ポルシェ・カイエンSクーペ(4WD/8AT)【試乗記】
ポルシェの黄金比 2024.04.29 試乗記 「ポルシェ史上、最大級の広範な製品アップグレード」を受けたという「カイエン」。ガラリと変わったダッシュボードなどが目新しいが、シャシーを中心とした中身の変化もなかなかのものだ。「カイエン クーペ」の「S」グレードを試す。スポーツカーメーカーの救世主
ポルシェ・カイエンの初代がデビューしたのは2002年。当時自分は30歳代中盤だったけれど、大変せんえつながらも「とうとうポルシェもやっちまったな」と思い、実際に試乗して「なんだかポルシェらしくない」などと大口をたたいていた。そんなヤツが最新のカイエンに乗って「やっぱりポルシェはスゲえなあ」などと感心しているのだから、われながらほとほとあきれてしまう。
2000年代初頭、北米では空前のSUVブームが巻き起こり、まさしく“猫も杓子(しゃくし)も”SUV開発に乗り出した。なかにはポルシェのように、それまではSUVなんかに目もくれなかったメーカーでさえも、その潮流に乗っかった。そしていまではランボルギーニもフェラーリもロールス・ロイスもベントレーもアストンマーティンもマセラティもロータスでさえもSUVをラインナップにそろえるに至った。
特にスポーツカーメーカーにとってのSUVは、新しいビジネススキームを生むきっかけにもなった。黙っていても飛ぶように売れるSUVで稼ぎ、その利益を本業たるスポーツカーの開発費に充てようという算段である。スポーツカーは、自動車専門の媒体やクルマ好事家の間では話題になるものの、開発に手間とお金がかかるわりに台数はそれほど出ない。しかしスポーツカーメーカーを名乗り、その歴史と伝統を守るためにはスポーツカーの開発をやめるわけにもいかない。そんな時に突如現れたのがSUVブームだった。スポーツカーメーカーがSUVをつくるなんて、老舗のそば屋がある日突然パスタのメニューを始めるようなもので、当初はネガティブな反応も少なくなかったものの、程なくして稼ぎ頭となる。ビジネス的観点からすれば、結果的にSUVはスポーツカーメーカーの救世主となったと言ってもいいかもしれない。
「S」にV8エンジンが復活
3代目となる現行のカイエンがデビューしたのは2018年で、2023年にいわゆるマイナーチェンジを受けた。そろそろフルモデルチェンジでもいいような気もするけれど、電気自動車(BEV)か内燃機関(ICE)か、その両方かなど、先行きが不透明なこの時代に焦ってニューモデルを投入するのは得策ではない。弟分の「マカン」はすでに次期型をBEVとしたがICEも継続販売するそうで、マカンで市場の反応をうかがおうという魂胆もあるのかもしれない。
改良型のカイエン(とカイエン クーペ)は、エクステリアに大きな変更は見られない。HDマトリクスLEDライトが選べるようになったことによるヘッドライトの意匠刷新とボンネット/フェンダー/リアエプロンの形状変更くらいとなる。いっぽうインテリアは様変わりしているが、ようやく最新式のHMIにアップデートされたというべきだろう。その作法は強いて言えば「タイカン」に準じたもので、シフトレバーがセンターコンソールからメータークラスター脇に移動したり、助手席前にも第3の液晶ディスプレイが配置できるようになったりした。
パワーユニットはV6とV8、そしてV8ハイブリッドの4種類。サラッと「V8」と書いたけれど、従来のカイエンSに搭載されていたのはV6だった。それ以前はV8だったので、カイエンSについては「V8の復活」といえる。カイエンとカイエン クーペともに「カイエン」「カイエンEハイブリッド」「カイエンS」「カイエンS Eハイブリッド」「カイエン ターボEハイブリッド」の5仕様が用意されるが、カイエン クーペにはさらに「カイエン ターボEハイブリッド クーペwith GTパッケージ」が追加されている。今回の試乗車はカイエンSクーペである。
秒で決まるシートポジション
カイエンは運転席に座っただけで、体が「これはポルシェです」と認識してくれる。なぜなら、ステアリング/ペダル/シートの位置関係がポルシェのそれだからだ。「それ」が具体的にどうなのかを論理的に説明できればいいのだけれど、自分にはそこまでのスキルがない。ただ、ポルシェが「911」を長きにわたって開発するうちに、ステアリングとペダルとシートの相関関係に関する黄金比のようなものを確立し、それが「718」や「パナメーラ」やタイカンやマカンやこのカイエンにも用いられていると推測している。そしてこれは自分だけかもしれないけれど、ポルシェに乗るといつもシートポジションをあっという間に探り当てることができる。走りだした後も、ああでもないこうでもないとシート調整スイッチをずっとさわり続けるクルマもあるというのに、ポルシェはいつも“秒”で決まる。カイエン クーペも例外ではない。
