2026年は「ノイエクラッセ元年」 BMWが新型「i3」で描くこれからの世界
2026.04.10 デイリーコラムBMWにとって最上位のパワーワード
ドイツのモーターショーがフランクフルトからミュンヘンへと場所を移して2回目の2023年、ご当地のBMWが自らのブランドのあり方を大きく転換するという意味合いを込めて、一台のコンセプトカーを発表しました。それが「コンセプト・ノイエクラッセ」と名づけられた4ドアセダンです。
そのプロポーションを見れば電気自動車(BEV)であることは明らかで、BMWもそれを隠すどころか前面に押し出していました。一方で、ボンネットやトランクフードには明確にノッチが設けられ、空間効率や空力的に優位があるワンモーションフォルムとはあえて一線を画するあたりが、BMWのこだわりを感じるところです。
「ノイエクラッセ=新しいクラス」は1961年に発売された「BMW 1500」を指すキャッチフレーズとして用いられました。当時主軸だった二輪事業の不振で会社そのものが厳しい状況にあったBMWは、この1500のヒットで息を吹き返し、その派生車種も含めて現在へと続くラインナップの基礎を固めるなどして、四輪車メーカーとしての地位を盤石なものとしたわけです。すなわちノイエクラッセは、BMWにおいて最上位のパワーワードと言っても過言ではない。それを新しいBEVラインナップの構築を機に復活させたというわけです。加えて、内外装デザインのコンセプトやソフトウエアディファインドビークル(SDV)領域では内燃機モデルのラインナップもコンセプト・ノイエクラッセの側に統一されていくというのがBMWが描く近未来像なんですね。
今までBMWはBEV化への流れを主に既存のアーキテクチャーでしのいできました。現世代のFR系モデルが用いるCLARプラットフォームは、まさにそれ前提で設計されたものです。2020年前後を中心にやってきたBEV推しムーブメントのなか、既販車の生態系を押しのけるほどのリソースをそこに振り分けたメーカーは今や兆の単位で損切りの嵐となっています。そういう潮目の変化をむしろBMWはうまく切り抜けてきたほうではないでしょうか。
i3こそがノイエクラッセの本丸
しかしBMWとて無傷でここにたどり着いたわけではありません。振り返れば13年前、素材時点からのCO2削減や部材のアップサイクルなど、サプライチェーンの最上流から環境負荷低減を織り込んで登場した先代i3は、当時のBMW的理想論の塊でもあったわけですが、ビジネス的には鳴かず飛ばずの失敗作となってしまいました。ここで高い勉強代を払ったBMWは、拡張性や生産性に留意した新しいBEVプラットフォームを、幅広い仕向け地で製造・販売できる体制を構築しました。BEVを取り巻く環境は政治的背景も絡んで日々目まぐるしく変わっていますが、BMWが2026年を本格的な「ノイエクラッセ元年」とすることは完全に既定路線であり、そのための準備は2018年から始めていたといいます。
売れ筋のSUV+BEV製造向けに最適化された最新工場での生産という組み合わせを立ててか、ノイエクラッセの封切りは「iX3」に委ねることになりました。が、歴史的なつながりや「3シリーズ」との関連性を含めたこれからのラインナップへの影響度に鑑みれば、やはり2代目となるこの新型i3がノイエクラッセのアイコンということになるのではと思います。
実は2025年冬、iX3に試乗した際に、サプライズ的にこのi3を見せてもらう機会がありました。当然ながらスマホもメモ帳もと記録媒体は全部預けての手ぶら面会でしたから、その姿は心のシャッターで収めるしかありません。と、そんなこんなの第一印象でいえば、実物はさすがにちょっと厚みを感じるなあというものでした。ゆえに、今回発表されたスペックで全高が1480mmに抑えられていたのは意外だったのですが、もしかしてハイデッキのテールまわりの印象に引っ張られてそのような印象を抱いたのかもしれません。下まわりをブラックアウトして視覚効果で厚い印象を和らげるなどのギミックを用いなかったのは潔いと思います。
バッテリーを床面に敷く関係で天地に空間が圧迫されるため、BEVのセダンやクーペはパッケージが難しいわけですが、i3は前席にいる限り窮屈さを感じることはないでしょう。むしろトランスファーを収めるトンネルが大きい3シリーズあたりに比べると、足元はゆったりとしています。ただし後席はレッグスペースは十分ながら、足先の収まりにやや窮屈さを感じました。BEVのご多分に漏れず、前後ディスタンスの長さを生かして足を伸ばし気味に座ってもらうという趣旨なのかもしれません。ちなみにホイールベースはiX3より30mm以上長い、ほぼ2900mmとなっています。
すでにMモデルも準備中
