第319回:かわいい奥さんを泣かせるな
2025.09.22 カーマニア人間国宝への道これはツウが選ぶBMW?
「今度首都高でBMWの『M235 xDriveグランクーペ』にお乗りになりますか」
サクライ君のメールに、「それいいね!」と返信した。私は前々から2シリーズ グランクーペが好きなのだ。2シリーズで一番好きなのはFRの2ドアクーペ、それも2リッターターボの「220iクーペMスポーツ」(最高出力184PS)だけど、グランクーペもかなり刺さる。
当日の夜。サクライ君は、微妙な爆音とともにやってきた。ぜんぜん静かといえば静かだけど、シーンと静まり返った住宅街では、「M」のサウンドはそれなりに特別に聞こえる。
オレ:これって2リッター直4ターボなんだよね?
サクライ:そうです。
オレ:で、300PSくらいだよね。
サクライ:ちょうど300PSです。
われわれはパワーを確認したうえで走りだした。
オレ:オレさ、2シリーズ グランクーペって好きなんだ。
サクライ:……どこがお好きなんですか?
オレ:カッコ。
サクライ:ええっ⁉
オレ:カーマニアはみんな微妙だって言うけど、このサツマイモみたいな形、ダサカッコいいじゃない。BMWだけどダサカッコいいってところがツウっぽいでしょ?
サクライ:そういう見方もありますね。
オレ:サクライ君が乗ってる2シリーズの「アクティブツアラー」は単にダサいけど、これはダサカッコいいBMWなの。んで2シリーズ クーペはカッコいいBMW。
サクライ:なるほどです。
BMWの2シリーズは、実にバリエーションが忙しい。とにもかくにもわれわれは、M235 xDriveグランクーペで、杉並区の住宅街へと滑り出した。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
この瞬間がBMWだ
オレ:うーん、やっぱりBMWだなぁ。この足のカッチリ感。
サクライ:あ、いまスポーツモードなんです。もっとソフトにできますよ。
オレ:してして~。
私はこうしてたまに最新のBMWに試乗しているが、いつも細かい操作はサクライ君にやってもらっているので、まったく習熟しない。操作の様子を見ると、まずセンターコンソールのマイドライブボタンを押してセンターモニターをドライブモード選択画面に変え、モニターをタッチして変更するようだ。
オレ:これ、ステアリングボタンとかで一発ではできないの?
サクライ:……たぶんできないと思います。
オレ:こんな操作、ドライバーが運転中にやれってわけ?
サクライ:そうですね。
オレ:それ危険すぎるよ! ドライブモードって運転中に変えたいもんじゃない! 停車して変えろっていうのかねBMWは!
サクライ:ですかね。
オレ:ドイツ人ってなんてバカなんだ! 今度BMWの人に会ったらそう言っといて!
サクライ:わかりました。
絶対言わないだろうと思うけど、個人的には気が晴れた。
足がソフトで加速が鈍い「エフィシェント」モードのM235 xDriveグランクーペは、一般道では至極快適。しかし首都高に乗り入れると、ジョイントを越えるたびに強めのピッチングが出た。そこで再度めんどくさい操作をして「スポーツ」モードに変更。足はビシッと安定し、エンジンもがぜん活発になった。これぞ駆けぬけるヨロコビ! うーん、この瞬間がBMWだよね。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
元走り屋のひねくれた中高年限定
オレ:2リッターターボで十分速いね。
サクライ:速いです。
オレ:300PSで1.5tくらいだから、これってノーマルの「R32 GT-R」(R32型の「日産スカイラインGT-R」)くらい速いってことだよね。
サクライ:ボディーサイズもちょうど同じくらいだと思います。
オレ:これくらいのサイズがいいんだよなぁ。もう「3シリーズ」はデカすぎる! こういうサイズのセダン系ってないじゃない。これって貴重だよ!
サクライ:かもですね。
オレ:タービンレスポンスが段違いだから、ノーマル同士で比べたら、R32より絶対コレのほうが速いしさ。
サクライ:ぜんぜん速いと思います。
オレ:つまりコレって4駆だし、R32 GT-Rみたいなもんじゃない? いくらなの?
サクライ:734万円です。
オレ:そうかぁ。高いなぁ。
サクライ:R32 GT-Rは445万円でしたよね。
オレ:だよね。あの頃は、若者が人生懸けて32を買うっていう選択肢は大アリだった。
マンガ『湾岸ミッドナイト』(楠みちはる作)に、印象的なシーンがある。元走り屋のメカニックの青年が、かわいい奥さん(妊娠中)がせっせとためた400万円の通帳残高を見てゴクリと唾を飲み込み、「もう一度(これでR32 GT-Rを買って)走っちゃダメか?」と尋ねるのだ。妻の瞳からはポロポロと涙が……。
サクライ:それは人として許されませんね。
オレ:許されないよね。でもさ、奥さんの貯金でコレを買うのはもっと許されないよね?
サクライ:そんな青年いないと思います。
オレ:いなくてヨカッタ~!
このクルマは、元走り屋のひねくれた中高年限定で刺さる。残価設定ローンなら、かわいい奥さんを泣かせることもないだろう。しみじみ。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=BMWジャパン)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第325回:カーマニアの闇鍋 2025.12.15 清水草一の話題の連載。ベースとなった「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の倍の価格となる「レクサスGX550“オーバートレイル+”」に試乗。なぜそんなにも高いのか。どうしてそれがバカ売れするのか。夜の首都高をドライブしながら考えてみた。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
NEW
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
NEW
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。 -
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.12.22試乗記メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。 -
ホンダ・プレリュード(後編)
2025.12.21思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。前編ではパワートレインの制御を絶賛した山野だが、シャシーやハンドリング性能はどう見ているのだろうか。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。











































