環境も走りも妥協しない ミシュランが目指す持続可能な次世代のビジョンを知る
2026.07.02 デイリーコラムミシュランが低転がり抵抗タイヤにこだわる理由
先日、栃木のGKNドライブラインジャパン プルービンググラウンドで行われたミシュランの「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」の試走会(参照)では、あわせて「サステナビリティ戦略アップデートセミナー」(以下サステナビリティセミナー)も開催された。
一日の取材を終えて腑(ふ)に落ちたのが、なぜミシュランがここまで低転がり抵抗タイヤにこだわるか、という理由だ。
「環境も走りも妥協しない」。今回のセミナーは、この一言から始まった。環境性能を高めるために走りを犠牲にするのではなく、高い走行性能や安全性を維持したまま環境負荷を下げる。それこそが、ミシュランのサステイナビリティー戦略の基本的な考え方である。
ミシュランが目標にするのは、2030年までにタイヤのエネルギー効率を2020年比で10%改善し、2050年には(環境面で)100%持続可能なタイヤを実現すること。そのためには、原材料の調達から製造、輸送、使用、そして使用後まで、タイヤのライフサイクル全体で環境への影響を捉える必要があるのは当然だ。このうち、想像以上に影響が大きいのが、タイヤ使用時の環境負荷である。それを減らすためのひとつの手段として低転がり抵抗タイヤにこだわっているということに、今回のサステナビリティセミナーではフォーカスされていたのだ。
LCAワークショップが教えてくれた意外な事実
今回最も印象に残ったのが、ミシュランが社内で実施している「LCA(ライフサイクルアセスメント)ワークショップ」の体験だった。
参加者はまず、タイヤのライフサイクルを「設計・材料」「製造」「物流」「使用」「回収・再資源化」の5段階に分け、それぞれが環境にどの程度影響を与えているのかを参加者自身で考える。
タイヤのライフサイクル全体では、使用段階の環境負荷が最も大きいだろうとは考えていた。しかし、予想をはるかに超える割合の数値に驚かされる。ミシュランが算出するLCAシングルスコアによれば、環境負荷のなんと84%が使用段階にあり、設計・材料が13%、製造工程は1.5%、物流や回収は1%未満。圧倒的に使用段階の影響が大きい。
つまり、タイヤの環境負荷を減らすうえで最も効果的なのは、工場での省エネ・省資源よりも、実際に走行中に消費されるエネルギーを減らすことである。なかでも最もエネルギーを消費するのが、転がり抵抗である。ワークショップでは、定速走行時に車両が消費するエネルギーの約2割がタイヤの転がり抵抗に起因すると説明された。電気自動車でも状況は同じで、クルマが走っているあいだは、常にタイヤがエネルギーを消費し続けている。だからこそ、環境負荷を減らすためには低転がり抵抗が重要になる。
環境問題を感覚ではなく数字で理解することができるLCAワークショップは、とても有効だった。
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2028年からタイヤ摩耗粒子の規制が始まる
サステナビリティセミナーでは、タイヤ業界が直面している課題にも触れられた。
いま欧州で大きなテーマになっているのがタイヤ摩耗粒子の削減だ。ミシュランによると、EUでは年間約50万tものタイヤ摩耗粒子が発生しているという。2028年からは摩耗粒子に関する新たな規制がEUで始まる。
ミシュランはこうした規制を見据え、耐摩耗性能向上に長年取り組んできた。さらに2030年までに耐摩耗性能を10%向上させる目標も掲げている。摩耗を減らせばタイヤの交換回数も減り、資源消費も抑えられるからだ。一方、規制が目前に迫る段階では、環境性能は差別化要因ではなく、もはや市場参入のための必須条件になっているという認識である。これからのタイヤメーカーは、摩耗粒子を減らせなければ市場に残れないということだ。
同様に、森林破壊防止規制への対応も重要なテーマになっている。ミシュランは2015年に業界で初めて「森林破壊ゼロ」を宣言し、2024年末には森林破壊のないプランテーション由来の天然ゴムのみを調達する体制を整えたという。
環境対応はもはや企業イメージ向上のためではない。製品そのものの競争力を左右する時代に入った。それでも、「規制があるなしに関わらず、ミシュランのサステイナビリティーはDNAである」という言葉には説得力を感じた。
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トラック用タイヤが示す「最後まで使い切る」という思想
座学のあとには、トラック・バス用タイヤの「リグルーブ」を体験することができた。
リグルーブとは、摩耗したタイヤのトレッドに専用工具で新たな溝を彫り直し、寿命を延ばす技術である。さらに摩耗が進んだ場合には、新しいトレッドゴムを貼り付けて再利用する「リトレッド」という方法もある。乗用車用タイヤではなじみの薄い技術だが、トラック業界では古くから実践されてきた考え方である。ミシュランによると、リグルーブにより、最大で新品タイヤの約25%分の走行が可能になるという。
興味深いのは、ミシュランがリグルーブを前提としてトラック用タイヤを設計していることだ。最初から寿命を延ばすことが考えられているというのである。
実際にリグルーブ作業を体験してみると、想像以上に簡単に溝を刻むことができた。リグルーブはタイヤショップに依頼することもできるが、トレーニングを受ければユーザー自身が行うことも可能で、そうなると、低い作業コストでタイヤの寿命を延ばせるから、ユーザーにとってもメリットは大きい。
タイヤを簡単に捨てるのではなく、性能を維持しながら最後まで使い切る。その考え方は、プライマシー5エナジーが残り溝2mmになっても安心して使えることに通じている。
低転がり抵抗、耐摩耗性、摩耗後の安全性……。これらはすべて、ミシュランのサステナビリティーの考え方につながっていた。今回の試乗会とセミナーを通じて見えてきたのは、ミシュランが目指しているのは単なる「エコタイヤ」ではなく、「環境と走りを高次元で両立するタイヤ」だということだった。環境も走りも妥協しない。その姿勢こそが、ミシュランのサステイナビリティー戦略の本質なのである。
(文=生方 聡/写真=日本ミシュランタイヤ/編集=櫻井健一)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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