正式発表ではありませんが、BMWはこのi3と並行して、G20系3シリーズにも大きく手を加え、ノイエクラッセ的なテイストをまとった内燃機モデルとして併売するという話があります。つまり2つの異なる車型であらかたのパワートレインを網羅したラインナップを構築するというわけです。それに伴い、3シリーズのクーペ版にして現在もカスタマーレーシングで高い戦闘力を持つ内燃機の「M4」も販売が継続されるとみられています。一方でBEVの「i4」は先日、ディスコンが決定しました。
興味深いのはi3をベースとしたMモデルも開発が進んでいるということ。すでにニュルでのテストラップを重ねている様子がスクープされていますが、高演算SoCのレスポンスを生かしたMモデルらしい駆動マネジメントや、高いアウトプットや瞬発力を備えたバッテリーの搭載によって前代未聞のパフォーマンスを備えていると目されます。2025年に発表されたコンセプトカーの「ビジョン・ドライビングエクスペリエンス」はまさにその示唆となるわけですが、その内容がどこまで反映されるかによっては、最高出力1000PS/最大トルク1500N・mオーバーのクワッドモーターというとんでもスペックが実現してしまうかもしれません。
まだLCIも迎えていない「i5」や「i7」が新しいアーキテクチャーに置き換わるにはもう少し時間がかかるのかもしれませんが、これによって既存のラインナップの層に厚みを加えつつ、2030年には販売台数の50%をBEVに置き換えるというのが2020年代の頭に掲げられた彼らの目標です。他社が軒並み計画を修正するなか、現在でもその目標値に手は加えていません。ノイエクラッセの成否はまさにBMWにとって一世一代の大勝負となるのでしょう。ちなみにi3の日本投入予定はiX3より約半年先の2027年以降とされています。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?NEW 2026.10.7 いよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。
-
人件費不要の自動運転タクシー導入! で、料金はどうなる? 2026.10.5 運転手がいない完全無人の自動運転タクシーが、2027年中に国内で運用される見通しとなった。では、われわれユーザーが享受できる具体的な恩恵は? 望ましい料金とは? 清水草一はこう考える。
-
メーカー団体もついに本気になった? 日本における「自動運転」の未来と現在地 2026.10.2 日本の自動車メーカー14社で構成される日本自動車工業会が、記者会見で「自動運転」の普及・実装へ向けた取り組みを発表した。彼らは、どのようなロードマップで自動運転の社会実装を考えており、そこにはどのような課題があるのか?
-
安いのは分かってる 軽スーパーハイトBEV「BYDラッコ」のお買い得度を検証する 2026.10.1 BYDの軽スーパーハイトBEV「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。すでに各所で報じられているとおり安いのは間違いないが、装備内容等も考慮したうえでの買い得度はどんなものか。ライバル車との比較を通じて検証した。
-
目指したのは“さらなるスポーティーセダン” 新型「BMW 3シリーズ」の技術的ハイライトを読み解く 2026.9.30 BMWが「i3」に続いて「3シリーズ セダン」の新型を公開した。かたや電気自動車、かたや内燃機関搭載車とはいえ、どちらも同じ3シリーズなのだが、どうも世間の受け止めはそうではないらしい。それはともかく、「Mスポーツ プロ」も設定された新型の技術的ハイライトを解説する。
-
NEW
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
NEW
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。 -
NEW
写真で解説する「スズキeスカイ」
2026.10.6画像・写真軽規格の新型電気自動車「スズキeスカイ」がデビュー。2026年10月6日に東京都内で発表会が開催された。スズキが総力をあげて開発したというニューモデルの見どころや、会場における社長の談話を紹介する。 -
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】
2026.10.6試乗記「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。 -
エンジンオイルは高価なものを使うべきか?
2026.10.6あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたう高価なエンジンオイルを使うと、どれほどの性能アップが期待できるのか? トヨタでさまざまな新車の開発に携わってきたエンジニア、多田哲哉さんに聞いてみた。






































