ジャガーFタイプ V8 S(FR/8AT)
一世一代のピュアスポーツ 2013.05.26 試乗記 ジャガーひさびさの2シーターロードスター「Fタイプ」が、いよいよ日本に上陸する。スペインの地から、そのファーストインプレッションをお届けしよう。「Eタイプ」の再来か
伝説の名車「Eタイプ」の登場から半世紀の時を経て、ジャガーが久しぶりにピュアスポーツの市場に参入する。その意気込みはなにより、直接的な後継を示す「Fタイプ」という車名に表れている。
じゃあ、なにをもってピュアスポーツとするのか。その定義づけは難しい。かつては専用プラットフォームを持つものがそう言われてきたが、今やそんなぜいたくが許されるのは超高級スーパーカーのみだ。多くの場合は出発点が崇高でも、商業的な間口を広げるために付加価値を加え、それと引き換えにある程度の打算的な作りを余儀なくされる。
言うまでもなく、ジャガーはラグジュアリーという付加価値が備わったクルマ作りを得意としてきたメーカーだ。そしてEタイプ以降、1970年代前半からの2ドアクーペにおいても、2+2シーターのパッケージでどちらかといえば流麗な高級GTという色合いを濃く打ち出してきた。その市場で一定の成果と存在感を持つジャガーが、なぜあえて今、わざわざFタイプという重い名前を掲げて2シーターロードスターという難しいカテゴリーに再参入しようというのか。現物を目にするまで、僕の頭の中では今ひとつすっきりしない思いが渦巻いていた。
スペックに見るジャガーの本気
全長4470mm、全幅1925mm、ホイールベース2620mm。堂々たる体躯(たいく)である。既存のクルマと比較すれば、成り立ちやパッケージ的に最も近いクルマは「C6コルベット」になるだろうか。が、それよりもホイールベース/トレッド比はやや正方形寄りといえば、いかにハンドリング志向のディメンションであるかがおわかりいただけると思う。
Fタイプに用意されるエンジンはグレードに応じて3タイプ。最新の3リッターV6直噴スーパーチャージャーは、チューニングの違いでベースモデルが340ps、「S」モデルが380psとなる。加えて、トップエンドの「V8 S」モデルはAJ8系の5リッターV8直噴スーパーチャージャーを搭載、その最高出力は495psだ。日本仕様は340psのベースモデルとV8 Sの2グレード構成となり、前者は最高速が260km/h、0-100km/h加速が5.3秒、後者はそれぞれ300km/h、4.3秒となる。動力性能的にもスポーツカーとして一線級のところにあるといえるだろう一方で、ワイドレンジのZF製8段ATを全グレードに標準採用することもあり、CO2排出量は前者で209g/kmと、高い環境性能を両立していることも見逃せない。
ジャガーいわく第4世代という全く新しいアルミモノコックシャシーは、全体的な曲げ・ねじれ剛性もさることながら、最新の解析技術から得たデータを元にダイカスト等の部品単品剛性にも気を配り、操作に対する確度向上を目指したという。さらに衝突時の衝撃緩衝帯に高強度プラスチックを用いるなどの軽量化や、バッテリーやウオッシャータンクの後方レイアウトによる重量配分の最適化により、50:50の前後比と共に、そのホワイトボディー重量は261kgに仕上がっている。
フロントフェンダーにかぶせるように形づくられたボンネットや両峰をつまみ上げたリアフェンダーなど、Eタイプへのオマージュを感じさせるエレメントには事欠かないFタイプだが、内装の仕立ては基本的にモダン路線だ。助手席側にアシストグリップ的なハンドルを持つ左右非対称のコクピットはドライバーオリエンテッドに仕立てられ、バイワイヤーのシフトセレクターはレバー式を採用、ステアリングにはゴールドアルマイトのパドルが添えられる。
マルチインフォメーションモニターにはオーディオやナビゲーションのほか、操舵(そうだ)のパワーアシストやサスペンション、スロットルや変速等のマネジメントを個別に設定できる機能が織り込まれ、すべてはタッチパネルでの操作となる。それによってスイッチ類の大幅な削減を可能にした一方で、電動ポップアップ式のエアベントが特徴的な空調は独立した操作系を持ち、走行マネジメントの簡単な切り替えもシフトレバー脇のスイッチで行えるなど、スポーツカーらしい機能性を優先して設計された。そして、そのスイッチ類はトグル型にデザインされるなど、端々にはクラシックカー的なモチーフを織り込んでいる。
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機敏でありながら味わい深い
サーキット走行を交えつつ、道幅や曲率の変化に富んだワインディングロードを織り込んだ約500kmの試乗は、Fタイプの狙いがなんであるかをしっかりとあぶりだしてくれた。
