第15戦日本GP「挑戦者は諦めないということ」【F1 09 続報】
2009.10.05 自動車ニュース【F1 09 続報】第15戦日本GP「挑戦者は諦めないということ」
2009年10月4日、三重県の鈴鹿サーキットで行われた日本GP。過去2年、富士スピードウェイに明け渡した“日本代表サーキット”が鈴鹿に戻ってきた。世界のサーキットのなかで随一といわれるチャレンジングコースで、文字通り挑戦者として戦ったレッドブルのセバスチャン・ベッテルがパーフェクトウィンを達成した。
残り2戦、ポイントリーダーのジェンソン・バトンの優位は変わらないが、ここにきて躍進してきた若きベッテルと、バトンとのギャップをまた縮めた大ベテラン、ルーベンス・バリケロとの三つ巴の戦いが期待されている。
■逆転チャンピオンを目指して
2006年、記念すべき20回目のF1開催を最後にGPカレンダーから消えていた鈴鹿が帰ってきた。2本のストレート、極めてテクニカルなS字、難しい複合デグナー/スプーンカーブ、豪快な高速130R、低速シケイン/ヘアピンと、ドライバー、マシンにあらゆる要素で高次のパフォーマンスを要求する、世界屈指の名サーキット。チャンピオンのルイス・ハミルトンは、初めて走る鈴鹿を心待ちにしていたという。
ハミルトンのみならず、鈴鹿で意気込むドライバー、チームは多かったが、チャレンジする気持ちが空回りするものもまた多かった。3度の赤旗中断で荒れに荒れた予選はその証左といえる。Q2ではハイメ・アルグエルスアリがデグナーでクラッシュ、ティモ・グロックは最終コーナーでタイヤウォールに突っ込み負傷(レース欠場)、さらにQ3ではヘイキ・コバライネンがまたもデグナーで壁に激突と、難攻不落のコースはそこかしこで口を開け次々とドライバーを飲み込んでいった。
だが“初鈴鹿”にもかかわらず、22歳のドイツ人ベッテルは、実力を十二分に発揮し勝利した。予選を重めのマシンで戦い見事ポールポジションを獲得。そしてレースでは、スタートで背後のKERSマシン、ハミルトンのマクラーレンを抑えトップを守ると、終盤に訪れたセーフティカーランにも動ぜず圧勝した。
ポイントリーダーのバトンが第7戦トルコGP以来優勝から遠ざかっているように、ベッテルも第8戦イギリスGPから久しくポディウムの頂点にあがっていなかった。日本GP前、バトンとランキング3位ベッテルとのギャップは25点。今回、ベッテルが優勝しバトンが8位でフィニッシュしたことで、両者の間は一気に16点差にまで縮まった。
残り2レース=20点しか得点できない状況から考えれば、14点差のランキング2位バリケロですら逆転は厳しい戦況である。だが可能性がゼロにならない限り戦い続けることで、最後に奇跡が起こることもある。2007年の最終戦ブラジルGP、キミ・ライコネンがまさかの逆転チャンピオンになったように。
■トヨタ、母国で初表彰台
秋晴れのもと、負傷欠場のグロックと、フリー走行中にマシンを壊し予選不参加、ピットスタートとなったマーク・ウェバー以外の18台がダミーグリッドに並んだ。この順位は、大荒れの予選、黄旗区間で減速しなかったことでペナルティを受けたドライバーが多く、予選結果からさらなる変更を受けた。
ブラウンの2人に加え、エイドリアン・スーティル、フェルナンド・アロンソらが5グリッド降格。さらにセバスチャン・ブエミは危険行為、ヘイキ・コバライネンはギアボックス交換により降格など、罰則によるグリッドダウンが連発した。
シグナルが変わり53周のレースがスタートすると、予選3位のハミルトンが、KERSパワーで同2位のヤルノ・トゥルーリを抜きベッテルの横に一瞬並びかけた。しかしイン側のレッドブルにアドバンテージがあり、ベッテルがトップの座を守った。
レースは早々から、1位ベッテル、2位ハミルトン、3位トゥルーリのトップ3と、4位ニック・ハイドフェルド、5位ライコネン、6位バリケロらの第2集団との間が開きはじめた。そして先頭集団では、ベッテルがファステストラップを叩き出し、ハミルトンらを引き離しにかかった。
その間、10番グリッド(予選順位7位)からスタートしたバトンは順位をふたつ落としたが、オープニングラップでジャンカルロ・フィジケラ、3周目のシケインでロバート・クビサを抜くと、ペースのあがらない8位コバライネンと、それに付き合わされている9位スーティルの2台に追いつく。そして13周目、シケインでコバライネンとスーティルが接触し、その間隙を縫ってポイントリーダーは8位までポジションをあげた。
バトンにとっては、またもダメージを最小限に抑えるレース運び。タイトルを争うトップのベッテルを負かすことは事実上不可能だが、チームメイトで最大のライバル、バリケロとのポイント差を可能な限り開いておくことはできる。そのバリケロは、ライコネンの前を行けずに6位でくすぶっていた。
トップ集団は、1位ベッテルが最初のピットストップ後も引き続きレースをコントロール。そして引き続き2位のハミルトンは、後ろに従えるトゥルーリに先行されないため必要な3秒を稼ぎ、38周目に2度目のピット作業に入った。ここでトゥルーリはパーソナルベストタイムでさらに2周飛ばし、自身もピットイン。この2周が奏功し、コースに復帰するとハミルトンを抜くことに成功していた。
トヨタにとっては、参戦8年目にしてようやく手にした母国での表彰台。お膝元の富士ではなく鈴鹿で達成した、という点は何とも皮肉である。
■諦めない姿勢、守りの気持ち
比較的落ち着いたレースは、終盤の44周目にアルグエルスアリが130Rで大きくクラッシュしたことで動きをみせる。セーフティカーが導入されると、そのタイミングを逃さなかったのは、あともう1回ピットに入らなければならなかった4位のニコ・ロズベルグ。ウィリアムズのエースは、この間ピットに入り、1つポジションを落としただけの5位で復帰。残り4周でレースが再開すると、そのポジションを守り切った。
このロズベルグに、レース後物言いをつけたのは8位でゴールしたバトンだった。セーフティカーラン中にロズベルグはベストセクタータイムを出した、したがってペナルティの対象となる、と主張するバトンだったが、レーススチュワードはペナルティを科すことなく、ロズベルグを5位と認めた。もしロズベルグに罰がくだされていたら、ブラウンのコンストラクターズタイトルが決まっていた。
西日に照らされる鈴鹿で、ベッテルは会心の笑みでポディウム最上段に駆け上がった。冒頭にも記したとおり、25点が16点の差になったところで、ベッテルには厳しい2戦が待ち構えている。だが挑戦者として、追うものとして最後まで諦めないベッテルの姿勢と、貯金を切り崩しながらシーズンを消化しているバトンの守りの気持ち――このはっきりしたコントラストから、何か劇的なフィナーレの胎動を感じないだろうか。
次戦はバリケロのホームレース、ブラジルGP。今度はランキング2位の男が奮起し、タイトル決定は最終戦までもつれ込むのだろうか? 決勝は10月18日に行われる。
(文=bg)
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