第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題―
2026.05.06 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
BMWが満を持して発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。バイエルンの名門が思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、これからのセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。
(前編に戻る)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実は結構デカいんです
webCGほった(以下、ほった):記念すべきゾロ目の第111回です。前回は「新型i3は『ビジョン ノイエクラッセ』とフォルムが全然違う!」という話までしましたけど。
清水草一(以下、清水):フロントマスクはコンセプトカーから引き継いだけど、フォルムは保守的になったよね。それでも「これじゃBMWらしく見えない!」という批判の声は、世界中であるみたい。
渕野健太郎(以下、渕野):そうなんですね……。顔に関しては、なんかこれまでのBMWとは全然違うタイプで、真正面から見ると新たなデザインへの期待感が膨らみますけど。
清水:その顔が新しすぎてBMWらしくない、ってことでしょう、恐らく。
渕野:自分としては、顔には新しさがあるんだけど、サイドに振っていくにつれて、「あれ、なんだろうな。ちょっと、とりとめがないな」と感じたんですが。
ほった:世間とは逆に。
渕野:とはいっても、ドイツ車としての強さ、固まり感はすごくありますよね。あとこのクルマに関しては、タイヤの外径がかなりデカいんじゃないかな。このタイヤのデカさも、これまでのサイズだと成立しなかった……というか、ここまでデカいタイヤを履かせないと、デザインの整合性がとれなかったのでしょう。i3は床下にバッテリーを積むBEVなので、既存の3シリーズより、かなり全高がありますから。
ほった:40mmぐらい高くなってますよね。
渕野:セダンで40mmというのは、結構上がってますよ。
清水:デカいですよ40mmは。
渕野:全高が1480mmで、長さが4760mmで……。全長も3シリーズより少し長くなってますね。そうは見えないけど。
清水:見えませんね。全高が上がったぶん、だいぶずんぐり感じるから。
渕野:だからこれは、実際に見たらかなりデカいクルマなんじゃないかな?
そのデザインでお金がとれますか?
渕野:こうして見ると、前の3シリーズと比べても結構違いますけど、やはりノイエクラッセからもテイストを変えてきた気がしますね。ノイエ~は薄くて軽快に感じましたけど、それと比べると“強さ”が前面に出ている。
ほった:やっぱ、あれは評判が悪かったのかなぁ。
渕野:どんな風に悪かったと思うんです?
ほった:ワタシらのというより、販売店からの評価です。個人的に、ノイエクラッセには高級車としてのイバリや威厳を感じなかったので、「『これでお布施を集められますか!?』って突き上げがありそうだな」って、ずっと思ってたんですよ。あのデザインは、未来のクルマとしてはよかったかもしれないけど、高級車としてどうかといったら……販売現場は危機感を覚えたんじゃないかな。
渕野:デザイナーの理想と現実ですね。デザイナー側には「時流に沿って、よりそぎ落としたい」「高級の概念を変えたい」という思いがあったんでしょうけど、実際のところ、高級車ってどうあるべきかといったら……。しっかりしたショルダーが欲しいとか、そういう要望があったのかもしれませんね。
清水:確かに、ノイエクラッセは押しが弱すぎたかもしれない。私が似たようなクルマとして最初に思い浮かべたのも「日産IDx」だったしね。市販版が「ブルーバード」になるならいいけど、“ビーエムの3”になるって言われたら、ねぇ。
渕野:さらに今回、グリルがすごくシンプルになっているので、余計にそう感じるのかもしれませんね。
清水:あの顔は、すごくいい着地点だと思うんだけど。
ほった:あれ? 清水さんは巨大キドニー支持派じゃなかったですか?(参照)
清水:あれはあれでインパクトがあったけど、巨大化には限界があるからさ。その点、i3は顔の全部がキドニーになったようにも見えつつ、なおかつシンプルでしょ。
渕野:顔に関しては、メルセデスとは真逆の方向に向かっていますね。散々「キドニーグリルがデカすぎる!」と批判されたとはいえ、グリルの大きさは高級車のアイコンですから。それをやめたんだから、これはチャレンジしたなと思います。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
3度目の大転換で原点に回帰
渕野:既存の3シリーズとの違いに話を戻しますけど、今までの3って、FRのプロポーションをすごく追求してきましたよね。長いフードと短いフロントオーバーハングで。でもi3は、BEVならではの設計要件もあって、そこは考えていない。それをポジティブに受け取る人もいるだろうし、「いやこれは違うよ」っていう人もいるだろうと思います。ただ歴代3シリーズを並べてみると、今回のi3は、むしろ「E30」より以前のプロポーションには近づいたなと思うんですよ。
清水:ええっ!? そ、そうですか?
