トヨタ・アクアGRスポーツ(FF/CVT)
昭和オヤジに刺さる 2023.03.28 試乗記 TOYOTA GAZOO Racingが手がけた「アクア」のスポーツコンバージョンモデル「アクアGRスポーツ」に試乗。モータースポーツで得られた知見を生かし、トヨタ屈指の“凄腕(すごうで)の匠(たくみ)”が味つけした、その仕上がりを確かめた。専用パーツで内外装をチューン
「GRスポーツ」とはトヨタ量産機種のカタログモデルとして展開されるスポーツグレードである。ただし、パワートレインや車体構造の専用化までは踏み込まないのが、GRスポーツの流儀だ。フォルクスワーゲンの「GTI」やホンダの「タイプR」に相当するような、そこからさらにギアを1~2段上げたモデルはGRスポーツではなく、車名筆頭に「GR」が冠せられる。お察しのように「GRヤリス」や「GRカローラ」がそれにあたる(FFと4WDのちがいはあるにしても)。
2023年3月現在、GRスポーツは「コペン」「C-HR」「ランドクルーザー」「ハイラックス」「ヤリス クロス」、そして今回のアクアに設定されている。アクアGRスポーツは2022年11月29日のアクアの一部改良を機に追加されたものだ。
エクステリアはその直前の2022年8月に発売されたヤリス クロスGRスポーツより特別感が強い。ヤリス クロスのGRスポーツではフロントグリルのメッシュ化と前後バンパーといった下半身のデザイン変更にとどまっていたが、アクアはセンターグリルも含めたフロントバンパーが丸ごと専用となって、長方形+メッシュの「ファンクショナルマトリックスグリル」を含めて、フロントフェイスはGRお約束のデザインでまとめられた。ショルダーが張り出したフロントバンパー形状はより強めのダウンフォースも発生するという。
さらにはサイドスカート、そしてリアバンパー下半身のディフューザーデザインも専用で、リアバンパーの処理はヤリス クロスGRスポーツのそれより本格的。結果として全長は標準のアクアより45mm大きくなっている。具体的にはフロントバンパーで20mm、リアのディフューザーで25mm、それぞれオーバーハングが伸びている。インテリアはリム部レザーがディンプル加工されたステアリングホイールとスポーツシートなど、ドライバーの体が直接触れる部分が専用なのが目を引く。
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まずはタイヤ探しからスタート
GRスポーツは快適性をできるだけ犠牲にせず、街なか、高速、ワインディングロードといった一般公道でのハンドリングにスポーツ性を加えるのがコンセプトという。限界特性を軽んじるわけではないが、その手前での「意のままで楽しい走り」をさらに重視しているらしい。
今回のアクアGRスポーツでは、バーを追加した車体剛性強化、専用タイヤ、スプリングとダンパー減衰の専用化、フロントロアアームの強化型ブッシュ(GRヤリスからの流用)、パワステとパワートレインの専用制御、さらに締めたときに面がしっかりと当たって精度や剛性が向上する溝付きワッシャーボルトをリアサスペンションの各部に使っている。
こうしてチューニング内容を文字にすると、同じ「GA-B」プラットフォームを土台とするヤリス クロスGRスポーツのそれとよく似ている。両車の開発チームは同じではないが、味つけ責任者はどちらもトヨタ屈指の“凄腕の匠”である大阪晃弘氏で、ほぼ同じ時期に、同じ素材を使って、同じテーマで仕上げられたのだから似ているのは当然だろう。
とくに興味深いのは車体強化のやりかたで、ヤリス クロス、アクアとも強化バーをフロアトンネルとリアエンドに追加している。大阪氏によるとこれは「前後バランスを考えた施策」とのことで、ひと昔前のストラットタワーバーのようにフロントを集中的に固める手法は、最近は見られなくなった。
ただ、GRスポーツの完成にいたるまでの経緯は、ヤリス クロスとアクアでは少し異なる。このアクアGRスポーツの開発は「まずはインチアップありき」で、標準にはない17インチの適切なタイヤ探しからスタートした。アクアは基本的に日本専用で、さらに数が絞られるGRスポーツでタイヤの専用開発はむずかしい。というわけで、今回は最終的にヤリスの前身である先代「ヴィッツGRスポーツ」が使っていた「ブリヂストン・ポテンザRE050A」が選ばれて、そのタイヤを前提に各部のチューニングが進められたという。
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どんなシーンでもビシッと安定
今回の取材は富士スピードウェイを拠点としたメディア試乗会で、試乗は周辺の市街地とワインディングロードでの20分ほどの“ちょい乗り”にとどまった。そのうえでご報告すると、今回のアクアはランドクルーザーやハイラックスを除いた舗装路系モデルのGRスポーツとしては、いちばん分かりやすい商品である。
コペンやC-HR、ヤリス クロスは、そもそもスポーツテイスト強めの走りを訴求するクルマだ。そのGRスポーツも、基本は標準モデルと同一路線上にある味わいを、快適性の犠牲も最小限に、より高精度に表現したものといっていい。いっぽう、アクアのGRスポーツは最初の走りだしから、標準のアクアとはまるでキャラクターがちがう。
