日産キックスG(FF)
クラスを超えた存在 2026.09.09 試乗記 日産が満を持して投入したコンパクトSUVの新型「キックス」。Cセグメントに迫るサイズとなったこのモデルは、競合ひしめくマーケットで存在感を示せるのか? 上級グレード「G」の試乗を通し、ライバルに対するアドバンテージを探った。ボディーサイズはCセグメント系に迫る
キックスは日産のBセグメント系SUVの屋台骨を担うモデルとして、2016年に初代が登場した。現在は北米、南米やASEAN、中東など、その商圏は確実に広がっている。対して日本市場では、2020年にタイ生産の輸入車として初代が導入されている。だいぶ遅くなったのは、2019年まで販売されていた「ジューク」とカニバることを避けたためのようだが、このあたりの商品ポートフォリオや販売戦略の描き方からして、足元の焦点が定まっていなかった感は否めない。
この国内ピンぼけ状態を補正して、ようやく視界がクリアになってきたのが日産の現在地というわけで、2代目となるキックスは、当初から日本での展開を前提に開発が進められた。販売の初速はよく、受注は8月アタマの時点で1万台超と好調なようだ。生産は当面は追浜となるが、工場閉鎖に伴い2028年度からは九州工場がその役を担う。
特に日本では、赤字転落が報道を加熱させ、経営危機と喧伝されたこともあって、販売現場では風評面での不利が拭えていない。こういうときには、少しでも前向きな話でこつこつと好印象を積み上げるしかないわけで、特に「ルークス」やキックスのような売れ筋が、マーケットで継続的に存在感を示すことは効果が大きい。
はたして新しいキックスは、客が客を呼ぶループを生み出せるようなクルマなのだろうか。Bセグメントという括りでみれば、日本市場で想定されるライバルは「トヨタ・ヤリス クロス」や「ホンダ・ヴェゼル」といった辺りになる。が、日産としてはグローバルで台数のはける「トヨタ・カローラ クロス」の側も意識しているようだ。それはガタイの大きさを見ればよく分かる。
新型キックスの車寸は、初代よりひと回りは大きい全長×全幅×全高=4365×1800×1615mm。Cセグメントに相当する「マツダCX-30」にほど近く、ヤリス クロスとは車格感がふた回り近く異なっている。北米でも販売するという事情から、サイズがCセグメントの側に引っ張られているということだろうか。
同様の事情を抱えるホンダも、ヴェゼルを「HR-V」として北米展開してきたが、現行世代ではひと回り大きいCセグメント級のモデルがそれを名乗っている。これが日本では「ZR-V」として売られて……と、このやり散らかし気味なポートフォリオも今のホンダの課題だろう。ちなみにトヨタの北米でのモノコック&内燃機系SUVは、カローラ クロスに「RAV4」「ハイランダー」と3本柱でスッキリまとめられている。
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マナーのよさはライバルと一線を画す
つまり、キックスは「CMF-B」プラットフォームを用いつつも、セグメント的にはBとCの双方にまたがる、B++のような役割を担わされるモデルということだ。ユーザーの期待値からすれば、一見ご立派だけど単に膨らませて肥大化したBセグメントというわけではなく、走行性能の側にもプラスアルファが求められる。激戦区だけに値づけも難しい。
と、そこに容赦ない値札で圧をかけているのがカローラ クロスだ。四駆同士で比べると、キックスはもちろん、ヴェゼルとの差も歴然。シンプルグレードの「S」でさえディスプレイオーディオを含むひと通りの装備は付いてくる。おまけに車格的にはさらに大きいわけで、コスパ比較ではどうみても分が悪い。
そんななかでキックスの美点は何かと問われれば、走りの質感の高さだと思う。全車が最新世代の「e-POWER」を搭載するのに加えて、四駆も2つのモーターとブレーキを協調制御する「e-4ORCE」化(今回の試乗車はFFだったが)。そもそも駆動環境が完全電動化されていることもあり、加減速の滑らかさは群を抜いている。この点はホンダの「e:HEV」も優位にあるが、あちらの1.5リッターユニットは、「シビック」などが採用する2リッターユニットに比べれば、音・振動の洗練度がいまひとつで、エンジンが回るとやはりクラス相応のガサつきが目立ってしまう。
一方、キックスのエンジンは「セレナ」にも用いられる1.4リッターの3気筒だが、モーターや発電機、増・減速機やインバーターなどを1つの筐体にまとめた、ジヤトコ製の5 in 1パワートレインを採用し、特にeアクスル由来の音・振動を封じ込めている。この第3世代e-POWERは、エンジン側の稼働を極力抑えるマネジメントにも長けていることが、全体的なノイズレベルを抑えることに奏功しているのだろう。「エルグランド」も然りで、よもや静粛性において日産がトヨタの上に来るとは思わなんだ……というのは、クルマ好きのオッさんなら誰しもが思うところだろう。
概してパワートレイン由来の不快感が低い、そこが乗り味の上質さにもつながっている。特に多用する100km/h付近までの速度域では、路面からの微入力から大きな凹凸に至るまで、その受け止めと減衰は、ちょっとクラスを超えた上質さを感じさせる。120km/h付近になるとさすがにエンジンの稼働も気になり、加速も鈍ってくるが、法定速度内でのマナーはライバルとは一線を画すところを感じさせてくれる。
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目指すはメルセデス・ベンツ系の走り?
