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フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む

2026.10.19 デイリーコラム 渡辺 敏史
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過去と未来が共存できる市場

トヨタの「カローラ」がデビューした1966年は日本におけるマイカー元年ともいわれますが、究極のマイカーともいえるフェラーリが同社の記録上、日本への初上陸を果たしたのも実は同じ年。モデルは当時のフラッグシップスポーツである「275GTB」……ということで、2026年の今年は“60年の節目”になります。

過日、東京で行われた「Ferrari Festival Tokyo 2026」(関連記事)には、その祝祭的な意味合いもあったわけです。これに合わせて、イタリアからはベネデット・ヴィーニャCEOも来日しています。ちなみに氏は、半導体業界でのキャリアが長い関係もあってか、日本に来るのはなんと149回目とのこと。イベントの前日には「城と新幹線が同時に見られる場所にいた」そうで、その意をくめば姫路か福山のホテルに泊まられていたのかもしれません。いずれにせよ、のどかな日本の一面もご存じの方とお見受けしました。

会場となった六本木の東京ミッドタウンでは、最新のスペチアーレ(スペシャルモデル)である「F80」とともに、WECマシン「499P」やF1マシン「SF-26」といった最新のスクーデリア、「モンツァSP1」や「デイトナSP3」といったIcona(イーコナ)系の限定モデル、さらには「F40」や「F50」、「エンツォ」といったお歴々のスペチアーレが大集結、無料のイベント参加登録を済ませれば間近で眺めることができるというしつらえで、祭り感をワシワシ盛り立てていました。もちろん現行モデルも全員集合。その絢爛ぶりに見逃すところでしたが、ホイッと置かれた「12チリンドリ」が実は台数1499台の限定車として発表されたばかりの「マヌアーレ」だったりと、本社肝煎り&世界初の催しだけあって、さすがに気合の入りようが違っていました。

と、これほどの顔ぶれのなかに、あのクルマが加わっていないのはどういうこと? と思われる方もいるかもしれません。そう、「ルーチェ」です。フェラーリ初の電気自動車にして5シーター(「プロサングエ」は4シーターなのです)。内外装のプロデュースに関わったのはジョニー・アイブ&マーク・ニューソンの「LoveFrom(ラブフロム)」ということで各方面がパンパンに期待値を膨らませるなか、登場したルーチェは、特にクルマ軸の守旧派を中心に非難を浴びまくりました。舌戦にはなぜかイタリアの副首相や、2000年代の成長を支えたルカ・モンテゼモーロ元CEOまで加わる始末で、まあ概して「こんなんフェラーリじゃないし」という論調に至ったわけです。

これを振り返ってヴィーニャCEOいわく。

「われわれもSNSなどの反応はチェックしてますが、イタリアでは散々だったのに対して、ポジティブな意見も多く見られたのが日本です。日本のカスタマーはヘリテイジも重視する一方でイノベーションにもしっかり目を向けている。他のリージョンと比べても、過去と未来が共存できる市場なんだという手応えを得ることができました」

2026年9月26日から10月4日まで東京・六本木で開催された「Ferrari Festival Tokyo 2026」。会場には総勢17台の跳ね馬が展示された。
2026年9月26日から10月4日まで東京・六本木で開催された「Ferrari Festival Tokyo 2026」。会場には総勢17台の跳ね馬が展示された。拡大
スペチアーレのなかで有名な3台がそろい踏み。写真手前から順に「F40」「F50」、そして「エンツォ」。
スペチアーレのなかで有名な3台がそろい踏み。写真手前から順に「F40」「F50」、そして「エンツォ」。拡大
屋外展示ブースの中心には、発表からまだ間もない「フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ」が配置された。
屋外展示ブースの中心には、発表からまだ間もない「フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ」が配置された。拡大
「12チリンドリ マヌアーレ」のキモは、写真中央のシフトレバー。伝統的なMTのようなレバーを操作してDCTの変速ができるというのが、このクルマの最大のトピックである。
「12チリンドリ マヌアーレ」のキモは、写真中央のシフトレバー。伝統的なMTのようなレバーを操作してDCTの変速ができるというのが、このクルマの最大のトピックである。拡大
フェラーリが誇る、世界最高峰のレーシングカーも間近に見られた。写真手前がWECマシン「499P」で、奥がF1マシン「SF-26」。
フェラーリが誇る、世界最高峰のレーシングカーも間近に見られた。写真手前がWECマシン「499P」で、奥がF1マシン「SF-26」。拡大
フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEOは日本市場について「過去と未来が共存できる、まれな市場である」と語る。「だから今後も期待しているし、『ルーチェ』にとっても重要なマーケットになる」とも。
フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEOは日本市場について「過去と未来が共存できる、まれな市場である」と語る。「だから今後も期待しているし、『ルーチェ』にとっても重要なマーケットになる」とも。拡大
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目指すは芸術的なイノベーション

