企画から開発までを一気通貫で レクサス&GRの開発現場「トヨタ・テクニカルセンター下山」の設備群を見学
2026.05.13 デイリーコラム総面積は東京ドーム140個分
トヨタが本社を構える愛知県豊田市からクルマで北に約30分、同市の下山地区は山や高原、湖に囲まれた日本の原風景を感じさせてくれるような地域です。その自然や地形を極力生かすかたちでつくられたのが「トヨタ・テクニカルセンター下山(TTC-S)」。総面積は東京ドームにして140個に相当する約650haですが、開発棟やテストトラックといった施設の面積は全体の約4分の1。そこに取り付け路や調整池、造成緑地などを加えても4割程度、残り6割の敷地は手つかずで残されています。
これは地域の景観や環境、野生動物の生態などに配慮したもので、例えば水道や電気などの配管類も取り付け路に沿うかたちでレイアウトされるなど、埋設等による地形変化を極力抑える構造としています。また、万一の災害時に地域の孤立を防ぐハブとしての機能も考えられており、取材の当日も行政とともにヘリを用いた防災訓練が行われていました。
今回は、レクサスの新型BEV「TZ」のワールドプレミアに合わせて、内外のメディアを対象にTTC-Sの取材が許されたわけですが、その端緒はトヨタのサイモン・ハンフリーズCBOの意向だったそうです。TTC-Sは2019年のカントリー路完成以降、コロナ禍のなかで五月雨式に施設運用が始まったこともあって、全容をしっかり伝えることができていなかった一面もあります。そこをリマインドしたいと考えたのでしょう。
TTC-Sに所属するのはレクサスとGR、両ブランドの開発者たちでおよそ3000人。企画設計、デザイン、開発の全機能が車両開発棟を軸に1カ所で完結するのが特徴で、カントリー路や高速評価路といったテストトラックとも敷地内でじかにつながっています。さらに開発棟とは別に、おのおののトラックには走行で得られた結果をすぐに反映できる作業ガレージが配されるなど、一気通貫だけでなく最短動線でクルマづくりが行えるように配慮されています。
すべては「もっといいクルマ」のために
現在はシミュレーション等を駆使した時短開発も盛んですが、人が動かなければ話が始まらない一面もあるわけで、特に後者の側にフォーカスすれば完成車メーカーでは間違いなく世界で最も効率の高い開発環境ということができるでしょう。ちなみに本社側にはパワートレインの開発機能がありますが、仮に車体側とのすり合わせが必要になった際にも下道を30分も走れば顔合わせができるというわけです。
2020年に発売されたマイナーチェンジ版「レクサスIS」を皮切りに、TTC-S絡みのモデルはすでに多くが上市されていますが、今回のレクサスTZのようにハナから下山環境で開発されてきた銘柄も続々と世に出てきています。より顕著なのはGRブランドで、「GRヤリス」や「GRカローラ」の頻繁な年次改良は、レーシングフィールドからのフィードバックとともに、この下山のコースでの検証や反映の作業がなければかなわないものでしょう。
TTC-Sの開発棟は1階が車両整備、2階が企画設計等の開発部門、そして3階がデザイン部門のフロアとなっています。建物自体、隔壁や柱をできるだけ少なくした構造で、その見渡しのよさは各部署の横連携のしやすさを狙ってのものです。が、デザイン部門は横の風通しだけでなく縦方向、つまり開発部門からのアクセスもオープンだといいます。意匠は新型車の生命線、つまり秘匿の塊ですから通常は社員でもデザイン部門への入退室は厳しく制限されますが、TTC-Sではこの部門間の情報交流によって目標の共有化や開発の迅速化を図ろうというわけです。
今やクルマの開発はシミュレーション抜きでは語れない。つまりその質はソフトのデキやハードの処理速度に依存するという一面もあるわけですが、並行してマンパワーが求められる領域の密度や速度を高めることも重要になっています。TTC-Sが目指すのはまさに後者の側。今回はある試作車を通して、そんなTTC-Sの実戦と開発の直結ぶりを垣間見ることができましたが、それは近々リポートできるかと思います。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
あのクルマはなぜ売れている? 自販連のデータから“日本車の今”を読むNEW 2026.9.25 ここ数年の自販連のデータからは、国内市場におけるトヨタのゆるぎない強さが見てとれる。ではその実績から、人々にどんなクルマが求められているといえるのか? 統計や数字の裏にある消費者マインドを探ってみよう。
-
トヨタもスバルもマツダも いまなぜ2.5リッターエンジンなのか? 2026.9.24 トヨタもスバル、マツダも最新のパワートレインに2.5リッター直4エンジンを採用している。ユーザー感覚では「2リッターを超えると自動車税が高くなるのに」と、疑問に思えるが、そこにはメーカーもユーザーも納得の理由がある?
