クルマの“おいしい期間”は新車から何年までか?

2024.09.17 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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クルマの経年劣化について「ヘタってきた」などと言うことがあります。車体や足まわりについての評価になると思いますが、今どきのクルマはだいたい何年くらいでヘタるものですか? 「新車の味も〇年まで」という目安があれば教えてください。

これはなかなか難しい話なのですが、結論から言ってしまうと、今どきのクルマで通常の定期整備さえしていれば、骨格をはじめとするクルマの主要部分について「〇年で賞味期限が切れる」なんてことは、ありません。

もちろん可動部分、例えばエンジン内部の消耗品やサスペンションのショックアブソーバーなどに経年劣化が生じ、だんだん本来の性能が出せなくなるのも確かです。

しかし、そのせいで、普通の人が普通にクルマを使うことに支障が出るか? というと、実際に劣化が感じられるほどクルマの性能が落ちるというものでもありません。通常ユーザーが気づく“ヘタり”というのは、シートの角が破れるとか、どこかの色がはがれるといった目に見える“やつれ”がほどんど。走行系の部分については、定期的に消耗品を換えていれば、まず問題ないでしょう。

前述のとおり、スポーツカーのような走りの微妙な味わいを求めるクルマでは、10年も乗ればブッシュ類が劣化して、初期の感触・反応が得られなくなってきたと感じられるでしょうが、最近は「リフレッシュプラン」などといって、ディーラーでそうした消耗部品をまとめて交換してくれるメニューもあります。メーカーがその必要性を認識していて、ユーザーもそれを感じているという証拠ですね。

余談ですが、私の経験上、ポルシェは新車から走行5000kmくらいまではエンジンもサスペンションもアタリがつかず、いまひとつピンときません。ところが、5000kmを超えたあたりからクルマ全体がいいコンディションになってきて、その状態が2万~3万kmくらいまで続きます。

なので、本当にお金持ちでポルシェが好きな人は、年間2万~3万km乗って、イヤーチェンジ/マイナーチェンジのたびに乗り換えていく。一方、最初からサスを換えるつもりでいる中古車狙いの層は「走行距離なんて関係ない」「少しでも安く買えたほうがいい」というスタンスです。で、全体の需給がうまく回っている。

こうしたスポーツカーでも、「たまにサーキットに行ってスポーツ走行をする」程度のレベルでは、車体には何の影響もないでしょう。

トヨタに関して言えば、設計に際しては、“標準装着のタイヤ+α”のハイグリップスポーツタイヤまで想定したところで車体の強度計算が行われています。なので、強いて言うなら、サーキット専用のスリックタイヤのような“ものすごくグリップ力の高いタイヤ”を装着して激しいスポーツ走行を繰り返し、想定した設計強度を超えたなら……どこかの接合部分がダメージを負う、つまりヤレることはある、かもしれません。もっとも、そういう乗り方をする人は、ボディーの補強も怠っていないとは思いますが……。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。