というわけで、ルーチェ。実は一部カスタマーなどの招待客の内覧用として、傍らの個室内で展示されていたんです。今回のイベントはフェラーリとしてはかなりオープンな施しでしたが、やはりここは別腹。ご開帳の特別参拝は檀家さんのみですといわれれば、それは納得するしかありません。あるいは前述のとおり、バズリすぎによってだいぶ目立ってしまいましたから、実車はなるべく引っ込めときたいという意向も働いているのかなと思います。

ちなみにルーチェは現状で設定されている日本市場向けの枠はほぼ完売。この「ほぼ」というのがポイントでして、いくらフェラーリであっても、まったく前例のないパワートレインの初物をミズテンで頼むのはちょっと……というカスタマーが少なからずいらっしゃったのだと思います。実際、そんな話も販売店の方から耳にしました。

個人的に、これはまったく正しい反応ではないかと思うわけです。片っ端から買っていく豪気なカスタマーもいれば、その価値を吟味して自分の尺度に照らしながら慎重に購入を決めるカスタマーもいる。双方が相互に支え合うかたちで構成されることは、少なからぬ日本の販売の成熟化・健全化という点において、フェラーリにとってもプラスにつながるのではないでしょうか。

数字といえばヴィーニャCEOは、今回のプレスカンファレンスでこんな話をしていました。

「われわれのビジネスにおいてはしばしば財務が注目されます。そこでは台数やシェア、売り上げや利益率、それらに対する約束や成果が評価されるわけです。でも、私はフェラーリの真価は数字の優劣よりも製品そのもののイノベーションにあると思っています」

「さまざまなテクノロジーを用いたサプライズをクライアントにお届けする、そのための大胆な決断こそが数字以上にリーダーに求められる責任です。もちろん、その手段は内燃機に限られるものでもありません。われわれはすでにプラグインハイブリッドモデルでもそれを形にしています。そして電気自動車も然りです。大事なのはそれぞれのカテゴリーでクローンではなくイノベーションのリーダーであること。それがアルゴリズム的なものではなくアーティスティックなものであり、人々のエモーションをかきたてるものであること。それこそがフェラーリだというわれわれの意思が、ルーチェには込められているのです」

物理学専攻の弱電系エンジニアである氏をして、アルゴリズムよりアーティシズムを由と言わしめる。意外な気もしますが、それこそがフェラーリの紡いできたヘリテイジでもあります。フェラーリを見かける頻度もそれなりに高い東京の道端でルーチェに遭遇する日は果てしなく遠いわけではなさそうです。果たしてそれは旧(ふる)きも新しきも雑然と一体化する日本の風景と触れ合って、どんな余韻をわれわれに残していくのでしょうか。

(文=渡辺敏史/写真=webCG/編集=関 顕也)

フェラーリ初のフル電動モデル「ルーチェ」の姿も会場内にはあったものの、内覧は招待制のエリアにおいてひっそりと行われた。
フェラーリ初のフル電動モデル「ルーチェ」の姿も会場内にはあったものの、内覧は招待制のエリアにおいてひっそりと行われた。拡大
「フェラーリのロードカー史上最小の空気抵抗係数を実現した」という「ルーチェ」の外観。全長は5026mmあり、屋内で見るとより大きく感じられる。
「フェラーリのロードカー史上最小の空気抵抗係数を実現した」という「ルーチェ」の外観。全長は5026mmあり、屋内で見るとより大きく感じられる。拡大
「ルーチェ」のドアは観音開き。4ドアモデルとしては「プロサングエ」に次ぐ2車種目で、フェラーリ史上初の5人乗り仕様車となっている。
「ルーチェ」のドアは観音開き。4ドアモデルとしては「プロサングエ」に次ぐ2車種目で、フェラーリ史上初の5人乗り仕様車となっている。拡大
ラブフロムのデザインが存分に生かされた「ルーチェ」のコックピット周辺部。現代的な多機能ディスプレイやスイッチが機能的にまとめられている。
ラブフロムのデザインが存分に生かされた「ルーチェ」のコックピット周辺部。現代的な多機能ディスプレイやスイッチが機能的にまとめられている。拡大
フェラーリの現在の成功について、ベネデット・ヴィーニャCEOは「ひとえにユーザーのおかげ」と語る。そのうえでカギとなるのは、フェラーリへのサプライヤーと、フェラーリ自身の規律であり、イノベーション(=新しい価値を生み出すこと)こそが重要な要素であると何度も強調した。
フェラーリの現在の成功について、ベネデット・ヴィーニャCEOは「ひとえにユーザーのおかげ」と語る。そのうえでカギとなるのは、フェラーリへのサプライヤーと、フェラーリ自身の規律であり、イノベーション(=新しい価値を生み出すこと)こそが重要な要素であると何度も強調した。拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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