今年もやってきた「3・11」 東日本大震災の日に思うエネルギーとモビリティーの未来
2022.03.11 デイリーコラム日本のエネルギー戦略を一変させた未曽有の大震災
この時期になると、多くの日本人は11年前を思い出す。いうまでもなく「3・11」=東日本大震災である。あの未曽有の出来事について思うところは、みなさん一人ひとりにおありだろう。ただ、クルマ好きにとって、エネルギーのありかたを考えさせられる大きなキッカケになったことは間違いない。
あのとき、最初に起こったのはガソリン不足だ。各地のガソリンスタンドにできた長蛇の列を横目に、そのほんの数カ月前(2010年12月20日)に発売されたバッテリー式電気自動車(BEV)「日産リーフ」だけは元気に走り回れることを見せつけた。さらには、あの小さな車体に一般家庭なら数日分の電力を貯蔵できる能力を生かして、被災地に駆けつけて移動電源としてのポテンシャルも発揮。「やはり未来はBEVか」と思わせたりもした。ちなみに、現在のトヨタのハイブリッド車はほぼ全機種で外部給電機能を用意するが、それも3・11の教訓がキッカケだそうである。
しかし、福島第一原子力発電所の事故を機に、東京電力管内で計画停電が実施される。さらに各地の原発が停止したまま突入した同年夏には全国規模で電力不足が問題となり、「クルマまで貴重な電気で動かすのか」と一転して、BEVへの逆風が吹いたのをご記憶の向きもあるだろう。その後は原発見直し論が高まり、2012年5月には42年ぶりに日本国内の原発がすべて停止。一時的ではあるが、原発はついにゼロに追い込まれた。
現在は再稼働している原発もあるが、2020年を例にとれば、日本の全発電量に原発が占める比率は4.3%だった。震災前には日本の電力の約3割を原発が担っていたことを考えると、激減というほかない。その減少分をおぎなっているのは、一部は太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電(2020年は全体の10%弱)だが、大半は火力である。しかも、日本の火力発電は石炭比率が高く、それをもって「日本はカーボンニュートラルに後ろ向き」というありがたくないレッテルを貼られているのも事実だ。
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一筋縄ではいかない再生可能エネルギーの普及
そんななか、クルマの世界はなにはなくとも電動化に猛進している。CO2はもはや“排出低減”ではなく、一刻も早く“ゼロ”にするべきと、ハイブリッド車も含めた内燃機関そのものが世界的に禁止されようとしてるのはご承知のとおりである。
ただ、今後の主役とされるBEVとて、バッテリーなどの製造工程におけるCO2排出まで含めると「トータルで本当にエコなのか?」という議論もある。また、再生可能エネルギーである太陽光や風力、日本では期待値が高い地熱発電についてもメリットばかりではない。
太陽光発電はまったくCO2を出さない発電方法とされるが、日照時間に左右される発電量が不安定なのがデメリットだ。そして、とにかく場所をとる。たとえば100万kW級の発電施設は原発なら約0.6km2(≒東京ドーム約13個分)だが、太陽光だと東京のJR山手線の内側全部くらいの面積が必要らしい。太陽光を国家的な基幹エネルギーとするなら、それをあらゆる建造物の屋根に置くことになるだろう。そうなったら、寿命が30年とも40年ともいわれる太陽光パネルの大量廃棄・処分システムの構築も不可欠となる。
風力発電も太陽光と同じく気象条件によって発電量が大きく左右されるほか、設置コストが高いのがまずはネックである。また2018年8月23日には、兵庫県淡路島で高さ60mの巨大な風力発電タワーが倒壊した。当時の台風20号の強風の影響とみられる。実際に吹いた風速からすると、設計上の強度不足の可能性も指摘されたが、日本にやってくる台風がより大型化・凶暴化するであろうことが予想されており、それに耐えられる風力発電施設がコストに見合うのかは注視する必要があろう。
日本は火山国であり温泉大国ゆえ、われわれ素人には地熱発電はかなり有望に思える。地熱発電は基本的に枯渇の心配はなく、また太陽光や風力より安定した発電が可能である。ただ、発電効率が現時点では20%と低く、風力発電以上にコストが高い。地熱発電所の開発には地表調査から井戸を掘り、活電開始までに11~13年もかかるうえ、発電開始からモトがとれるまでには20年以上を要するという。
また日本の場合、地熱発電に適した自然豊かな土地はたいがい国立・国定公園に指定されていることもネックとなる。地熱発電所が大量につくられて、高温の蒸気、すなわち地下水をくみ上げ続けることの影響も不透明だ。地熱発電はそもそも現時点で国内全発電量の0.25%にすぎず、2030年にむけた目標でも1%程度らしい。長期的な期待はあるが、近い将来に主力エネルギーとなる可能性は低いのが現実なのだ。
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発電事情を無視して進む欧州のBEV推進
欧州は、世界でももっとも急進的なBEV政策を進めている。なかでもドイツは「2030年に再生可能エネルギー比率80%」と野心的な目標を掲げているが、2021年のそれは前年比で3.4ポイント減の42.4%となってしまうなど、目標達成にはまだまだ課題があるようだ。さらに、この2022年1月には、欧州委員会が「脱炭素化に寄与するエネルギー源」に、天然ガスと原子力を追加する委任規則を提案。再生可能エネルギーへの移行がやはり簡単ではないことを裏づけてしまった。
こうなれば、BEV戦略もそれなりに進めつつも、ハイブリッドを含む内燃機関も捨てない……という日本自動車産業の戦略は、とても合理的に思える。しかし、世界のBEV事情はもはや理屈ではなく、食うか食われるかのデファクトスタンダード争いと化している。クルマはクルマで電動化への猛進はやめず、それを動かす電力をどうつくるかは「It’s not my business=しったこっちゃない」というのが、欧州でEV規制を担当する当局のロジックなのだろう。
こうした再生可能エネルギーの問題が火種となって、BEVへの追い風があるとき逆風に変わる可能性もなくはない。ひとつの出来事をキッカケに、世の空気がガラリと変わりえることを日本人は知っている。しかし、世界中がBEVに前のめりの今は、日本も率先して走るしかないんだろうなあ……。そんなことを考えた今年の3・11である。
(文=佐野弘宗/写真=東京電力、webCG/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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