第3回:ただ速いだけじゃない
「ジャガーFタイプSVR」の真価とは?
2017.02.28
「ジャガーFタイプ」の魅力を知る
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最高出力575ps、最大トルク71.4kgmを発生する、「ジャガーFタイプ」のトップグレード「SVR」。専用の空力パーツとさらに引き締められた足まわりを持つこのモデルは、絶対的な動力性能以外の点でも、大きな存在感を放っていた。
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雰囲気のあるクルマ
記者は困り果ててしまった。東京の端っこでプロレタリアートの鑑(かがみ)みたいな生活を送っている自分が、英国が誇る高級スポーツカー「ジャガーFタイプ」の長期リポートを、それもトリを任されてしまったのである。
しかも、お相手は普通のFタイプではない。ラインナップの頂点に君臨する「SVR」の、よりによってコンバーチブルである。タダモノではなさすぎる。「アンモナイトグレイ」と呼ばれるシックなボディーカラーが救いだが、それを差し引いても、人目を集めるのに十分な存在感を放つ。
そもそも、世のセレブリティーはこんなクルマでどこへ、どんな格好でお出掛けするというのか? 一山いくらの東京・恵比寿のリーマンには、皆目見当がつかない。
「下手の考え休むに似たり」とはよく言ったもので、散々悩んだ揚げ句に「まあ、いつも通りでいいか」という結論にいたった記者は、まず首都高速の某パーキングエリアを目指すことにした。あまりきれいな場所ではないが、日の出のころは陽光とビル群のコントラストがとても美しいのだ。
そうと決まれば早速支度。「シエナタン」のレザーシートに色移りしないよう、下には黒の綿パンを履き、上には寒さ対策に、これまた黒のダウンジャケットを羽織る。まるでダークサイドに落ちたビバンダム君である。一方で、駐車場で待つメタリックグレーのFタイプは、走っていなくてもホレボレする。黒のソフトトップとの組み合わせがいかにも精悍(せいかん)で、同じ黒系のモノトーンなのに、自分の格好とのギャップに戸惑う。ごく一部のスポーツカーだけが持つ、「このクルマに乗るんだから、服を買わなきゃ」と思わせる空気が、Fタイプにはちゃんとある。
イグニッションオンでの「ズバン!」という爆音に気おされつつ、自宅のある東京・武蔵野を出発。幹線道路に出て、左車線をとろとろ走りながら屋根を開けるとと、外の寒気と空調の暖かさとのギャップが誠に心地よい。雪山で露天の温泉につかっているような、そんな気分になる。
しかし、乗り心地と走り心地はそんな“癒やし”からは程遠い。なにせ、アシもボディーもバッキバキなのだ。
日本の道では余力がありすぎる
サスペンションには可変制御ダンパーが装着されており、「シーンに合わせて最適な状態に減衰力を調整してくれる」(ジャガー・ランドローバー・ジャパン担当者談)とのことだが、今回の試乗では、Fタイプはどの場面でもゴリゴリのスポーツカー・ライドを保ち続けた。きっと、このクルマでいう「最適な状態」とは、「持てるパフォーマンスを即座に発揮するための、最適な状態」ということなのだろう。
一方で、普通に走らせている限りはエンジンはいたって静か。始動時のひと吼(ぼ)えを聞いて、「公道を走れるシロモノではないんじゃないの?」と恐れをなしていたのだが、実際にはそんなことは一切なかった。高速道路での合流や追い越しも、乗員に「フーン」と鼻息を聞かせるだけで、軽くこなしてしまう。1回だけ、料金所ダッシュでアクセルを踏みつけたときには豪快なサウンドと暴力的な加速を披露したが、本気で吼えたのはその時だけ。モードスイッチでわざと爆音にしてやらない限りは、このエンジンはとても紳士的だ。
恐らく、日本の道路事情では余力がありすぎるのだ。高速道路でも峠道でも、すべてを“鼻息モード”でこなしてしまう。そんなことだから、ひとつ下……というか上から2番目の「R AWD」との間にも、大きな違いを感じることはなかった。なにせ、550psと575ps、69.3kgmと71.4kgmの差でしかなく、そんなものを試そうと思ったら、デカいサーキットにでも持ち込むしかない。
しかるべき場所でこそ本領を発揮し、普段はそのための佇(たたず)まいとドライブフィールで、ドライバーにそのときを夢想させる。最新の高性能モデルに共通するマナーである。
サービスエリアでの撮影を済ませたら、そのままクルマを返す予定だったのだが、ちょっと気が変わり、箱根まで足を伸ばすことにした。
荒れた路面を踏みしだきながら、デカいエンジンにモノをいわせてグイグイ走る気持ちよさは、アングロサクソン系スポーツカーの特権だ。記者のような小心者が、法定速度内で走っていても十分に楽しい。しかし、いざ目的地にたどり着き、クルマから降りてその姿を振り返ると、やっぱり気後れしてしまう。普段着でここまで運転してきてしまったことが、申し訳なく思われる。
やはり、ジャガーFタイプSVRはドライバーの器量を試すクルマである。その辺について自信があるという方は、ぜひ一度、己を試してみては?
(文と写真=webCG ほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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