第9戦ドイツGP「遅咲きウェバーの晴れ舞台」【F1 09 続報】
2009.07.13 自動車ニュース【F1 09 続報】第9戦ドイツGP「遅咲きウェバーの晴れ舞台」
2009年7月12日、ドイツのニュルブルクリンクで行われたF1世界選手権第9戦ドイツGP。ポスト・シューマッハー時代にドイツの期待を一身に背負うのはセバスチャン・ベッテル。だが優勝したのは、22歳になったばかりのドイツ人ではなく、同じチームにいる32歳のオーストラリア人、マーク・ウェバーだった。F1きっての苦労人は、史上もっとも遅咲きのドライバーとしてその名を残すこととなった。
■「2位までだった男」
F1に出場できるドライバーは世界でわずか20名ほどしかいない。その多くはジュニアカテゴリーで頂点を極め、最高峰シリーズへとステップアップしてくるが、マーク・ウェバーという男には、実は目立った勲章=タイトルがない。
モータースポーツの本場から遠く離れたオーストラリアで生まれ、同国のカート、フォーミュラ・フォードを経て1996年に渡英。翌年まで英国F3で戦い、1998年にはメルセデスのGTカーにシートを移した。しかし翌年メルセデスがGTから撤退し、再びシングルシーターに活躍の場を探すことに。アロウズ、ベネトンとテストドライブを経験しながら、国際F3000に出場。選手権最高位は2001年の2位だった。
そして2002年、同郷のポール・ストッダードが代表をつとめていたミナルディ(現トロロッソ)で、ようやくF1デビューの機会を得る。弱小チームながら開幕戦の地元オーストラリアGPで5位入賞、初戦を華々しい戦績で飾った。
しかし、出だしこそシンデレラストーリーだったが、いい環境には恵まれなかった。2003年に新興ジャガーに移籍、2005年にはウィリアムズ、2007年レッドブル(元ジャガー)とチームを変えていったのだが、最高位はレースでも予選でも2位どまり。2008年、ようやく手に入れた最高のウェポン「レッドブルRB5」をもってしても、優勝するのはひとまわり近く若いベッテルの方だった。
「2位までの男」というレッテルが、8年目にしてドイツでようやく剥がされた。接触、ドライブスルーペナルティという思わぬ障害を乗り越えての初優勝は、これまで険しい道を歩いてきた苦労人に相応しい内容ともいえる。
■涼しき夏の戦い第二幕
前戦イギリスGP同様、2戦連続で冷涼な気候に見舞われた。寒空のもとのコースで元気なのはレッドブル。もういっぽうの“新2強”、ブラウンはシーズン前半の勢いがなく苦戦が続いた。
山岳地帯にあるニュルブルクリンクは、天候が変わりやすいことで知られる。土曜日の予選は時折降る雨を睨んでの戦いとなり、しかも夏とは思えない低い温度がタイヤ選択をさらに難しいものとした。
予選Q3では、ウェバーが自身初、1980年のアラン・ジョーンズ以来となるオーストラリア人によるポールポジションを獲得し、軽いマシンで出走したルーベンス・バリケロ、ジェンソン・バトンのブラウン勢が2位、3位につけた。今年2勝しているベッテルはといえば、4番グリッドに沈んだ。Q3の最後のアタック直前に時間切れを迎えてしまったことが敗因とされ、このグリッド順位がレースでの勝敗に大きく影響することになる。
また予選では、ルイス・ハミルトン5位、ヘイキ・コバライネン6位とマクラーレンが復活の兆しをみせた。そしてこのことも、勝負の行方を左右することになる。“旧2強”では、フェラーリがフェリッペ・マッサ8位、キミ・ライコネン9位と2台ともトップ10内に駒を進めた。
■またもKERSの悪戯
決勝日はそれまでの涼しさから一転、気温は18度まで上昇し、タイヤの使い方に各チームが頭を悩ませた。
スタートで飛び出したのはハミルトン。KERS全開で電気モーターからプラス81馬力を得、3列目から1コーナー手前でトップに立った……かにみえたが、ウェバーに小突かれ勢い余ってコースを飛び出し、タイヤのパンクで最後尾までダウン、起死回生ならずに終わった。
その背後では、ポールシッターのウェバーがバリケロを激しく牽制し両車は軽く接触。バリケロがトップを奪い、2位にウェバーを従えてレース序盤をかたちづくった。
3位には、KERSパワーの恩恵を受けたコバライネン。しかしマクラーレンの力量はトップ争いを繰り広げるまでには至っておらず、コバライネンが後続にフタをするかっこうとなった。この間トップ2台のバリケロとウェバーはどんどん逃げ、コバライネンに続くバトン、マッサ(KERSでジャンプアップ)、そしてベッテルからは優勝の2文字が遠のいていった。
12周目、スタートでのバリケロとの接触の責任をとるようにと、ウェバーにドライブスルーペナルティが示された。この時点で、トップのバリケロを追っていたウェバーから初優勝の可能性が消えたかと思われた。
14周目、1位バリケロと2位ウェバーが同時にピットイン。ブラウンがルーティンストップなら、レッドブルはペナルティを受けてのドライブスルーだ。この同時ピットインで、なんとウェバーがトップに立ってしまう。通り過ぎるだけのウェバーに対し、バリケロはタイヤ交換、給油で時間を取られ、順位は逆転。コバライネンのおかげで後続が遅れていたこともウェバーに有利に働いた。
ウェバーは、その後5周にわたりハイペースで周回を重ね、予定されていたピットインを敢行。8位でコースに復帰するが、他車が最初のピットインを終えると首位に返り咲いた。
これでペナルティの遅れは帳消しとなった。さらにブラウン勢は3ストップが裏目に出て自滅。最大のライバル、チームメイトのベッテルは“コバライネン隊列”に付き合わされ、その後2位まで上昇するが、トップとのギャップは既に取り返しのつかないものになっていた。
勝てそうでなかなか勝てなかったドライバー。いわゆる“草食系ドライバー”が多いなか、アクシデントやミスの後にあからさまに怒りをあらわにするアツいオーストラリア人。時としてコース上では(今回のスタートのように)大胆な動きに出るいっぽう、コースの外では裏表のない性格で人望もあついベテラン。そんなウェバーに、132戦目の歓喜の瞬間が訪れた。
■後半戦の台風の目はレッドブルか
イギリス、ドイツと快進撃を続けたレッドブル。タイヤに優しい=涼しい気候でタイヤが十分温まらないというブラウンの弱点のおかげもあり、トップ2チームの差は着々とつまってきている。
チャンピオンシップリーダーのバトンと2位に浮上したベッテルの差は21点。ベッテルと3位ウェバーとの間には、わずかに1.5点差しかない。白熱してきたドライバーズタイトル争いにつられ、コンストラクターズランキングでも1位ブラウンと2位レッドブルのポイントが一気に縮まり、19.5点差となった。
次戦は真夏の暑さが予想されるハンガリーGPだ。ブラウンとレッドブルの真のパフォーマンスが試される2009年夏の陣。決勝は7月26日に行われる。
(文=bg)
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