ジャガーFタイプR-DYNAMICブラック コンバーチブルP450(4WD/8AT)
天にも昇る気分 2022.06.07 試乗記 2025年にピュアEV専用ブランドとなるジャガー。最高出力450PSを誇る5リッターV8搭載の「Fタイプ コンバーチブル」に乗り、歴史の表舞台から去りゆくハイパフォーマンスエンジンと、オープンボディーが織りなす走りを味わった。このV8は気持ちがいい
排気量5リッターのV8スーパーチャージドエンジンを積む「ジャガーFタイプR-DYNAMICブラック コンバーチブルP450」に試乗しながら、いまこそFタイプに乗るべきタイミングではないかという思いが湧いてきた。クルマ好きのなかには、いやいや、なんで2012年に発表されたFタイプをいま買うの? と疑問をお持ちになる方もいるでしょう。
しかしですね、かつての英国貴族は、新品でぴっかぴかのジャケットや靴はカッコ悪いからと、1年ぐらい執事に身につけさせて、いい感じにクタッとしたところで自分が使ったというじゃありませんか。そのセンでいけば、デビューしたばっか、湯気が出るほどほっかほかのニューモデルに飛びつくのは英国紳士らしくないといえるのではないか。デビューから10年を経て、湯気も収まり、街を走ってもアッと指をさされることもなくなったいまこそ、Fタイプに乗る好機だ。
もうひとつ、心を震わせるようなV8エンジンを新車で買える最後のチャンスかもしれない、という理由もある。ご存じの方も多いように、ジャガーは2025年にはフルEVブランドに移行すると発表している。プロレスの大仁田厚選手は7回引退したけれど、ジャガーがこれからの3年で、「やっぱりもう一回エンジンのリングに上がります」と発表する可能性は低い。したがって、これがジャガー最後のV8エンジンと見て間違いないだろう。
これはまったくのヨタ話ですが、知り合いの中古車ショップオーナーは、「低金利で為替や株の相場も不透明ないま、優れたエンジン(車)こそ間違いのない投資対象である」と豪語していた。確かに、ちょっと古いクルマの一部が高騰している様子を見ると……、という投機目的とは関係なく、このV8は気持ちがいい。
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トルクは肉感的で濃厚
5リッターV8スーパーチャージャーは、最高性能版の「FタイプR」が積む最高出力575PSのエンジンを450PSにデチューンしたもの。しばらく前にこの575PS版に乗ったときには、なかなか凝った演出が施されたエンジンだと感じた。
どんなふうに凝っていたのかというと、低回転域ではちょっと不機嫌というか、バラつく感じだったのに、回転を上げるにつれてバラバラだった糸が1本に収束していくような感触を得たのだ。「不機嫌」→「ご機嫌」の落差にドラマを感じて、凝った演出だと感じた。
一方、この450PS版には低回転域でバラつく感じはない。ということは、もしかするとあれは演出ではなく、純粋にそういうエンジン特性だったのかもしれない。
それはさておき、450PS版はアイドル回転付近から洗練された雰囲気が伝わってくる。停止状態からブレーキペダルをリリースして、クリープでするっと前に出たところでアクセルペダルに足を乗せると、トルクが力強く湧き出してくる。
いや、このエンジンのトルク感は、力強いというのとはちょっと違う気がする。もっと肉感的で、濃厚という表現がしっくりくるトルク感だ。濃厚で滑らかなトルク感なんて書くと、繁盛している洋菓子店のプリンやチーズケーキのようだけれど、実際、ちょっと甘美な感じもする。過度の砂糖や乳脂肪は健康にはよくないけれど、ほっぺが落ちる。同様に、5リッターという大排気量のV8も環境にはよくないだろうけれど、天にも昇る気分にさせてくれる。
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回すほどに音が澄みわたる
低回転域では豊かでスムーズなトルクに身も心もとろけたけれど、回転が上がるにつれてタコメーターの針が上昇するスピードが速くなる。3500〜4500rpmあたりから、針がフワッと軽くなったかのように感じる。いわゆる、「カムに乗る」という感覚だ。このクルマのメーターパネルはデジタルの液晶で、したがって針もある種のアニメーションだから、この感覚は錯覚だろう。
でも、そんな錯覚をさせるほど、音の高まりと加速の盛り上がりがタッグを組んで、ドライバーに迫ってくる。音に関して言えば、このエンジンからは「ミーン」とか「キューン」というスーパーチャージャーっぽい音をほとんど感じない。回すほどに、音はカーンと澄みわたる。
