ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)
長いことはいいことだ 2026.02.25 試乗記 「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。いまやライバル多数の激戦区
2023年10月のカングー ジャンボリーで日本導入が予告されていたグランカングーが、ついに上陸した。先代カングーにもこの種のロングモデルがあり、そこに3列シートを配置したグランカングーも用意されていた。ただ、先代グランカングーにはバン仕様しかなく、当時のカングーは日本ではライバル不在だったこともあってか、先代のグランカングーが日本導入されることはなかった。
しかし、今のカングーには「シトロエン・ベルランゴ」「プジョー・リフター」「フィアット・ドブロ」=ステランティス勢という強力なライバルがいる。その3列ミニバン仕様の「ベルランゴ ロング」「リフター ロング」「ドブロ マキシ」にしても、ステランティス勢が先手を打って、日本では2列の標準仕様より売れるようになっているのだそうだ。そうしたなかで、欧州でも“大人がきちんと座れる3列乗用車”のニーズがあらためて取りざたされるようになり、ルノー本体も乗用グランカングーの開発に乗り出して……となれば、もはや日本に導入しない理由はないというわけだ。
こうして、めでたく日本発売となったグランカングーのパワートレインは、おなじみの1.3リッターガソリンターボが選ばれた。「どうせならディーゼル……」という向きもあろうが、当初のグランカングーには、ほかに日本未導入の低出力ディーゼルと電気自動車の用意しかなく、必然的にガソリンが選ばれたようだ。
ただし、最新のフランスのウェブサイトを確認してみたら、日本仕様のカングーと同様の高出力型ディーゼル搭載車が出ている。今後の売れ行き次第では、ディーゼルも期待できなくもない……かもしれない。
ホイールベースが3.1mのFF車
グランカングーの実車を前にした第一印象は、“長い”と“カッコイイ”である。
グランカングーはステランティス勢のロング版より、ホイールベースで385mm、全長で420mmも大きい。直接見比べなくても、見るからに長い。カッコイイかどうかは個人の主観によるが、スライドドアまで標準モデルと共通で、そこから後方部分だけで全長を伸ばしているステランティス勢に対して、グランカングーはスライドドアから専用設計である。個人的にはステランティス勢の胴長スタイルににもグッとくるのを否定しないが、客観的にみてバランスがとれているのはグランカングーだ。
先代カングーはステランティス勢と同じ手法でロング化していたが、構想段階から乗用ミニバン仕様が企画されていた現行型は“3列目への乗降性”を売りとすべく、スライドドアもロング化した。ドアは手動開閉式だが、その操作力は標準カングーと大差ないくらいに軽い。ここはステランティス勢を明確にしのいでいる。
2列目シートが(標準カングーの)チルトダウン可倒から、3座独立のタンブルアップおよびスライド付きの脱着シートに変更されているのも、3列目への乗降性と多用途性を考えたからとか。これなら1脚をはね上げるだけで、シートをまたいだり、倒したシートバックをクツで踏んだりしなくても、3列目へのアクセスが可能だ。また、2列目中央を取り去れば、ウォークスルー可能なキャプテンシート仕様にもできる(シート幅は小さいけど)。
3.1mというホイールベースは、FF車としては最長級だ。同等のホイールベースをもつ乗用車には「メルセデス・ベンツSクラス」や「レクサスLS」などのハイエンドセダン、SUVなら「BMW X7」や「マツダCX-80」などがあるが、これらはエンジン縦置きのFRレイアウト車だ。空間効率の高いFFレイアウトのグランカングーで、運転席から後方を振り返ると、そこはまさに広大な空間なのだ。
豪華クルーザーのようなフラットライド
その車体サイズやホイールベースからも想像できるように、グランカングーの後席は、ステランティス勢よりあからさまに広い。各シートのスライドをあえて3列目をいちばんタイトにする設定としても、身長178cmの筆者が普通にヒザをそろえて座ることができる。3列目ではさすがに太もも裏がわずかに浮いてしまうが、シート自体はステランティス勢のそれより大きくガッチリしており、しかもクッションも適度に柔らかくて座り心地も良好だ。
1.3リッターターボどうしで比較すると、グランカングーのエンジン性能やギアレシオは普通のカングーと共通なのに、車重は130kg重い。動力性能は当然のごとく少しおっとりしているが、普通に走るに不足はないし、そもそも巨大な車体を小さなエンジンで走らせる行為そのものは、いかにもフランス車らしい。
