日本メーカーは猛省せよ! 軽スーパーハイトワゴン初のEV「BYDラッコ」誕生の衝撃
2026.08.07 デイリーコラムこれは大惨敗である
夏休みに浮かれる今日の日本で、話題をさらいまくっている輸入車といえば、なんといっても「ラッコ」。いまや中国最大の自動車メーカーとなったBYDが、日本専用車として開発した軽規格の電気自動車(EV)だ。メディアでは“黒船襲来”なんてもてはやされている。
黒船といえばリア・ディゾンだけど、ラッコのCMキャラクターは広瀬アリス。妹は「スズキ・ワゴンR」のCMに出ているけれど、そのへんはOKなのかな? ……なんてどうでもいい話はともかく、これまで日本車の聖域であった軽自動車の量販セグメントに、海外勢が殴り込みをかけてきたのだから、これは事件だ。
ちなみに、BYD内で軽自動車をつくる構想が生まれたのは2年半前。2023年秋にジャパンモビリティショーの視察で日本を訪れた王 伝福CEOが、そのへんをたくさん走っている軽スーパーハイトワゴンを見て「日本で受け入れてもらうには、日本でたくさん売れているジャンルのクルマをつくらなければならない」と感じたのがきっかけだとか。
それにしても、すべて新設計のクルマを2年半でつくるって、なんというスピードなのよ!? BYDでは最も小さなプラットフォーム(現時点ではラッコ専用)を新たに起こし、「X-PACK(エックスパック)」と呼ぶバッテリーとEV関連機器を統合したユニットも新開発。単に「軽自動車サイズのクルマをつくっちゃいました」というレベルなんかじゃなく、めちゃめちゃ気合いが入っていることがひしひしと伝わってくる。
そんなラッコに関して、多くのメディアは「日本車の軽EVより優れているか否か?」という記事を掲載しているが、筆者はこう断言する。そういうこと以前に、これは日本メーカーの大惨敗であると。
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日本の顧客が求めていたものを中国メーカーが提供する
日本メーカーのどこがダメか? スーパーハイトワゴンという、日本で最も売れ筋となっている乗用車ジャンルのEVは、本来ならまず日本メーカーが市場へ送り出すべきだった。なのに海外メーカーに先を越されてしまったという事実。それに尽きる。「売れる」とか「売れない」の前に、消費者に対するメーカーの姿勢として敗北しているのだ。
だって、「ホンダN-BOX」に始まり「スズキ・スペーシア」「ダイハツ・タント」「日産ルークス」「三菱デリカミニ」と、軽スーパーハイトは大人気ジャンル。まさに日本の国民車といっていい。だったら、いずれそこへEVを投入する必要が出てくることは誰だって分かっていただろう。国民はスライドドア付きの軽乗用車を求めているのだ。
しかし、日本の自動車メーカーはさまざまな理由をつけてスライドドア付きの軽乗用EVを投入してこなかった(「ホンダN-VAN e:」などは商用車扱いのバンであって、乗用ワゴンではない)。スーパーハイトワゴンよりも背が低く、スライドドアではないヒンジドアのハイトワゴン止まりだったのだ。そこへ、海外メーカーが先陣を切って商品を投入してきたのだから、これを日本メーカーの敗北と言わずして、なんというべきか。
日本メーカーの関係者は言う。「確かに、スライドドアを備える軽スーパーハイトワゴンのEVを求める声はあるが、(「日産サクラ」や「ホンダN-ONE e:」に対して)車両は重くなるし空気抵抗は増えるしで、航続距離は短くなる。スライドドアと床下バッテリーの組み合わせは構造的に難しい部分もあり、なにより車両価格が上がるので、お客さまに選ばれにくくなってしまう」と。確かに正論だ。
だけど、今や軽乗用車ユーザーの大多数が望んでいるのはスライドドア付きのモデルだ。今、スライドドアの軽を愛用している人が、EVに乗り換える際にヒンジドアの車種を選ぶことはまずないだろう。「開発しない理由」として正論を並べることより、ユーザーの求めるクルマを送り出すことのほうが“お客さまに寄り添った商品開発”ではないのか?
日本のどのメーカーもそれを送り出すことができず、黒船に先を越されてしまった。日本で最も人気がある、日本独自の車型であるにもかかわらずだ。繰り返すが、それが日本メーカーの敗北と言わずして、なんと言おう。たとえ、ラッコの後席のシートアレンジやその操作方法が、N-BOXのパクリだったとしてもだ。
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価格も性能も装備の設定も……
そのうえ、BYDラッコはコストパフォーマンスも抜群だ。車両価格は214万5000円(消費税込)で、補助金を加味すれば200万円を切るベーシックグレード「200」だって、一充電航続距離はWLTCモードで210kmだし、電動スライドドアや10.1インチのディスプレイオーディオ、テレスコピックステアリング(ハンドルの前後調整機能)を標準で装備する。最上級グレード「300プレミアム」ともなれば、航続距離は320kmまで伸びるうえに、全方位モニターや電動調整式の運転席、ミリ波レーダーを用いた後席置き去り防止機能(ドアロックされた停車中に人を検知すると自動的にエアコンが作動する)まで備わるのだ。特に、テレスコピックステアリングは日本の軽自動車にはほぼ採用例のないものだし、運転席のパワーシートも、いま売られている軽自動車にはどれも設定がない。
確かにリセールバリューの不安はあるが、この中身で249万7000円という300プレミアムのコスパは、N-BOXのターボエンジン搭載車(直近のマイナーチェンジで全方位モニター付きのナビが標準装備化されたが)を超えると判断できる。N-BOXには追ってEVモデルが追加されるというウワサもあるが(遅いよ!)、補助金を抜きにすればラッコの価格には届かないだろう。
とはいえ、そんなラッコが日本で飛ぶように売れるかといえば、それは別問題。日本市場はそう甘い海域ではない。中国製品に対するアレルギーはまだあるし、販売網が強くないのも大きなハンデだ。いくら商品の出来やコスパがよかったとしても、ディーラーが近所にないクルマを人にお勧めすることは、筆者にはできない。逆にディーラーが近くにあるという人は、積極的にラッコを検討しても損はないだろう。
ところで、このクルマの車名にもなった海洋生物のラッコという名前は、アイヌ語に由来する日本語なのだとか。あちこちの水族館で見られる生き物というのが筆者の認識だったが、令和の今ではそれも過去の話らしい。あらためて調べたところ、ピーク時には全国28カ所の施設で122頭が飼育されていたラッコも、今は鳥羽水族館にいる2頭だけなのだとか(国際的な制限強化で、新たな個体の飼育は難しいようだ)。運がよければ北海道の一部で野生のラッコちゃんが見られるとはいえ、確実に見たいならば残されている時間は長くない。その動く姿を目に焼き付けておきたい人は、いざ鳥羽へ急ごう。
(文=工藤貴宏/写真=BYD、webCG、日産自動車、本田技研工業/編集=堀田剛資)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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