運動性能もやはりBセグメントとは思えないほどの安定ぶりで、ハンドリングもニュートラル志向といえる。この点はヴェゼルとは好対照で、あちらは活発にアクセルやブレーキを踏んでいくとBセグメントらしい元気さが際立ってくる。こうしたあたり、これまたいにしえからの日産ファンからは、キックスにももう少しハジけた感じがあってもいいんじゃないかと不満が出るかもしれない。
でも日産は今、意図的に走りのデザインを補正している最中である。伝家の宝刀ともいえる鬼スタビリティーを軸足に、とにかく安心感を抱かせながら、運転者との信頼関係を裏切らない運動性能を構築する。これを強いて分類すれば、メルセデス的な方向になるのだろうか……とも思ったりするのだが、腫れものに触るようなスポーティネスとは明確に一線を画しているのは確かだ。FR&ショートホイールベースにして400PSオーバーの「フェアレディZ」が成立するというのは、そういうことでもある。
乗ってみてもやはり、キックスはセグメント的にBとCの間くらいに見るべきクルマなのだと思う。ゆえに、相応のお愛想は頂戴しますよということにもなるわけだが、そこで返す返すも取りまとめの巧妙さに感服させられるのがカローラ クロスだ。もうがっぷり四つでは勝負はできない。見ても乗ってもそんな説得力がある。日本車アフォーダブル選手権なら間違いなくトップ3に食い込むだろう。
手駒がぼちぼちそろいつつある日産にとっては、ともあれ数的改善が急務だ。キックスにはそのミッションをクリアするパフォーマンスが備わっていることは間違いない。それは見て乗って、確かに体感いただけると思う。強いて課題があるとすれば、やはり実燃費が他に比べると若干見劣りしそうだということ。そしてこの先も常に意識すべきは、トヨタじゃなくて日産を選んで買うというエンゲージメントをいかに深く築けるかということになるだろう。エルグランド、そして「スカイライン」と、それが強く問われるモデルの登場が続くのは、ある意味楽しみでもある。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=日産自動車)
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テスト車のデータ
日産キックスG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4365×1800×1615mm
ホイールベース:2655mm
車重:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:115N・m(11.7kgf・m)/6000rpm
モーター最高出力:143PS(105kW)/4800-1万0700rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.0kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)225/45R19 92W/(後)225/45R19 92W(ダンロップSPスポーツマックス060)
燃費:23.4km/リッター(WLTCモード)
価格:389万8400円/テスト車=448万1840円
オプション装備:ボディーカラー<ガーネットレッド/スーパーブラック 2トーン>(9万7900円)/BOSEパーソナルプラスサウンドシステム<10スピーカー>(8万2500円)/100V AC電源<1500W、ラゲッジ1個>(6万6000円)/ホットプラスパッケージ<[ステアリングヒーター、リアヒーターダクト、ヒーター付きドアミラー]+クリアビューパッケージ[ワイパーデアイサー、リアLEDフォグランプ≪運転席側≫+高濃度不凍液]>(6万3800円)/インテリジェントルームミラー+NissanConnectインフォテインメントシステム+ドライブレコーダー<前後セット>+ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>(22万7700円) ※以下、販売店オプション 3Dフロアマット(3万1900円)/ウィンドウはっ水12カ月 フロントウィンドウ+フロントドアガラスはっ水処理(1万3640円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2211km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:244.9km
使用燃料:11.75リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.8km/リッター(満タン法)/20.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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