「iPhone」がメーターパネルに侵入!? アップルの次世代型「CarPlay」に思うこと
2022.07.01 デイリーコラム車内に広がるアップル
さる2022年6月6日(現地時間)、アップルが米国クパチーノの本社で行ったイベント「WWDC(世界開発者会議)」で、開発中の新しい「CarPlay」の概要が公開されました。
そもそもWWDCはコンシューマーではなくデベロッパー向けのカンファレンス。つまり、アップルの土俵に乗っかってひともうけしようという業界関係者向けの催し。それでも注目を浴びるのは、そこがハード/ソフト双方の新製品の発表の場となっているからです。今回も新型「MacBook Air」や「iOS 16」がお披露目されたわけですが、そのなかで新しいCarPlayはスニークピーク、つまりチラ見せのかたちで、ざっくりとアウトラインが示されました。
スニークゆえ、発表画像はダッシュボード一面に配された液晶パネルとセンターコンソールの液晶パネルとの2段構えになったコックピットの写真と、それを元にしたもののみ。ステアリングらしきシルエットが車中であることを印象づけています。
そして、その画像のセンターコンソールモニターには目慣れたCarPlayのアプリコントロール画面が置かれ、ダッシュボードモニターには気温や天気、時計等のさまざまなウィジェットが並べられるほか、助手席面にはミュージックフォルダが、運転席面には速度計や水温計、距離計やナビ画面などが表示されていました。
ダッシュボード一面がモニター化されているのは、中国のスタートアップがつくったBEVのコンセプトカーなどにも見られる、いかにもなディテールです。が、車内は温度・湿度の上下幅が大きく、膨張や収縮、加振などの要素を無視できないのはお察しのとおり。液晶モニターなら上が85度の下が-40度、例えば温度65度で湿度95%など、最低限、そういう環境の下で継続作動することが求められます。
クルマだから難しい
耐久性やリペアビリティーといった基本要件を達成しながら、これほどのサイズのパネルを1枚でしつらえるのは相当難しい。そして最悪、落ちた場合はすべての情報が見えなくなるわけで、冗長性を重視する自動車メーカー的発想ではそれは相いれません。例えば同じ表示コンセプトを持つ「ホンダe」がパネルを3分割しているのは、耐久性が実証できている規格パネルを使うことでコストを抑えるとともにブラックアウトを防ぐという意味があります。
まぁそんなことは、後々ハード側が技術的に克服すればいいこと。確かにそうです。
そんなことでビビってるから、テスラみたいなクリーンな内装ができないんだよ。それも、確かにそうでしょう。
でも、自動車メーカーには絶対的に譲れないものがある。それが“安全”です。特に運行に直接的に影響がある要素についてはよそに丸投げすることなく自らも徹底的に試験や解析、調査を繰り返して把握しておくことを是(ぜ)とします。ともあれ、自分たちの商品が関与する事故は絶対にあってはならない。国の内外を問わず、世の自動車メーカーはそういうマインドで日々仕事をしているはずです。
CarPlayが発表されたのは2013年。そこから8年以上の時がたち、ようやく大半のメーカーがそれを採用する状況になってきました。IT業界のタクトからすれば、アホかというほど時間を要したことと察します。
もちろん一等地に置かれるインフォテインメントシステムのコンテンツをよそ者に牛耳られてなるものかというメーカーの意地もあったでしょう。でも並行して、自分たちのハードにCarPlayを接続することで不具合や不良は生じないかという検証も入念に進められていたことは想像に難くありません。
特にスマートフォンは常時ネット高速接続と、ウイルス混入やハッキングなどを企てる人にとっておあつらえの特性を持っていますから、メーカーが慎重になるのは当然といえば当然です。それらの検証によって安全にめどが立つとともに、利便性にまつわるユーザーの声に押されたという側面もあって、この数年で実装が進んだというのが実情なのでしょう。
「便利」が正義なのではない
でも、先日発表されたCarPlayについては、自動車メーカーが採用にさらなる慎重を期すことは想像に難くありません。それは車速だの距離だの温度だの燃料だのと、クルマが走るために必要な情報へのアクセスをアップルが求めることになるからです。それは言ってみれば、クルマの心臓や頭脳の情報を見ることになるわけで、ハッキングの危険度もインフォテインメントまわりとはレベルが違います。
あるいは、運行情報の表示をもくろんでいるというところからうかがえるのは、今までスマホなしでは始まらなかったCarPlayを、車載OSとして一括で採用するよう自動車メーカーに提案するステップに移行する、ということを示唆しているのかもしれません。同時に、うわさが絶えない“アップルカー”みたいなところをその向こうに匂わせる的な意味合いも込められているのでしょうか。
さしずめCarPlay 2.0とでも申しましょうか、その詳細と採用車種については2023年の発表とされています。で、今回はこれに乗っかるという14のブランドが発表されました。日本のメーカーでは日産&インフィニティやホンダ&アキュラの名が見られます。
でも、クルマ屋目線で見るとこの顔ぶれからもいろいろ邪推してしまうんですよね。ゼネラルモーターズとトヨタはスルーかとか、アウディやポルシェの名がある割にはフォルクスワーゲンの名前はないのねとか、アップルと距離が近そうだったBMWはどうした? とか、ホンダとボルボは確かGoogleとも握ってるよね……等々。
果たしてアップルが今回発表したこの面々は、どこまで本気で連携を考えているのか。今時点ではちょっと見えないところがあるのも確かです。日本はiPhoneのシェアが異様に高いので注目度も高いのかもしれませんが、世界的にみるとこの情報自体、WWDCの小さなトピックだったのかもしれません。
アップルはIT業界にあって、ものづくりに携わるメーカーとしての色合いも濃い会社です。ファブレスとはいえ最近はiPhoneのような製品だけでなく、その中に入れるSoC(System on a Chip)も専用設計するなど、物を通しての理想の具現には並ならぬこだわりがあります。その気概があるならば、自動車メーカーが自らの製品にいかに安全への矜持(きょうじ)を託しているかも理解できるのではないでしょうか。
ゆえに求められるのは便利というだけではない、CarPlayによってどんな未来を実現しようとしているのかという理念や、自動車メーカーが求めるセキュリティー要件への透明性などを、時間がかかってもしっかりと伝えていく、そんなコミュニケーションが大事なのだろうと思います。
(文=渡辺敏史/編集=関 顕也)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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