第90回:フィアットはシンデレラ! マルキオンネCEOのブランド皿回し、まもなく開演?
2009.05.09 マッキナ あらモーダ!第90回:フィアットはシンデレラ!マルキオンネCEOのブランド皿回し、まもなく開演?
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イタリアではこのところ「フィアット」がトップニュースになる日が続いている。
2009年5月4日月曜日、フィアットのマルキオンネCEOは、オペルとの提携交渉をドイツ政府関係者を交えて行うため、ベルリンに向かった。そのわずか3日前の4月30日に、クライスラーへ20%の資本参加と技術供与を発表したばかりだというのに、である。
さらに5月5日、今度はゼネラル・モーターズのラテンアメリカ事業買収交渉のため、マルキオンネは再びアメリカに飛び、8日にはまたまたオペルと協議のためドイツに入った。まるでピンポン玉のような往復ぶりである。
「疲れてるうえ、悪い病気が流行ってるから気をつけなさいヨ」と、親でもないのに心配したくなるのはボクだけか。
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はじめにフィアットありき
今回、フィアットとクライスラーの提携に関して、イタリアの政財界は、えらい盛り上がりようだ。
まず、ガソリンスタンド「アジップ」も傘下に収める総合エネルギー会社「Eni」のロベルト・ポーリ会長は、「歴史的な戦略だ」と評価した。
ピレリのマルコ・トロンケッティ・プロヴェーラ会長も、「(フィアットは)わずか数年前までは、まるでシンデレラのような会社だったというのに」とコメントした。倒産間近といわれた一時期の惨めな姿を、姉たちにいじめられるシンデレラに例えたのと同時に、人々の注目を浴びるまでに変身を遂げたことも暗示したものだろう。
日頃はフィアットの経営にあまりコメントしないうえ、おりしも離婚騒動が持ち上がったベルルスコーニ首相も「提携に大変満足した」と発表した。
イタリアのマスコミも盛り上がった。
クライスラーとの提携が決定した翌日、5月1日付『ラ・スタンパ』紙の1面には「歴史的合意」の文字が躍った。次のページは「オバマ、フィアットとクライスラーの結婚を祝福」だ。論説ページを開けると、今度は「イタリアの労働の再勝利」と見出しが目に飛びこむ。さらに別のページでは元工場従業員の話として、「私たちがアメリカを助ける。世界がひっくり返った」というコメントを載せている。
まあ、ラ・スタンパ紙はフィアットグループ100%出資の新聞社ゆえ、若干チューニングが効いていることは想像できるが、それを差し引いてもかなりの盛り上げようである。
テレビ局も軒並み「フィアット、アメリカ上陸」といったトップ報道だった。また一部の局は、北米クライスラー工場のイタリア系従業員数名にインタビューし、喜びの声を報じていた。
そもそもイタリアのマスコミは、過去に外国企業の手に渡っていた国内企業が国内資本に戻るたび、賑やかに書き立ててきた。イタリア第1位のパスタメーカー「バリッラ」が1979年に、2輪メーカーの「ドゥカティ」が2006年に、いずれも米国資本からイタリア資本に戻ったとき、イタリアのメディアはいささか感動的ともいえる採り上げ方をしてきた。
今回は、イタリア企業がアメリカ企業の一部を手に入れることになったため、フィーバーがよりブーストしたのである。
日本の報道では、クライスラーが連邦破産法11条の適用を受けることになった事実のほうが先に報道され、フィアットの資本参加はあくまでも再建策の一環であるという位置づけだった。しかしイタリアでは、あくまでも「はじめにフィアットありき」だったのである。
ホントに大丈夫?
もしフィアット−クライスラー−オペルという大連合が実現すると、トヨタに次いで世界第2位の自動車グループが誕生する。従業員数は3社合わせて14万6000人。マルキオンネは「世界中で生き残れる自動車メーカーは、年間550万台以上を生産する6社だけとなるだろう」といった昨年の発言を、自らクリアすることになる。
フィアットとオペルの連携に関しては、フィアットがGMと業務提携していた時代に始まったディーゼルエンジン共用化の実績がある。
しかし、心配性のボクが想像してしまうのは、かつてイギリスにあった旧BMC-BLMCグループだ。
ベーシックカーのMINIから高級車のジャガーまで、ひとまとめにしたものの、それぞれのブランドの没個性化を招き、結局は失敗してしまった。ときおり「ローバーSD1型(1976-87年)」のような個性的モデルを出しても、高コストと慣れない作業による低い品質が命とりとなった。
プラットフォームの共用をはじめとする効率化を図っても、よほど慎重なマーケティングを伴わないと失敗に至る危険性は高い。たとえば、今日イタリアには、「今やアルファ・ロメオもランチアも乗る気はない。だって中身はみんなフィアットだから」と言い放つユーザーは多い。
フィアットグループの中で、部品共通化によるコストダウンという制約を乗り越えつつ、各ブランドのキャラクター作りに日々苦心してきた人たちを知るボクとしては、それを聞くと複雑な心境になる。
しかし、クルマを買う普通の人たちにとって、そんなことは関係ないのだ。
さらにフィアットの基本3ブランドの中でさえ、いまだ売れる車種と売れない車種の差がありすぎる。長年懸案となっているアルファ・ロメオのフラッグシップとマセラーティの車台共通化も今ひとつ見えてこない。そんなところに、新たに面倒をみなくてはならないブランドがいくつも加わるわけだ。
そして、アメリカ市場も甘くないだろう。
イタリアのマスコミは「世界で最もオープンモデルが愛される国アメリカに、アルファ・スパイダー投入か?」などとお祭りムードだが、レクサス、インフィニティともに、今日の信頼を獲得するまで20年もの歳月を要した。その傍らでサターンは、あの大GMが鳴り物入りで投入したにもかかわらず、ブランド売却が決定された。
アパレルを含む多くのイタリア企業にいえることだが、顧客の信頼獲得のため苦心している各国のインポーター/代理店の存在を忘れ、あたかもイタリア的センスの勝利と早合点しやすいことにも注意が必要だ。
今回フィアットが提携を決めたのは「クライスラー」という歴史ある企業だが、連邦破産法適用という傷ついた名声を取り戻すのは、フィアットのブランドイメージ回復より難しいだろう。
とにもかくにも、大西洋をはさんで多くの人々の生活を賭けた、マルキオンネCEOのブランド皿回しは今始まろうとしている。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=GM、Fiat、大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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