渕野:前後の高さ感とか、キャビンの雰囲気、それに対してタイヤがどうついているかっていうところが。「E36」以降の3シリーズは、明快にFRのプロポーションを追求しているんですけど、今回はそれより前の、もっとクラシカルな方向に近い。ショーカーのノイエクラッセっていう名前自体がそうですよね。シルエットのイメージも、古いBMWを意識したのかなと思ったりしました。
清水:ノイエ~のほうにはそういう面もあるでしょうけど、i3は……。保守とも革新とも受け取れるかな、双方のバランスをとったっていう。だから、どっちからもダメ出しがくる可能性もある。
渕野:歴史を振り返ってみると、初代とE30はすごくクラシカルで、E36でかなりモダンになった。サイドビューもハイデッキで現代的になりました。で、次の世代、「E46」はその正常進化ですよね。個人的にはこれが一番好きかもしれない。
清水:えっ、意外。
渕野:その次の「E90」はクリス・バングルのデザインです。これが、E36に次ぐ3シリーズ第2の転換点ですよね。サイドビューを見ても、バンパーからサイドまでぐるっとまわっていたモールが一切なくなって、面質もモダンでシャープになった。そこから現代まで、3シリーズはそんなに変わってこなかったんです。それが今回また、i3で全然違うデザインになった。
清水:第3の転換点ですね。
ほった:その3度目の革新で、原初のフォルムに原点回帰したと、そう考えると面白いですね。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これがBEVセダンの最適解か
ほった:ただまぁ、そういう見方ってワタシらクルマおたくしかしないもんです。もっと平易なところでワタシが思ったのは、結局、BEVでセダンをつくろうとしたら、既出の「BYDシール」みたいなシルエットにせざるを得ないんだなってことでした。ロワボディーを厚くして、与えられた全長のなかでキャビンを極力長くして、ノーズもリアも短めにする。それで既存の自動車に慣れ親しんだ人にも違和感なく受け入れてもらうには、多分こういうデザインが最適解なんだろうなと。
渕野:BEV化で車高を高くせざるを得ないので、そのなかでバランスをとるのは非常に難しいということなんでしょうね。「7シリーズ」のときみたいに(参照)。
ほった:ですねぇ。あとは、ロングノーズである必要がなくなった時代に、セダンはどうやって高級感を出していくか? っていう問題があるのかなと。
渕野:それはすごく難しいですよね。「もうロングノーズでもないだろう」っていうのもわかるけど、今まではそこが高級感につながっていたわけで。
清水:結局、ほった君はi3についてどう思ってるの?
ほった:うう~ん。……イモっぽいなって思います。
清水:げえっ!
ほった:おイモさんっぽくないですか? 今までみたいな「エリート号」って感じではなくなってるじゃないですか。ショルダーラインのRとか、細かいところのつくりは確かにビーエムだけど、スタイリッシュでもないし八頭身美人でもなくなっちゃった。その辺は、FFのBMWが出たときと印象が近いですね。
渕野:自分としても、FRのプロポーションを大事にしてきた既存の3シリーズとはだいぶ違うので、違和感はありましたけど……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“カッコよさ”に全振りしてもよかったのでは?
ほった:もうひとつ思ったんですけど、セダンってもう、SUVとかミニバンとか、ほかの車形には機能面で勝ち目がないじゃないですか。乗り降りのしやすさとか、見晴らしのよさとか、取り回しのしやすさとか、積載性のよさとか。「乗り心地が~」「静かさが~」って言ってんのはワタシらクルマ好きだけですよ。そんな時代に、「BEVになったからBEVのパッケージに合わせてつくりました」って言って機能に準じたセダンに、どれほどの意味があるのでしょう?
清水:なるほど。ムダな抵抗だと。
ほった:左様です。このi3も、BEVのパッケージに沿って胴長短足にするんじゃなくて、カッコいい路線を突っ走ってもよかったんじゃないかと思うんです。意味ないけどロングノーズにしちゃうとか。
清水:これがエンジン専用車だったらどうかな。このデザインで「4気筒しか積みません!」とか言って出てきたら、意外とよかったんじゃない?
ほった:情報によってデザインの印象が補完されるってのは確かにありますけど、でもどうかなぁ……。いずれにせよ新型i3は、パッケージの都合でどんどん丸っこくなっていくセダンに対して、4ドア原理主義の皆さまがどこまで愛を貫けるかの、試金石になるんじゃないかと思います。
清水:おおぅ……。でもさ、BMWは頑張ったと思うんだ。ナイスファイトだよ! セダンじゃもうムリですっていう部分はあるかなとは思うけど。
ほった:でしょ?