単純にレスポンスを比較すれば、踏んだ瞬間にピュピュっと最大の電流が流れるBEVのほうが、反応は鋭いはずだ。それなのに、5リッターV8スーパーチャージャーの加速が気持ちいいと感じる理由は? 単純に内燃機関に慣れ親しんでいるだけかもしれない。あるいは、音や振動など情報量が多いぶん、エンジンのほうが五感に訴えかけてくるのかもしれない。アナログレコードの音のほうが、デジタルより豊かで厚みがあると感じるように。
ドライブモードで「ダイナミック」を選ぶと、エンジンのレスポンスはさらに鋭くなり、排気音も野蛮になる。でも、この美爆音はちょっと気が引ける、という場面もある。そんなときには音とエンジン、トランスミッション、パワステの手応えを個別セッティングで変更することができて、なるほど、スポーツカーづくりの手だれだと感心する。
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美しく走るためのスポーツカー
高出力エンジンを搭載したモデルでも、ばっきばきに足まわりを固めるのではなく、しっとりとロールさせながらコーナーをクリアするあたりは、いかにもジャガーらしい。目を三角にして峠を攻めたくなるというより、路面のコンディションやコーナーの曲率を読みながら丁寧に操作をして、きれいなコーナリングフォームで曲がりたくなるクルマだ。速く走るためのスポーツカーというより、美しく走るためのスポーツカーという印象だ。
気になったのは、屋根を開けて走ると足まわりがバタつくと感じられること。屋根を閉じているとそんなことは感じさせないけれど、オープンの状態でコーナリングを敢行すると、足並みが乱れる気配がある。ボディーがねじれたり歪(ゆが)んだりすることで、結果としてサスペンションが正しく接地しなくなるという印象だ。
このあたりはさすがにデビューから10年を経て、基本設計がやや古くなっていることを意識させる。
けれども、あばたもえくぼというか、絶品のV8にシビれた後だと、「そりゃあ屋根を開けたら剛性も落ちるよね」と、擁護したくなる。
犬が好きな人によれば、子犬もかわいいけれど、それが成犬になり、老犬になると、さらにかわいらしさが増すという。デビュー当時は悪役キャラで売り出していたFタイプも、年月を経て、アクや脂が抜けて、ちょっとかわいらしいたたずまいになっている。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ジャガーFタイプR-DYNAMICブラック コンバーチブルP450
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1310mm
ホイールベース:2620mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:450PS(331kW)/6600rpm
最大トルク:580N・m(59.2kgf・m)/2500-5000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1696万円/テスト車=1823万9000円
オプション装備:ボディーカラー<アイガーグレイ>(0円)/マーズレッドウィンザーレザーパフォーマンスシート(0円)/アルミニウムローレット(6万3000円)/ブレーキキャリパー<レッド>(5万円)/2ゾーンクライメートパック(9万5000円)/MERIDIANサラウンドサウンドシステム(37万9000円)/ステアリングホイール<ヒーター付き>(4万1000円)/ウインドディフレクター(14万円)/プレミアムキャビンライト(6万3000円)/パークアシスト(10万7000円)/地上波デジタルTV(13万1000円)/12ウェイ電動フロントシート<ヒーター&クーラー、メモリー付き>(21万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1803km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:378.7km
使用燃料:39.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/10.3km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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