水洗い後の水はけを考慮して、フロアはサイドシルに向かってわずかに傾斜させてあった。
発売当時の価格は1台でCCVから乗用車まで何役もこなせる高い万能性を考えれば安価であり、当初は、意図したように農園で使われることが多かったという。
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1枚のカーペットがすべてを変えた
高いオフロード性能と信頼性を与えるべく、エンジニアはローバー製軍用車と同じ、ヘビーデューティーなトランスファー内蔵のLT95型変速機を与えた。難点はトランスファーからのノイズが大きめなことで、顧客からのクレームが予想されたことから、簡便で有効な遮音対策として、センタートンネルをカーペットで覆うことにした(報道陣向け試乗会に供された車両にも備えられていた)。
この1枚のカーペットが、レンジローバーのその後を大きく変えることになった。過酷な環境下で酷使する顧客は簡素な内装に共感しただろうが、乗用車としてこれを使う大多数の顧客(富裕層が多かったという)が求めたのは、もっと高級感のある内装であり、フロアだけでなく荷室にもカーペット張りを求めることが予想された。
ステータスが加わった
レンジローバーに“ステータス感”を加味する転機となったのは、かねてランドローバーを愛用してきたエリザベス女王陛下から下った借用依頼だった。発表会を終えた直後の新型車にとって、これほどの栄誉はなく、同時にレンジローバーはプレステージカーの高みへと駆け上がることになった。
最初期型の1台が英国王室伝統のグリーンに塗られ、シートやフロアは言うにおよばず、荷室内にも上質な内張りが施された。この仕様が市販型にも反映されるようになったのは言うまでもない。
こうして、設計段階では虚飾として排除された、豪華な装備が加えられることになり、高級化と多様化の一途をたどることになる。すなわち、最初はビニール張りであった内装も、ファブリックのほか、英国製高級車の証しともいえる上質な革張りも選択できるようになっていった。
それは好調な販売とリンクしたバリエーション展開にも見て取れる。初代レンジローバー(1970~1996年)は、発売当初は2ドアのみの設定だったが、1981年に4ドアモデルが加わり、1982年にはオートマチックギアボックスがオプション設定された。
1981年には高級仕様の「IN VOGUE(インヴォーグ)」が限定生産され、その後、カタログモデルとなった。
こうしてプレステージカーとして確固たる地位を築くと、1987年には待ち望まれていた北米市場での販売を開始。好景気であったことから、全世界規模でレンジローバーブームが巻き起こった。機構面では、1986年に2.4リッターディーゼルターボエンジンが追加され、1989年には4WD車としては初となるABSを搭載している。
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孤高の存在
レンジローバーの成功に触発されて、他社から続々と登場した亜流車の多くは、乗用車から枝分かれした、市街地の使用に重きを置いた“都会派SUV”である。もうひとつが、CCVやオフロードカーをSUVとして快適仕様に仕立て直したモデルである。
だがレンジローバーはそのどちらとも違う。前述してきたように、悪路での飛び抜けて高い走破性と、舗装路面では高級サルーンに匹敵する快適性を両立させることは、1970年の初代からレンジローバーがかたくなに守り続けてきたポリシーであった。オフロードカーとしてのメカニズムには妥協せず、内装にも贅(ぜい)を凝らして、高級サルーンに匹敵するしつらえを備えて現在に至っている。それは最新の第5世代でも変わらない。
世界最高峰の快適無比な全天候型多用途車を追い求めたレンジローバーは、唯一無二の存在なのである。それゆえに人は引きつけられるのだろう。
(文=伊東和彦_Mobi-curators Labo./写真=ジャガー・ランドローバー・アーカイブス/編集=藤沢 勝)

伊東 和彦
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