清水:顔重視の俺としては、このフロントマスクがエンジンを搭載する3シリーズのビッグマイナーチェンジに生かされることに期待してる。あるいはSUVを含むすべてのBMWに。
ほった:ワタシも、この顔は嫌いじゃないです 。なんでか「iX3」より断然カッコよく見える。
渕野:同感です。この顔は悪くないですね(笑)。
清水:じゃ、今回は「この顔はいいぞ!」っていう結論で。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、ステランティス、日産自動車、メルセデス・ベンツ/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第122回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(前編) ―すべては計画どおり!? 物議をかもすフロントデザインの正否― 2026.7.29 日産が満を持して日本に導入した、コンパクトSUVの新型「キックス」。失敗が許されない量販車種だけにデザインはコンサバかと思いきや、実際にはかなり強烈な“顔”の持ち主だった。物議をかもすその容貌は確信犯の所業か? カーデザインの識者と考えた。
-
第121回:幽玄なるBMWアルピナ(後編) ―成功のためには美学を捨てろ? “優雅なラグジュアリーカー”の成否を考える― 2026.7.22 BMWのクルマをベースに、優雅で上品なグランドツアラーを仕立ててきたBMWアルピナ。BMWの傘下で再出発を切ったラグジュアリーブランドは、その美学を守り続けられるのか? オラオラ系がもてはやされる高級車マーケットでの成否を、カーデザインの識者と考えた。
-
第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?― 2026.7.15 日本でも、ファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その伝統である「控えめの美学」は今後も受け継がれるのか? ショーカー「ビジョンBMWアルピナ」の造形から、カーデザインの識者と考えた。
-
第119回:デザイン目線で大総括! 2026年上半期のニューモデル ―「日産リーフ」「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」その他もろもろ編― 2026.7.8 2026年の上半期に登場したニューモデルを、カーデザインの識者とともに大総括。「日産リーフ」「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」「トヨタRAV4」などをお題に、いつもの3人が激論(?)を交わす! 上半期ベストデザインの栄冠に輝くのは、このクルマだ!
-
第118回:デザイン目線で大総括! 2026年上半期のニューモデル ―「マツダCX-5」「ホンダ・スーパーONE」編― 2026.7.1 例年同様、さまざまなニューモデルが登場した2026年の上半期。クルマ好きの注目を集めた新型車の数々を、カーデザインの視点で振り返ってみよう。まずは、一見キープコンセプトに見える新型「マツダCX-5」と、古くて新しい「ホンダ・スーパーONE」から!
-
NEW
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か
2026.8.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。 -
NEW
MINIクーパーSEポール・スミスエディション(FWD)【試乗記】
2026.8.3試乗記人気のプレミアムコンパクト「MINI」に、特別なデザインが魅力の「ポール・スミスエディション」が登場。著名なファッションブランドがコーディネートしたMINIは、クルマに疎い人も、ブランドに疎い人も魅了する、説得力のある装いの一台に仕上がっていた。 -
NEW
「フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ」の“MTごっこ”は、スーパーカーの新スタンダードになるか?
2026.8.3デイリーコラムフェラーリひさびさの3ペダルMT車として注目される「12チリンドリ マヌアーレ」は、実はDCTがベースの“なんちゃってMT車”だ。やはり、超ハイパワー車と伝統的なMTのコンビは無理なのか? 事情に詳しい西川 淳はこう考える。 -
マツダCX-5 G(後編)
2026.8.2思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「マツダCX-5」に試乗。後編ではマイルドハイブリッド化された2.5リッターエンジンやホイールベースが拡大されたシャシーが織りなす走りをチェック。気になる「スカイアクティブZ」についても聞いてみた。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】
2026.8.1試乗記いまやトヨタの最量販モデルへと上り詰めた「RAV4」の6代目モデルが登場。もちろんトヨタにとっては自信作のはずだが、後を追うライバル勢も着々と進化しており、カスタマーのチェックの目は厳しくなるばかりだ。国内向けでは最廉価の「アドベンチャー」でその仕上がりを試した。 -
パワー炸裂! 世界のV8エンジン搭載モデル
2026.8.1日刊!名車列伝速さが自慢のスポーツモデルから高級サルーンまで。今月は、トルキーな出力特性や迫力のサウンドが魅力のV8エンジン車を特集。日替わりで紹介いたします。

















































