カタログ燃費と実燃費に差が出てしまうのはなぜか?

2025.09.30 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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クルマのカタログ値(諸元)として記載されている燃費値と、実際に走行した際の燃費値には差があって、たいていは前者のほうがいいものと思います。では、そのような差が生じる大きな要因は何でしょうか? 燃費向上のヒントにもなるので知りたいです。

もともとカタログ上の燃費値は、一定の速度で走ったときの燃費を示すもので、現実的に一般道ではそういう走り方はできないために、大きな差が出ていたわけです。

それはおかしいということで、いわゆる“モード燃費”が設定されるようになり、実際に市街地を走ったとき、あるいは高速道路を走ったときのパターンを探り、試験条件をたびたび変えて今に至ります。最近では、テスト値=カタログ記載値と、実燃費との差はかなり小さくなってきましたね。それは、皆さんも実感されていることと思います。

しかし、依然として、「カタログ値の燃費なんて実際は出ないよね」という評価が聞かれるのはなぜなのか?

どんな試験モードであれ、メーカーとしては、少しでもいい値を商品のカタログに記載したいわけで(いや、そもそもいい値でないと税負担に関わってくる問題なので)、とにかく“いい燃費値”を出すために、できる限り技を生かし、工夫を凝らすわけです。ちなみに、燃費の試験はどこか公的な試験場で実施されるのではなく、各自動車メーカーの社内で行われ、結果を書類にまとめて役所に申請するというプロセスがとられます。

そこで例えばどういうことをやっているかというと、燃費性能の試験対策として、「燃費受験用のエンジン」を用意します。いや、別に、ズルということではありません(笑)。“替え玉受験”はしませんが、前提として抜き打ち試験ではないので、最も好成績が期待できる個体で試験に臨むのです。

具体的には、ベンチ上で最高の慣らし運転をして……それでもいい燃費が出るとは限らないので、だいたい1万kmから2万kmくらいでしょうか、それくらい走らせてアタリをつけて、燃費のピークが出る“ベストコンディションの期間”に入れる。ちなみに、その期間にも限りがあり、ピークを過ぎれば燃費値は落ちていきます。

そういう、最も良い状態になった個体をいくつも用意して、そのなかでさらに、最も適したものを採用する。それはまぁ、どのメーカーも同じだと思います。

で、ここも大事な点なのですが、そこまで念入りに準備したからといって、試験結果にはほとんどといっていいほど差が出ない(苦笑)。実際、数%も向上したりはしません。それでも、たとえ誤差程度であれ、メーカーとしては最高の数値を目指すがゆえにやる、ということです。

むしろ大きいのは、メカよりもヒトです。こうした試験に臨むドライバーは、それ用に養成されたプロであり、アクセルワークも完璧。じわ~っと踏んでベストのモード燃費を出す“アクセルワークの達人”です。テストドライバーの技量が、極めて重要になってくるわけです。

各社には当然、そういう名人がいます。そんな人と一般ユーザーの方とでどちらがいい燃費を出すかといえば、それはもちろん前者だろう、というだけのことなんです。

逆にいえば、カタログ上の燃費値は決して理論値ではなく、前述のように「実際に製品を使って、人間が操縦して得られた値」ですから、努力と工夫次第では誰でも出せることになります。

もし「自分が運転したときの燃費は、あまりにもカタログ値とかけ離れている」という方がいたら、それは、ご自身の運転の仕方にも原因があるのではないかと疑ってみたほうがいいかもしれません。

実際のところ、普通に交通の流れにのって、ムダなアクセルワークをせず、遠くをよく見て交通の流れの変化を観察しつつ運転すれば、さほど悪い燃費にはならないと思います。「遠くを見て、常に先読みを怠らず、ムダなアクセルワークやブレーキングをせずに運転する」のが重要です。燃費チャレンジの気持ちで意識されるといいと思いますよ。

そんな次第で、話としては身もふたもないのですが、燃費を向上させられるかどうかは「皆さんの運転次第」というのは、事実だと思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。