全長やホイールベースはあからさまに長いグランカングーだが、運転席に座っての車両感覚は普通のカングーのままなので、内輪差にだけ気をつければ、ことさら取り回しにくくはない。日本仕様のグランカングーは「エクステンデッドグリップ」を備える。これは本国では16インチオールシーズンタイヤとのセットオプションで、日本のグランカングーも必然的に、今のカングーよりハイトの高い16インチの「ミシュラン・クロスクライメート」を履く。それもあってか、ロング化された車体の宿命である剛性感の低下も最小限だった。
それにつけても、この超ロングホイールベースが織りなすフラットライドは格別だ。重い車重とも相まって、ゆっくりと水平に上下しながら凹凸を吸収するので、誤解を恐れずにいえば、まるで豪華クルーザーのような所作でもある。とくにRの大きな高速コーナーを、路面に吸いつくようにクリアしていく瞬間はグランカングーの真骨頂。快感そのものだ。
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カタログモデルではないものの
商用車と共通設計ながらダイナミクスだけは極上……というカングーの伝統は、このグランカングーでも健在だった。普通のカングーよりステアリングも少し甘めだが、そのぶん、いま日本で手に入るルノーのなかで、いい意味で、もっとも古典的なフランス車らしい乗り味といえるだろう。
サードシートの乗り心地も、見た目よりも上下動が少なく快適。開発陣によると、乗り心地は3列目までしっかりと開発されて、最後は役員も座って確認しているとか。
画像にもあるように、今回は5脚ある後席をすべて取り外してみた。で、せっかくなので、その“空荷”状態でも走ってみた。シートは1脚およそ23kgだそうだから、これだけでクルマは100kg以上軽くなり、リアの車高も目測で10mmほど上がった。
2シーター化したグランカングーは、実際に走らせても軽快だ。尻軽な前後重量配分のおかげか、フロントに追従するリアの動きも鋭く、小型ハッチバックを思わせる挙動になったのは興味深い。ただ、それ以上に印象的なのは、室内が明らかにドシバタがうるさくなったことだ。シートの吸音効果は想像以上に大きく、少なくとも快適性という意味では、全座席を装着しておくのが正解だろう。
さて、日本仕様のグランカングーは、ブラックバンパーに特別色の「ベージュサハラ」を組み合わせた「クルール」として発売となった。計画台数や受注期間はあえて明かされていないが、クルールのお約束として、あくまで特別仕様車であり、カタログモデルではない。
その理由はいくつかあるが、日本仕様では欠かせないダブルバックドアが、欧州では標準カングー以上に特別……というか特殊だからという理由が大きい。欧州向けの乗用グランカングーにはダブルバックドア自体が存在せず、日本仕様はいわば架装車に近い手法でつくられるらしく、仕様数も台数もかぎられる。そこで、今後のグランカングーもカタログモデルは設定せず、クルールのような特別仕様車を繰り返すカタチで供給していく予定という。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=ルノー・ジャポン)
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テスト車のデータ
ルノー・グランカングー クルール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4910×1860×1810mm
ホイールベース:3100mm
車重:1690kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:131PS(96kW)/5000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1600rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(ミシュラン・クロスクライメート)
燃費:14.7km/リッター(WLTCモード)
価格:459万円/テスト車=471万4630円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション センターキャップ<4枚>(4万0920円)/ビルトインETC1.0(2万6400円)/フロアマット<プレミアム>(3万2560円)/スマートフォンホルダー(2万4750円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2679km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:314.8km
使用燃料:30.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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