狙うは「N-BOX」超え 新型「ルークス」は日産の復活に向けた号砲か?
2025.09.25 デイリーコラム新型「日産ルークス」は売れそうな予感
「日産復活のカギを握る重要なモデルです」
2025年8月22日に行われた新型「ルークス」の先行披露会で、日産の日本マーケティング&セールス執行職の杉本 全氏はそう語った。誇張のない素直な言葉だと思う。新しい経営計画「Re:Nissan」が発表されてから初めて日本市場に投入される新型車なのだ。追浜工場の生産停止などの暗い話題ばかりが取り沙汰されるなか、日産が将来に向けての新たな提案を示すことになる。日本の自動車市場で最も激しい競争が展開されている軽スーパーハイトワゴンのジャンルで存在感をみせることができれば、確実にイメージアップにつながる。
発売前に新しいルークスのプロトタイプに試乗した。クローズドコースでの短いテストだったが、第一印象は上々だ(参照)。いかにも広そうな角張ったフォルムで、フロントガラスが立っている。“絶対王者”「ホンダN-BOX」に似ていて、室内空間の広さを重視するユーザーにアピールできるだろう。優しげな印象を与えるのは、カドを取って丸くする“かどまる四角”というデザインコンセプトのおかげだ。
“かどまる四角”は徹底されていて、内外装の至るところにそのモチーフを見ることができる。フロントグリルや前後のランプからホイール、ドアハンドル、さらにはメーターパネル、シート表皮にまでこの意匠が適用されているのだ。12.3インチのセンターディスプレイと7インチのメーターディスプレイを段差なくつなげたワイドでフラットなモノリス型パネルの採用は軽自動車初である。走行性能や静粛性が高く、安全装備や運転支援機能も充実している。
これは、きっと売れるに違いない! 売れるはずだ……売れるんじゃないかな……。断言するのはやめておこう。好感を持ったのは事実なのだが、それが実際の販売成績につながるのかはわからない。これまでに乗ったクルマで、自分では気に入ったのに世間には受け入れられなかったケースが何度もあったからだ。願望と評価をごちゃ混ぜにしたと言われても否定できない。
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売れるかどうかの予想は難しい
2000年代に入って、軽ハイトワゴン、スーパーハイトワゴンやミニバンは“オラオラ系”と呼ばれる立派で押し出しの強いデザインが主流になった。大型グリルにピカピカのメッキ加飾、分厚いバンパーなどで威圧感=高級感を演出する。ノーマルに対して「カスタム」というグレードを初めて採用したのは1997年の「ダイハツ・ムーヴ」だったらしい。「ダイハツ・タント」にも2005年からカスタムモデルが加わる。「スズキ・ワゴンR」は「スティングレー」を名乗ったが、「スペーシア」にはカスタムがある。2011年に登場したN-BOXは、最初から標準車とカスタムをラインナップしていた。
「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」や「トヨタ・ノア/ヴォクシー」がいかつい顔つきで人気を得ていくのを横目に見て、小さな軽自動車も負けずにオラオラ感を強調していった。自動車メーカーがユーザーの好みに応えるのは当然である。それは理解しているものの、もうちょっと違うタイプのデザインがあってほしい、と思っていた。そこに現れたのが、2015年の「N-BOXスラッシュ」である。スーパーハイトワゴンにチョップトップの手法を用いてスペシャリティーに仕立てるという大胆で無謀なカスタマイズを施した。
「ダイナー スタイル」「グライド スタイル」といったオプションのインテリアも用意されていて、遊びゴコロにあふれている。試乗会では開発責任者の浅木泰昭氏が満面の笑みで応対してくれた。軽自動車にもこんな楽しいモデルが生まれるなんて、何とも喜ばしいではないか。もしかしたらバカ売れしちゃうかも、と興奮したのを覚えている。ご存じのとおり、結果は惨敗。まったく売れず、2代目モデルではカタログから落ちてしまった。
ホンダはこれしきのことで弱気になったりはしない。2024年に「N-BOXジョイ」をデビューさせる。SUVテイストの「スズキ・スペーシア ギア」「ダイハツ・タント ファンクロス」「三菱デリカミニ」が売れ行きを伸ばしていたが、ホンダは単純な後追いをしなかった。チェック柄のシートを用いた「ふらっとテラス」でリラックス感を演出するという変化球を投げてきた。なるほどその手もあったか、と感心したのだが、今のところ支持が広がっている様子はなさそうだ。
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全面改良が見送られた「デイズ」はどうなる?
世間が見えていなかった、目が曇っていたのだと猛省するしかない。2022年にフルモデルチェンジを受けた「ホンダ・ステップワゴン」が“きれいな箱”を掲げて登場したときは、クリーンでシンプルなフォルムに新鮮さを感じた。ミニバンデザインの流れが変わるかもしれないと期待したのだが、この路線が広く受け入れられることはなかった。
思い返せば、2006年に発売された「ダイハツ・ソニカ」と「スズキ・セルボ」についても判断を誤っていた。ワゴンRの登場からハイトワゴンの人気が高まっていた頃に、あえて逆張りを仕掛けた“走りの軽”である。それぞれのモデルを「軽自動車にアレルギーのないフリースタイルな人々には魅力的な存在」「登録車のコンパクトカーに対抗するだけの魅力を持っている」と評したのだが、どちらのモデルも初代だけで消滅している。
そんなわけで、自信を持って新型ルークスが売れると明言するのははばかられる。ただ、軽自動車デザインのトレンドが変化しつつあるのは確かだと思う。3代目N-BOXは前モデルを踏襲しながらも押し出しの強さは抑え気味になった。スペーシアはポップ&カジュアル路線を歩みユーティリティーの充実をアピールしている。タントはカスタム顔をキープしているが、ひと頃よりはゴテゴテ感が薄くなった。同じダイハツのムーヴはカスタムモデルを廃止してスライドドアを採用するという新機軸を打ち出している。
先代のルークスは2020年、「デイズ」は2019年にフルモデルチェンジされている。本来ならば、デイズが先に新型になるはずだった。ハイトワゴンはマーケットが縮小しており、厳しい経営環境にある日産がデイズを退場させてルークスだけを残すという決断をする可能性は否定できない。開発陣に質問しても明確な答えを得られなかったのは当然だが、ありえないとは言い切れない空気感が伝わった気がする。
もしそうであるならば、新型ルークスが担う役割と責任はとてつもなく大きなものになる。日産復活に向けて高らかに号砲を鳴らすことが必要だ。きっと売れるに違いない! 売れるはずだ……売れるんじゃないかな……。
(文=鈴木真人/写真=日産自動車/編集=櫻井健一)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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