-
新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由 2026.9.23 国内にも多くのモデルが導入されている国内ブランドのタイ生産車だが、近い将来は事情が大きく変わっている可能性がある。というのも、各社がタイに注力していたのは少し前の話で、実はその生産規模は少しずつ縮小傾向にあるのだ。その背景を解説する。
-
新型「三菱パジェロ」の走りを支えるテクノロジー 「スーパーセレクト4WD-II」って何だ? 2026.9.21 2026年10月末の国内正式発表が待たれる新型「三菱パジェロ」。その価値の多くを占める「悪路走破性」は、どんな技術に支えられているのか? 「SS4-II」「S-AWC」といったキーテクノロジーについて深堀りしてみよう。
-
「レースの技術を生かしています」は本当か? スバルのモータースポーツ関係者に問う 2026.9.18 スポーツカーの広告などで目にする「レースで鍛えられた~」という文句。あれはいったい、どこまでホントなの? スーパー耐久や全日本ラリーに参戦するスバルの関係者に、市販モデルの開発とモータースポーツの関係について語ってもらった。
-
NEW
あのクルマはなぜ売れている? 自販連のデータから“日本車の今”を読む
2026.9.25デイリーコラムここ数年の自販連のデータからは、国内市場におけるトヨタのゆるぎない強さが見てとれる。ではその実績から、人々にどんなクルマが求められているといえるのか? 統計や数字の裏にある消費者マインドを探ってみよう。 -
第293回: スイフトが主役の映画? いや、監督がスイフトなんです! 『藁にもすがる獣たち』
2026.9.24読んでますカー、観てますカー曽根圭介の小説を原作にした2度目の映画化。韓国版では「ヒョンデ・ソナタ」が殺人カーだったが、今回は「トヨタ86」に。もっと活躍するのはチャンピオンイエローがまぶしい“スイスポ”。スズキファン必見のアクションエンターテインメント! -
マツダCX-5 L(前編)
2026.9.24あの多田哲哉の自動車放談マツダの基幹モデル「CX-5」がフルモデルチェンジ。世の注目を集める新型は、期待に応えられる出来なのか? 元トヨタの車両開発者である多田哲哉さんが、ワインディングロードで試乗して確かめた。 -
トヨタもスバルもマツダも いまなぜ2.5リッターエンジンなのか?
2026.9.24デイリーコラムトヨタもスバル、マツダも最新のパワートレインに2.5リッター直4エンジンを採用している。ユーザー感覚では「2リッターを超えると自動車税が高くなるのに」と、疑問に思えるが、そこにはメーカーもユーザーも納得の理由がある? -
新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由
2026.9.23デイリーコラム国内にも多くのモデルが導入されている国内ブランドのタイ生産車だが、近い将来は事情が大きく変わっている可能性がある。というのも、各社がタイに注力していたのは少し前の話で、実はその生産規模は少しずつ縮小傾向にあるのだ。その背景を解説する。 -
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地―
2026.9.23カーデザイン曼荼羅今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。