標準のアクアは接地性や回頭性に、GA-Bならではの高剛性・低重心・低慣性マスという基本フィジカルをうかがわせつつも、あくまで低速でもフンワリゆったりした快適性を重視した仕立てなのが特徴だ。とくに比較試乗用に用意された標準系最上級グレードの「Z」はフロントにレクサスゆずりの「スウィングバルブショックアブソーバー」を備えており、さらに路面からのアタリが柔らかくなるいっぽうで、操舵や路面凹凸による姿勢変化も正直いって大きい。
そのアクアのGRスポーツは標準モデルとは好対照に、操舵した瞬間からロールらしいロールを感じさせず、素早くターンインする。使われているダンパーもZのスウィングバルブ型がベースではなく、それ以外のグレードが使うノーマル構造ダンパーの減衰力を引き上げたタイプ。それもあって、上屋はどんなシーンでもビシッと安定した姿勢をくずさない。
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古典的なホットハッチ然とした味わい
ただ、路面からの突き上げは標準のアクアより明確に目立つのはご想像のとおり。あのたおやかな肌ざわりからすると、GRスポーツのそれは「コツコツ」と表現せざるをえない。標準の乗り味がひと昔前のフランス車風とすれば、GRスポーツは、同じくひと昔前のドイツ車的な風合いだ。
しかし、どちらもあくまで“ひと昔前”であり、今はブランド国籍で操縦性や乗り心地に明確な傾向が出るような時代ではない。アクアGRスポーツにしても、標準よりは突き上げはハッキリしているものの、そこに不快な鋭さはまるでなく、あくまで丸められた肌ざわりなのが最新のシャシー技術である。
さらにパワステやパワートレインの制御が専用になる点も、先行ヤリス クロスと同様だ。「エコ」「ノーマル」「パワー+」とあるドライブモードを切り替えても、標準のアクアで変化するのはパワートレインだけだが、GRスポーツでは「パワー+」にするともともと重みを増していたパワステはさらにズシンと重くなる。加えて、そのパワートレインも加速側だけでなくアクセルオフ時の減速度も高まり、ワンペダル的な味わいはさらに強まる。
こうしてパワー+モードに設定したアクアは、引き締まったフットワークに加えてパワステは明らかにズシッと重みを増して、アクセル操作による荷重移動にもよりメリハリがつく。ワインディングロードを走るときのアクアGRスポーツの、それなりに手ごたえがある古典的ホットハッチ然とした味わいは、筆者のような昭和オヤジには心地よい。
アクアGRスポーツの本体価格は259万5000円で、先進安全装備やディスプレイオーディオといった常識的なオプションを追加すると300万円弱になる。ライバルともいえるクルマと比較すると「日産ノート オーラNISMO」とほぼ同等価格といってよく、「ホンダ・フィットe:HEV RS」はこれらより30万円前後安い。いずれにしても、機会があれば3台をじっくり乗り比べたいところだが、今回のちょい乗りの印象でいうと、アクアはフィットとならんでパワフル。その硬派体育会系を思わせるGRスポーツの乗り心地や操縦性は、どちらかというとNISMOに近い。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
トヨタ・アクアGRスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4095×1695×1485mm
ホイールベース:2600mm
車重:1150kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:29.3km/リッター(WLTCモード)
価格:259万円/テスト車=310万7600円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッドII>(5万5000円)/トヨタチームメイト<アドバンストパーク[シースルービュー機能付きパノラミックビューモニター]+パーキングサポートブレーキ[周囲静止物]>(9万7900円)/Bコンフォートパッケージ(3万0800円)/カラーヘッドアップディスプレイ(4万4000円)/Bi-Beam LEDヘッドランプ<マニュアルレベリング機能付き>+LEDターンランプ+LEDクリアランスランプ<デイライト機能・LEDフロントフォグランプ>(11万円)/ブラインドスポットモニター<停車時警報機能付き>+パーキングサポートブレーキ<前後方静止物>+パーキングサポートブレーキ<後方接近車両>(4万6200円)/10.5インチディスプレイオーディオ(3万8500円)/自動防げんインナーミラー<ドライブレコーダー付き>(5万3900円)/ ※以下、販売店オプション ETC車載器<ビルトイン、ボイスタイプ>(1万4300円)/フロアマット<GRフロアマット>(2万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1027km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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