その黄金比とは、ペダルとステアリングの角度や位置が、手足に余計な負荷がかかることなく最適な操作荷重で扱えるようになっているということ。911とカイエンでは、フロアからヒップポイントまでの距離が明らかに違うのに、どうして同じような位置関係が構築できるのか不思議でならない。いずれにせよ、無理なく自然と運転に集中できる姿勢が保たれるので、クルマの動きやロードインフォメーションに意識を払うことができるのだ。こうなると、今度は気になる部分があらわになってもおかしくないのに、重心が高く車両重量の重いカイエン クーペでも決してそうはならない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これまで以上の上質感
試乗車にはオプションのアダプティブエアサスペンションが装着されていた。今回のマイナーチェンジにより、電子制御式ダンパーの「PASM」は伸び側と縮み側の両方の減衰力をそれぞれ可変できる2バルブ式に、空気ばねは3チャンバー式から2チャンバー式に改められている。従来のカイエンのエアサス仕様の記憶をひも解いて比べてみると、乗り心地は速度域を問わず全般的にフラットライドになったように思える。また、特にピッチ方向の動きがより抑えられたように感じた。つまり加減速時の姿勢変化が少なく、加速時には4輪に最適なトラクションがかかり、制動時のブレーキのコントロール性がさらに緻密になった。
V8ツインターボは最高出力474PS/最大トルク600N・mを発生するものの、加速感は決して猛烈ではない。もちろん、ドライブモードを「スポーツ+」なんかにすればそれなりの変化が実感できるものの、そこにいかない限りにおいてはむしろ紳士的である。そのドライバビリティーが乗り心地の向上と相まって、これまで以上の上質感を生んでいるようにも感じられた。
カイエン クーペを試乗する数週間前にたまたま「ベントレー・ベンテイガ」にも試乗した。同じプラットフォームを使っているとは思えないほど、両車はまったくの別物になっているけれど、このプラットフォーム開発はポルシェが主導で行ったと聞けば、カイエンのバランスのよさが際立っている理由もなんとなく分かるような気がする。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・カイエンSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1983×1678mm
ホイールベース:2895mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:474PS(349kW)/6800rpm
最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y XL/(後)315/35ZR22 111Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:13.4-12.5リッター/100km(約7.4-8.0km/リッター、WLTPモード)
価格:1644万円/テスト車=2270万3000円
オプション装備:ボディーカラー<アークティックグレー>(35万7000円)/エクステンデッドパーシャルレザーインテリア<ブラック>(49万4000円)/リアアクスルステアリング(25万5000円)/スポーツエキゾーストシステム<シルバースポーツテールパイプ付き>(42万6000円)/PASMを含むアダプティブエアサスペンション(33万9000円)/ポルシェダイナミックシャシーコントロールスポーツ(49万1000円)/エアクオリティーシステム(6万4000円)/エクスクルーシブデザインフューエルキャップ(2万円)/GTスポーツステアリングホイール<ヒーター付き、Race-Texリム>(0円)/リアシート用サイドエアバッグ(6万2000円)/22インチGTデザインホイール<シルクグロスブラック塗装>(0円)/ヘッドレストのポルシェクレスト<フロント&リア>(6万8000円)/Race-Texルーフライニング(0円)/カーボンドアシルガード<イルミネーテッド>(19万7000円)/HDマトリクスLEDヘッドライト(33万8000円)/4ゾーンオートクライメートコントロール(12万3000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(20万3000円)/ポルシェトルクベクトリングプラス(22万3000円)/ソフトクローズドア(10万6000円)/ヘッドアップディスプレイ(19万3000円)/アクティブレーンキーピングアシスト<クロスロードアシストおよびエマージェンシーストップを含む>(11万2000円)/ファンクショナルビークル<マーケットローンチ用>(0円)/「PORSCHE」ロゴLEDドアカーテシーライト(4万3000円)/プライバシーガラス(7万5000円)/デコレイティブ「PORSCHE」サイドロゴ<ブラック>(6万3000円)/ライトウェイトスポーツパッケージ<ブラック>(201万1000円)/軽量カーボンルーフ&カーボンインテリアパッケージ(0円)/スポーツデザインパッケージ<スコープ>(0円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:8388km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:164.3km
