スバルが北米生産の3列シートSUV「アセント」の導入を検討 日本のスバリストに受け入れられるのか?
2026.07.09 デイリーコラム「エクシーガ クロスオーバー7」以来の3列シート車
スバルは2026年6月6日、北米専用のフラッグシップSUV「アセント」の日本導入に向け、本格的な検討に入ったと発表した。
アセントは米国のスバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ(SIA)が生産する、全長約5m、全幅約1.93mという堂々たるサイズの3列シートSUV。「エクシーガ クロスオーバー7」の生産終了以降、日本のスバルラインナップから3列シート車は途絶えたままである。
今、「多人数乗車ができるスバル車」を渇望していたファミリー層にとって、このニュースは一筋の光明となるだろう。
しかし同時に、「あの巨体を日本の道路で取り回せるのか?」という不安や、「まさか左ハンドル仕様のまま日本で売るのか? その場合、スバル自慢の『0次安全』との折り合いはどうつけるつもりなのよ?」という疑問も湧いてくる。スバリストの視点から、そのあたりの懸念点について考えてみたい。
そのサイズは豊かさの象徴
まずは「スバル・アセントとはいかなるクルマか?」という部分から簡単に。現行型アセントは、「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」を採用した最大級のモデル。エンジンは2.4リッター水平対向4気筒直噴ターボ「FA24」で、最高出力260HP、最大トルク376N・mを発生する(北米仕様値)。そこに高出力対応CVTの「リニアトロニック」と、伝統の「シンメトリカルAWD」が組み合わされている。
室内は3列シート(7人または8人乗り)を備え、19個もあるカップホルダーや各席用のUSBポートなど、アメリカンテイストな利便性も光る。そして荷室も広く、日本市場では「トヨタ・ランドクルーザー“250”」や「マツダCX-80」などが競合となるが、アセントはそれらよりさらに全幅が広いことが特徴だ。
大型アメリカンSUVの導入となると、メディアは決まって「全幅1.9m超は日本の道路に合わない」「狭い路地で苦労する」と書き立てる。しかし筆者は、そうした批判には与(くみ)しない。断言するがアセントのサイズ感は、日本市場において大した問題にはならないはずだ。
たしかに都市部の狭い裏路地ではキツいサイズであり、当然ながら一般的な立体駐車場にも収まらない。だが、そもそもそういった部分が気になる人間は、初めからこのサイズのSUVを選択肢に入れないだけの話である。
現代の日本で「トヨタ・ランドクルーザー“300”」や「ジープ・ラングラー」などがこれだけ売れている現実をみれば明らかなように、この種のSUVをリアルに求める層は、地方都市のゆとりある環境に住むか、都市部でも大型車用の駐車場を余裕で確保できている人たちだ。コストコへ行き、キャンプを楽しみ、高速道路を悠々と巡航するライフスタイルにおいては、このサイズはむしろ「豊かさの象徴」であり、メリットでしかない。「日本の道では扱いにくい」という懸念は確かにそのとおりではあるものの、ターゲット層にとっては、単に「余計なお世話」でしかないのだ。
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0次安全思想との矛盾は?
今回の国内導入において、現行モデルがそのまま輸入されるとすれば、時間的・コスト的制約から左ハンドル仕様での販売という選択になるはず。そこで頭をよぎるのが、スバルが長年掲げてきた「0次安全」の思想との決定的矛盾である。
ご承知のとおり0次安全とは、見晴らしのよさや正しい運転姿勢など、クルマが走りだす前の段階で事故の原因を徹底的に排除するという安全思想だ。そして日本の右側通行道路においては、左ハンドル車は追い越しや右折時の視界確保において物理的なビハインドを抱えることになる。これについて、スバルはどう折り合いをつけるつもりなのか?
ひとつ考えられるのは、最新世代アイサイトの広角単眼カメラやマルチビューモニターを用い、左ハンドル車の弱点である「右前方の死角」をカバーするシステムを搭載してくるということだ。右前方の映像を大型ディスプレイやデジタルインナーミラーにリアルタイム投影し、右ハンドル車以上の情報量を提供する。つまり「デジタルで視界を拡張する」というアプローチである。
ブランドとしての新たな挑戦
……という方策を取ってくれればいいなと期待はするものの、「2026年後半を目途に日本市場への導入を検討」というタイミングの問題から考えると、デジタルシステムの拡張と追加は間に合わない可能性も高い。
となれば、「万一の衝突時にはアセントの圧倒的な堅牢性で乗員を守り抜く」という発想というか言い訳(?)で、0次安全思想との矛盾をクリアさせるつもりなのかもしれない。
北米の厳しい衝突安全試験で最高評価を獲得し続けているタフなボディーは、乗員の生存確率を極限まで高める。そこに「ぶつからないためのデジタル拡張」も加わればベストだが、とりあえずは「もしもぶつかったとしても、普通に安心ですよ」ということで――もちろん表向きにそれを言うことはないだろうが――矛盾を「なかったこと」にするわけだ。
いずれにせよミニバンを持たないスバルにとって、アセントの国内導入検討は、既存顧客の流出を食い止める防波堤であり、ブランドとしての新たな挑戦でもある。そして左ハンドルのアメリカンサイズという、日本の最適解からは完全に外れた成り立ちだからこそ、「それでもスバルの3列シートに乗りたい!」と願う熱狂的なファンにだけには、確実に刺さるはずなのだ。
(文=玉川ニコ/写真=スバル/編集=櫻井健一)

玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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