30年の取材歴で初めてのケースも 2025年の旧車イベントで出会った激レア車
2026.01.14 デイリーコラムビートルとパサートの狭間に
いまさら言うまでもないが、春と秋はクラシックカーイベントのシーズン。とくに秋は多くのイベントが集中する。昨2025年、私自身が9月から12月中旬までに取材した旧車イベントは15件。名車、希少車から迷車の類いまで多くのクルマを見たが、ここでは出会ったなかから珍しいモデル、レア車を振り返ってみよう。
記憶に新しいのは、12月初旬に神奈川県横須賀市のソレイユの丘で開かれた「三浦半島に集まる名車たち」で見たフォルクスワーゲン(VW)の「K70L」(車名のLはデラックスの意味)。VW史上において初の水冷エンジン搭載車にして前輪駆動車なのだが、いささか複雑な経緯を経て世に出たモデルだった。
そもそもこれを開発したのは、1964年に世界初のロータリーエンジン搭載車「ヴァンケル スパイダー」を市販化したことで知られるドイツのNSUである。K70は1967年にデビューし、欧州カー・オブ・ザ・イヤーも獲得した画期的なロータリーエンジン搭載サルーン「Ro80」の弟分。K70という車名の「K」はドイツ語でピストンを意味するKolbenの頭文字で、すなわちレシプロエンジン搭載車だった。
K70は1969年のジュネーブショーでデビュー予定だったが、社運を賭したRo80の完成度が低く販売不振で経営が悪化したNSUは、直前にVW傘下のアウディ-アウトウニオンとの合併が決定。となれば、同門の「アウディ100」などと市場で競合することが予想されたため、お披露目はいったんペンディングされた。
ところがVW初の4ドアサルーンだった「411」(タイプ4)が市場で不評だったこと、とはいうものの後に「パサート」や「ゴルフ」として世に出る次世代モデルのリリースまではまだ間があったことなどから、K70にいわばつなぎ役として白羽の矢が立った。そして1970年にVWブランドを冠して発売されたのである。
新車当時はVWのインポーターだったヤナセにより正規輸入され、『CAR GRAPHIC』誌1972年9月号の表紙も飾っている。この個体はオーナー氏によると初度登録が1973年。長年休眠していたそうで、リペイントされた塗装を除いてはオリジナル、走行わずか1万3000kmという極上車だった。
これがどれくらいレアかというと、筆者の30年以上に及ぶ取材歴を振り返っても、見たことがあるK70はボロボロのレストアベース車1台きり。まともな個体はこれが初めてだった。
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車山高原で出会った希少なルノー
NSU続きということで、東京都国立市の谷保天満宮で12月中旬に開かれた「谷保天満宮旧車祭」で見たのは「NSUプリンツ4L」。さかのぼればNSUは1950年代末にホンダに抜かれるまでは世界一の二輪メーカーだった。四輪車も始点は20世紀初頭にまでさかのぼるが、1930年代にいったん市場から撤退した後に1957年に小型車の「プリンツ」で復帰した。
1961年にデビューした「プリンツ4」はその第2世代で、クロームの帯がウエストラインをぐるりと囲む「シボレー・コルベア」に倣ったデザインをいち早く採用したボディーの後端に、598cc空冷直2 SOHCエンジンを積んだリアエンジン車。この個体は後年になって中古で並行輸入されたとおぼしきモデルライフ後半の1971年式というデラックス版の「4L」で、ナンバーは変わっていたが十数年前に見たことのあるクルマかもしれない。
かつての「フレンチブルーミーティング」の流れをくみ、長野県の車山高原で10月に開かれたフランス車の祭典「アロンフランセ車山」、および11月開催の群馬県桐生市の群馬大学桐生キャンパスを会場とする「クラシックカーフェスティバル in 桐生」の2カ所で見たのが「ルノー6」。FFハッチバックの嚆矢(こうし)であり、累計生産台数800万台以上という傑作小型車「ルノー4」の上級版として1968年に登場したモデルだ。
ルノー4のシャシーに、兄貴分である「ルノー16」を縮小したような雰囲気の5ドアハッチバックボディーを載せ、インテリアも4よりグレードアップ。当時の4の747ccよりひとまわり大きい845ccの直4 OHVエンジンを搭載していた。1990年代までつくられ日本にも少なからぬ数が輸入された4に対して、6は相当に珍しい存在である。
アロンフランセ車山で見たなかでは、「ルノー10マジョール」もレアだった。1965年から1971年までつくられた10は、ルノー最後のリアエンジン車(「スマート」と共同開発された3代目「トゥインゴ」を除く)。これまでイベントで数台見ているが、この個体は最後の1年間だけつくられた、上級のFF車である「12」用の1.3リッター直4エンジンを積んだモデル。しかも数少ない正規輸入車で、純正色らしきいかにも70年代的なボディーカラーもあって印象に残ったのだった。
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「131アバルト ラリー」ではない「131アバルト」?