まず、操作に対するすべての反応がこれまでのジャガーのイメージとは違う。ひと言でいえばとにかく早い。が、せわしく感じられるほどのキツさではない。例えば、ステアリングを切るとじわりとにじみ出るようにゲインが生まれていたジャガーらしい感覚はそのままに、立ち上がりまでの反応時間を劇的に縮めた感じというところだろうか。余談ながらガジェットの世界ではタブレットやスマホのレスポンスを評して「ヌルサク」という言葉が使われるそうだ。指にピタッと吸い付くようななまめかしい動きがありながら、操作そのものはまったくストレスがない、そんな状況を指すものらしい。Fタイプのそんなヌルサク感はステアリングだけでなく、アクセルやブレーキなどの基本的な操作ものの応答性に一貫している。
V6モデルとV8モデルの差異は動力性能において決定的だが、V6モデルとて速さでは十分なものを供してくれる。逆に両車の運動性能における面では、鼻先のマスの違いから想像するほどの差異はないというのが運転しての実感だった。リアに電子制御LSDを搭載することを差し引いても、鼻先だけで50kgくらいは重いだろうV8モデルは、操舵感にやや手応えが加わるものの、タイトターンでもしっかり操舵輪を粘らせてスラスラとコーナーをクリアする。厳密に言えば、より軽快感に富んだV6モデルはサーキットレベルのスピードレンジでしっかりと一体感を示してくれるという印象だ。
ポテンシャルは一級品
そんなFタイプの印象に大きく寄与しているのは恐らくサスペンションの出来だと思う。というのもこのクルマ、あえてこじるような入力を加え、過大な負荷を掛けてみてもタイヤが悲鳴を上げる気配がない。とことん高いところにある限界域を過ぎて、じわじわとリア側がブレークしていく過程ですらそんなものだから、サーキットでの走行後に履いていた「ピレリPゼロ」をチェックすると、トレッドの際のキワまでを完璧に使い切ってきれいに溶けていた。約8000km、散々いじめられただろう試乗車をしてそれである。まずとことん理想的にタイヤを路面につけるサスペンションの設計があり、加えていかにそれが想定通りに動いているかということだ。
これなら2シーターのスポーツカーとして一級のポテンシャルを持っていると、サーキットやワインディングの試乗で確信を持ったわけだが、一方でそのために犠牲になったものもある。Fタイプの積載性はこの手のクルマとしてはミニマムに近い。ゴルフバッグやスーツケースといった大物の積み込みはまず無理だろう。
グレード展開や動力性能から察するに、FタイプのV6モデルの直接敵はポルシェのミドシップモデルおよび「911」であることは明白。対してV8モデルの方は、「メルセデス・ベンツSL63 AMG」にも比する総合力があるというのが僕の見立てだ。が、Fタイプはこれらライバルに対して、積めないという一点だけでかなり敷居が高いものになっていることも間違いない。乗り心地を含めた快適性にまったくケチのつけようがないだけに、ロングツーリングにも耐えうる実用性を確保したいところだったはずだが、ジャガーはあえてそれを切り離して“走り推し”でパッケージや車体構造を優先したわけだ。
あるいはそれは、当然追加を検討しているだろうクーペモデルに担わせるということか。ともあれ、ジャガーがFタイプを一世一代の大勝負でピュアスポーツに仕立て上げたということを、買う側も認識しなければならない。歴史や名声やとさまざまなものが背景に潜む彼らのスポーツスピリットを理解すれば、荷物うんぬんなんて無粋な話はなしにしようと思えるはずだ。それだけの佇(たたず)まいや走りが、このクルマにはきちんと備わっている。
(文=渡辺敏史/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプ V8 S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1932×1307mm
ホイールベース:2622mm
車重:1665kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:495ps(364kW)/6500rpm
最大トルク:63.7kgm(625Nm)/2500-6500rpm
タイヤ:(前)--/(後)--
燃費:11.1リッター/100km(約9.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:なし
※欧州仕様
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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