特別仕様車に“黒のドレスアップ”が多いのはどうしてか?
2024.10.29 あの多田哲哉のクルマQ&A特別仕様車の情報をチェックしていて、「ブラックエディション」とか「ダーク〇〇」とか、黒いカラーコーディネートを特徴にするものが多いことに気づきました。これには特別な理由があるのでしょうか? つくる側・売る側の考えを教えてください。
理由は、あります(笑)。黒は昔から、“スポーティーな感じ”と“高級感”の両方にコミットできる定番の色なのです。その点では、黒っぽく見えるカーボン素材も該当します。スポーティーなイメージを演出するためにカーボンパーツをあしらったり、カーボンに似た柄のフィルムを貼ったり。スポーツカーの定番ですよね。
黒という色は同時に、高級感を醸してくれる。ピアノを含む高級家具のイメージを演出すべく「ピアノブラック」と呼ばれる光沢のある黒いパネルも内装材に多くなっています。
「スポーティーで高級」というのは、魔法の言葉なんです。そしてお客さまに望まれる、この王道たる両路線に使えるのは黒しかない。
あるモデルのスポーティーバージョン、プレミアムなキャラクターの特別仕様車で成功するには、黒をいかにうまく使うかが重要です。それ以外の色は? 現実的には非常にリスキーで、特定の人にはウケるけれど、広く支持されるとは限らない。その点、黒は当たりハズレがない。まさに“鉄壁の色”なんです。
「ブラック×ホワイトのツートンカラーがさえる」というような特別仕様車も多いと思いますが、そういうものも、結局は黒を映えさせたいわけで、目指すところは同じです。むしろ、全身ブラック一色よりは、黒を差し色にするほうが商品としては効果的ですね。
こうした黒い特別仕様車は、モデルライフのなかで“隠し玉”として使われることもあります。標準仕様ではクロームメッキだった部分をつや消しのブラックにするとか、たったそれだけでもクルマの印象は全然違うものになりますから。まずはメッキでいって、売れ行きが落ちてきたら、特別仕様車を出すタイミングで黒にしよう、という具合です。メーカーにとっては、クルマの色を変えても型式認証を取り直す必要がないので、お手軽といってはなんですが、「労せずして使えるブースター」なのです。
ある意味、定番。そのため、必ずといっていいほど出てきます。皆さんも、新車を購入する際に「なんでここがメッキなのかなぁ。黒だったらカッコいいのに」と思ったら、待ってみてください。いずれ出てくる可能性は高いですから(笑)。
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。