東京都港区の汐留イタリア街をスタート/ゴール地点として11月に開かれた恒例のクラシックカーラリーである「コッパ・ディ・東京」。ここで初めて見たのが「フィアット131ヴォルメトリコ アバルト」。日本で131といえば有名なのはWRCで3度の王座に輝いた「131アバルト ラリー」だろうが、131本来の姿は日本車でいえば同時代の「コロナ」や「ブルーバード」あたりに相当するオーソドックスなミドル級の2/4ドアサルーンだった。
その2ドアセダンボディーに2リッター直4 DOHCユニット(131アバルト ラリーの16バルブに対して8バルブ)を積んだホットグレードの「131レーシング」も存在した。それと入れ替わるかたちで1981年に登場したのが131ヴォルメトリコ アバルト。先の2リッターDOHCにスーパーチャージャーを付加した、「ランチア・ベータ」系にも積まれたユニットを搭載したハイパフォーマンス仕様である。この個体のオーバーフェンダーなどは後付けと思うが、存在自体が珍しいとあって大いに注目を集めていた。
ランチア本社公認のオーナーズクラブであるランチア・クラブ・ジャパンが毎年秋に開催しているミーティングである「ランチア・ランチ」。ここに来ればたいてい見ることができるのだが、世間では大層レアな存在なのだろうなあと思うのが「ランチア・ガンマ クーペ」。1976年に当時のフィアットグループのフラッグシップとして登場した「ランチア・ガンマ」はファストバックの4ドアベルリーナ(サルーン)で、それのホイールベースを短縮したシャシーにピニンファリーナの手になる端正なノッチバックの2ドアクーペボディーを載せたモデルがガンマ クーペである。
機構的には「ランチア・フラビア」の流れをくんでおり、2リッターまたは2.5リッターの水平対向4気筒SOHCによる前輪駆動。1984年までつくられたものの、ガンマ クーペの生産台数は7000台に満たないため、日本ではランチア・ランチくらいしか見る機会はないというわけなのだ。
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100台しか生産されなかった英伊米混成のGT
愛知県名古屋市の中心部で2022年から秋に開かれている「コッパ・チェントロ・ジャッポーネ」。アジア最大級のクラシックカーイベントといわれるだけあって多くの名車、希少車が集まるが、今回はよもや日本にはあるまいと思っていたモデルが現れて驚かされた。
それが何かというと「ゴードン・キーブル」。一応は英国車なのだが、鋼管フレームにベルトーネ時代のジウジアーロの最初期作品といわれるFRP製ボディーを載せ、パワーユニットは「シボレー・コルベット」用5.4リッターV8という、さしずめブリティッシュ-イタリアン-アメリカンGTといったところだ。
展示された個体は、バンパーレスにしてメッシュのグリルやバケットシートを入れるなどレーシング風のモディファイが施されていた。生産台数は1964年から2年間でちょうど100台とのことだから、元の数からすれば、今回紹介したなかでも一番のレア車である。
打って変わって3年間で300万台以上つくられた量産車だが日本ではレアだろうと思うのが、イベント名は先に挙げたクラシックカーフェスティバル in 桐生で見た初代「フォード・ファルコン」。それまでフルサイズしかラインナップしていなかったアメリカのビッグスリー(ゼネラルモーターズ、フォード、クライスラー)は、1960年モデルとしてそろってコンパクトカーをリリースしたが、そのフォード版がこれ。車幅こそ1.8m弱あるが全長は4.6m弱というボディーに標準では2.4リッター直6 OHVエンジンを搭載していた。
当時のアメリカ車だけに2/4ドアセダン、2ドアクーペ、2ドアコンバーチブル、3/5ドアワゴンなどボディーバリエーションは豊富だったが、この個体はオーソドックスな4ドアセダン。だが日本でもヒットした映画『フォードvsフェラーリ』(2019年)におけるデトロイトのフォード工場のシーンで、ラインに並んでいたうちの一台というヒストリーを持っているのだ。
新車当時からレアだった2代目「ダイハツ・シャルマン」
クラシックカーフェスティバル in 桐生では、日本車のレア車も見かけた。以前に筆者のコラム「古いクルマのキャッチコピーを大特集」(参照)でも紹介した、「男と女とバラとスタンザ」という意味不明なフレーズを掲げて1977年に登場した初代「日産スタンザ」。2代目「バイオレット」の販売店違いの兄弟車で、ミニ「セドリック」的なキャラクターが与えられていたモデルだ。
このエリアでは、ほかにも初代バイオレットのハードトップとバン、3代目「サニー」の上級版である「サニー エクセレント」のセダン、そして先ごろ開かれたジャパンモビリティショー2025で国内市場への復帰がアナウンスされた「パトロール」、その2代目60系の最終型といったレアな1970年代の日産車が見られた。
日産車以外では、まだ名字がトヨタではなくトヨペットだった4代目「コロナ」の最終型のトップグレードだった「ハードトップ2000SL」。この今となっては相当に珍しいモデルが、兄貴分である2代目「コロナ・マークII」のやはり最終型の最上級グレードである「ハードトップ2000LG」と並べられていた。
私自身は見慣れた感があるのだが、残存台数からいけば超レア車と思われるのが「ホンダLM700」。スポーツカーである「S600」用を拡大した687cc直4 DOHCエンジン(さすがに4キャブではなくシングルキャブ仕様)を搭載し、1965年に登場した商用バンが「L700」で、LM700はデラックス仕様である。ちなみにバリエーションとしてさらにレアなピックアップの「P700」もあり、バンともども翌1966年にはエンジンをデチューンした「S800」用に換装した「L800/P800」となった。
締めは愛知県長久手市の愛・地球博記念公園で9月に開かれた「愛知ノスタルジックカー大行列」で見た2代目「ダイハツ・シャルマン」。そもそも1974年に誕生した初代シャルマンは旧型となっていた2代目「トヨタ・カローラ」をベースにつくられた4ドアセダンだったが、1981年に出た2代目も成り立ちはそれを踏襲。3代目カローラのプラットフォームに6ライトウィンドウを持つ独自のボディーを載せたダイハツのフラッグシップだった。新車当時から(そんな言葉はなかったが)レア車扱いされていたので、今では推して知るべし、である。
といった感じで、まだまだ紹介したいモデルはあるのだが、今日のところはこのへんで。そして、今年はさらなるレア車との出会いを願いたい。
(文=沼田 亨/写真=沼田 亨、アウディ、フォルクスワーゲン、ルノー、ステランティス、フォード、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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