次期「スカイライン」はこうしてつくられる! 日産が今やろうとしている開発効率化の取り組みとは?
2026.08.17 デイリーコラム今のスピードではやられる!
日産自動車は2026年7月30日、メディア/ジャーナリスト向けに「開発期間短縮化の取り組みについて」と題したメディアレクチャーを開催した。講師を務めたのは、実質的にクルマづくりの現場のトップを務める第一製品開発本部 執行職の山口一之氏である。同年4月に行った「長期ビジョン発表会」で日産は「開発期間は4割短縮され、市場投入までの期間は最短で30カ月を実現。このプロセスはすでに仕組み化されている」と説明した。
これについて、「具体的に何をしているの?」との質問が日産自動車に相次いで届いたのだという。その声に応えるべく、山口氏が腰を上げたというわけだ。
「背景は中国です。コロナ明け、2023年の上海モーターショーで“上海ショック”がありました。中国のOEM(自動車メーカー)は開発が非常に速くて、半年前にできていなかったことが半年たつとできている。このままではまずいという話が社内で盛り上がり、2024年度から『PCS-T』を始めました」
PCS-Tはもともと役員や開発リーダーを対象とした説明会で用いる社内用語で、「Product Creation System - Transformation」の頭文字をつなげたもの。意訳すれば「開発システムの変革」という意味になる。中国の新興自動車メーカーはEVを中心に非常に速いスピードで新車を開発している。特に、意思決定の速さに衝撃を受けたという。日産は海外市場で中国のOEMと競争していかなければならない。競争力を保つには、日産も開発スピードを上げる必要がある。
これが、日産がPCS-Tに取り組む動機。2027年にも正式発表が予定されている次期「スカイライン」をPCS-Tのパイロット版に位置づけて実践しつつ課題を洗い出し、その後の機種開発ではブラッシュアップしたかたちで適用していく考えだ。
いい製品を適切なタイミングで
山口氏は開発スピードの変化のほかにも、①ライフサイクルの長期化による競争力の低下、②市場環境の急激な変化、③長いリードタイムによる事業リスクの増大、④コスト構造という計4つの課題を、開発期間短縮に取り組む理由に挙げた。
①は外的要因が影響している側面は否定できないものの、多分に自社の都合だ。ライフサイクルが長期化することによって製品の魅力が低下するのは当然である。②は完全に外的要因。山口氏はアメリカの政権交代によりEV化の流れが鈍化したことを例に挙げた。③は長期の開発期間が商品企画の不確実性を増幅させることを指す。開発プロジェクトが長くなればなるほど、発売したころには開発当初に立てた企画が陳腐化するリスクが増す。④は開発期間が長期化することにより、人件費を含めて開発コストが増加する傾向にあることを指している。
では、日産はどのような手段で開発期間短縮を図っているのだろうか。「やりたいことは、より早く、より競争力のあるコストで、より魅力のあるクルマをお客さまにお届けすること」と山口氏は話す。開発期間短縮はあくまで手段であって、狙いは、魅力あるクルマを競争力のある価格で、タイムリーに発売することだ(次期スカイラインがそうなっていることを祈るばかりである)。開発期間を短くすることがゴールでもないし、短いからエライわけでもない。
日産はプラットフォームを新規に開発するプロジェクトを「リードプロジェクト」、その後継モデルを「後継プロジェクト」と便宜上分類している。日欧中のOEMをベンチマークしてみると、リードプロジェクトは欧州のOEMといい勝負をしていることが分かった。これについては従来約50カ月かかっていた開発期間を37カ月に短縮すべく取り組んでいる。一方で、後継プロジェクトの開発に時間がかかりすぎていることが判明し、「反省した」と山口氏。後継プロジェクトについては30カ月で開発する見通しを立ててPCS-Tを進めている。
開発プロセスはスタイリング検討や性能検証に見積もりなどデジタル技術を駆使して行う「デジタルフェーズ」と、試作車など実際に物をつくって検証や品質確認などを行う「フィジカルフェーズ」で構成。それぞれで合理化を図って開発期間の短縮を図る。特にフィジカルフェーズでは最新のAIやDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して効率化を図る。
目指すは“人の心に響くクルマ”
繰り返すが、開発期間を短縮することが真の狙いではなく、いかに魅力ある商品をタイムリーに市場投入するかが重要。日産はこれまで新型車を開発する際、競合車をベンチマークし、新型車の性能目標を立てていた。
「競合車を見ると、どうしても全部勝たないといけないというマインドセットになる。クルマの設計では何かをよくすると、必ず何かが悪くなる。動力性能も乗り心地もすべてよくしようとすると、大きく、重くなる。重くなったら動力性能が悪くなるから、エンジンを大きくする。すると燃費が悪くなる。こういったことの繰り返しではうまくまとまらないし、ものすごくコストがかかる。結果として平均点は高くはなるが、クルマとしてはぼんやりしてしまう。そこが反省点です」
そこでPCS-T導入後は開発のやり方を変えた。
「お客さまに刺さるところ、とがらせたいところを決めて、そこにリソースを集中させることにしました。すると、優先度を落としたところは何度もやり直さなくて済むようになる(ので開発を効率化できる)。世の中のクルマを見ないのではなく、全部見たうえで自分たちはどうすると決める。こういうクルマのつくり方をするほうが日産らしいと考えています」
競合をベンチマークし、平均点を上回るクルマをつくるのではなく、人の心に響くクルマをつくる。そのための議論には労力をかけ、進むべき方向が定まったら脇目を振らず一気に開発を進めていく。以前は個車の収益に責任を持つプログラムダイレクター(PD)と個車の魅力に責任を持つCPS(チーフプロダクトスペシャリスト:商品企画責任者)、収益・魅力を両立させる手段に責任を持つCVE(チーフビークルエンジニア:開発責任者)の三者が話し合いによりプロジェクトを進めていた。
このやり方は民主主義的で公平である半面、合意の形成に時間がかかっていたという。PCS-Tではプロジェクト責任者を明確化。収益のPDと魅力のCPSを同じグループにし、ここで新型車のとがらせたい部分や魅力を定め、そのコンセプトに対してどういうビジネスにしたいかを定義する。すると、この定義を受け取ったCVEは与えられた条件のなかで一番いいものをつくるよう存分に腕を振るう。このように責任を明確化することで意思決定を速くし、開発の効率化を図る。
開発期間を短縮すれば自動的に魅力あるクルマができるわけではない。日産自動車としてどんなクルマをつくっていけばいいのか。人の心に響き「刺さる」クルマにするためには結局のところ、PD、CPS、CVEをはじめとする、クルマづくりに携わる人たちのセンスがモノを言う。PCS-T第1号モデルの次期スカイラインは、日産が変化の激しい時代を生き抜いていくだけの力があるかどうかを占う試金石になりそうだ。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=日産自動車、webCG/編集=関 顕也)
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世良 耕太
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