使用燃料:25.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)/6.8km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
-
スズキ・ワゴンR ZL(FF/5MT)【試乗記】 2026.1.28 スズキの「ワゴンR」がマイナーチェンジ。デザインを変更しただけでなく、予防安全装備もアップデート。工場設備を刷新してドライバビリティーまで強化しているというから見逃せない。今や希少な5段MTモデルを試す。
-
スバル・ソルテラET-HS(4WD)【試乗記】 2026.1.27 “マイナーチェンジ”と呼ぶにはいささか大きすぎる改良を受けた、スバルの電気自動車(BEV)「ソルテラ」。試乗を通して、劇的に改善した“BEVとしての性能”に触れていると、あまりに速いクルマの進化がもたらす、さまざまな弊害にも気づかされるのだった。
-
ホンダ・シビック タイプR/ヴェゼルe:HEV RS 純正アクセサリー装着車【試乗記】 2026.1.26 ホンダアクセスが手がける純正パーツを装着した最新ラインナップのなかから、「シビック タイプR」と「ヴェゼルe:HEV RS」に試乗。独自のコンセプトとマニアックなこだわりでつくられたカスタマイズパーツの特徴と、その印象を報告する。
-
トヨタbZ4X Z(4WD)【試乗記】 2026.1.24 トヨタの電気自動車「bZ4X」の一部改良モデルが登場。「一部」はトヨタの表現だが、実際にはデザインをはじめ、駆動用の電池やモーターなども刷新した「全部改良」だ。最上級グレード「Z」(4WD)の仕上がりをリポートする。
-
アウディA5 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.1.21 「アウディA5」の2リッターディーゼルモデルが登場。ただでさえトルクフルなエンジンに高度な制御を自慢とするマイルドハイブリッドが組み合わされたリッチなパワートレインを搭載している。260km余りをドライブした印象をリポートする。
-
NEW
レクサスRZ550e“Fスポーツ”(4WD)【試乗記】
2026.1.31試乗記レクサスの電気自動車「RZ」が大型アップデートを敢行。特に今回連れ出した「RZ550e“Fスポーツ”」は「ステアバイワイヤ」と「インタラクティブマニュアルドライブ」の2大新機軸を採用し、性能とともに個性も強化している。ワインディングロードでの印象を報告する。 -
NEW
「スズキGSX-8T/GSX-8TT」発表会の会場から
2026.1.30画像・写真スズキが新型モーターサイクル「GSX-8T/GSX-8TT」をいよいよ日本で発売。イタリアのデザインセンターが手がけた新型のネオクラシックモデルは、スズキに新しい風を吹き込むか? タイムレスなデザインと高次元の走りを標榜する一台を、写真で紹介する。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――トヨタ・クラウン エステートRS編
2026.1.30webCG Movies「クラウン」らしからぬデザインや4車種展開などで話題になった、新世代のトヨタ・クラウン。そのうちの一台「クラウン エステート」に試乗した、元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんの感想は? -
待望の7人乗りMPV「ルノー・グランカングー」を大解剖 ライバルにはない魅力はあるか?
2026.1.30デイリーコラムいよいよ日本に導入された、ロングボディー・3列シートの「ルノー・グランカングー」。満を持して登場した真打ちは、競合する国産ミニバンや7人乗りの輸入MPVに対し、どのような特徴があり、どんな人におススメなのか? 取材会で実車に触れた印象を報告する。 -
第946回:欧州に「277万円以下」のクルマなし! キューバ化を覚悟した冬
2026.1.29マッキナ あらモーダ!欧州でお値段1万5000ユーロ未満の大衆車が壊滅状態に! 自動車の価格高騰はなぜ起き、そしていつまで続くのか? 一般の自動車ユーザーは、この嵐をいかにしてやり過ごそうとしているのか? イタリア在住の大矢アキオがリポートする。 -
第286回:才人監督が描くディストピアのデスゲーム 『ランニング・マン』
2026.1.29読んでますカー、観てますカー「アルピーヌA290」で追っ手のハンターから逃げ延びろ! スティーブン・キングが50年前に予見した未来は、まさに現在の状況そのもの。分断とフェイクが支配する現実を鋭くえぐった最新型デスゲーム映画。





















































