第86回:アテンションプリーズ! 究極の「ごっこ」アイテム発見
2009.04.11 マッキナ あらモーダ!第86回:アテンションプリーズ! 究極の「ごっこ」アイテム発見
用はないけど、カチャカチャ
乗り物好きというのは、車内グッズをついつい家に持ち込みたくなる習性がある。ボクもそのひとりで、整備工場でクルマを修理してもらった時など「外した部品ください!」とお願いしてしまう。
たとえば、先日までボクの部屋にあったのは「ウィンカーレバーのユニット」である。2年前、自分のクルマのハイ/ロービーム切り替えがうまくゆかなくなってしまったときに外した部品だ。新品が入っていたメーカー純正ロゴ入りケースに入れてもらい、持ち帰ってきた。
もらってきたからといって、別に何かに転用するわけではない。仕事机の脇に置いて、片手間にカチャカチャと動かしたり回したりしては、その感触を楽しんでいるのだ。
しかし先日、「整理整頓」「在庫のムダ」とトヨタの工場のようなスローガンが口癖の女房に命令され、泣く泣く燃えないゴミの日に捨てた。
友人を見回してみても、クルマアイテムを家に持ち込んでいるクルマ好きは多い。狭い我が家とは対照的に、広い家に住むイタリア人ゆえ、許されるのだろう。羨ましいかぎりである。
たとえば、ボクの知り合いのイタリア人医師は、隠れ家である自宅脇の作業小屋にスピーカーを設置しているのだが、そのコードを辿ると古いカーラジオに繋がっている。
“ナベサダ”シートを献上したら
好きなクルマのシートを倒れないように加工・改造して、屋内で使っているイタリア人もときおり見かける。こうしたシート改造は、愛好者イベントの定番アイテムでもある。先日もドイツのエッセンで開催された古典車ショーで、ダットサンのファンクラブの人たちが、初代「フェアレディZ」の片隅に日産車のシートを並べて談笑していた。
「ああ、この人たちに5代目“ナベサダ”ローレルの豪華絢爛シートなんかをプレゼントしたら、ボクは名誉会員になれるかもしれない」と思った。
そうした「クルマグッズを家に持ち運びたい」という人々が一定数存在するという根拠としては、市販製品があるということもあげられる。
代表的なものは、多くの人がご存知のRECAROシートをベースにしたオフィスチェアやソファである。また、ここ数年イタリアのおしゃれなオフィスやホテルでは、ヘッドライトレンズを使用した間接照明も人気アイテムだ。
メルセデス・ベンツは、「クラシックコレクション」というグッズシリーズで、往年の「300S」や「300SL」の室内時計をモティーフにした卓上時計を販売している。
コレよ、コレなのよ!
ボク自身はときおり、クルマのほかに飛行機の世界にも、そそられる機内グッズを発見することがある。
今でも覚えているのは、ボクが中学生だった1980年代初頭、当時日本航空の機内誌『Winds』で、国際線ファーストクラスの使用済みシートを、2座セットで販売していたことだ。たとえ中古でも、中学生の分際では到底買えるわけない値段だったと思う。だが、あれは今でもときおり夢にでてくる一品だ。もちろん、そのときBGMとして流れているのは、故・城達也による「ジェットストリーム」のナレーションである。
てなことを考えながら先日、フランクフルト・アムマイン空港でルフトハンザドイツ航空のカタログ『ワールドショップ ドイツ版』を手にとったら、とんでもない商品を発見してしまった。2009年春・夏の新アイテムとして、なんと旅客機の機内食用カートが売られているのである。こちらは新品だ。
中の付属品はプラスチックの引き出し3つ(パンを入れとくやつですね)だけで、トレイや食器がないのが惜しいが、「ミニバー、または仕事場の棚に」と謳われている。
実はその昔、東京郊外に住んでいたとき、隣街に同様の機内用カートを製造していた工場があったが、どうやったら個人が入手できるのか聞こう聞こうと思っていたまま、日本を去ってしまった。このドイツの航空会社には、「おたく心、調査隊」がいるに違いない。
カートのサイズは、幅30.5cm、長さ40.5cm、高さ103cmで、重さは15kg。カタログには3つのデザインが用意されている。気になる価格は、1290ユーロ(約17万円)。購入するほかに、ルフトハンザMiles&Moreマイレージプログラム33万マイルと交換することもできる。150個の限定品だ。
けっして安くはないが、なんでもカサが張るとありがたく思ってしまう単純なボクとしては、かなりそそられる品である。配送はドイツ国内のみだが、ドイツの知り合いの家に置いておいてもらって、しばらくしたらクルマで取りに行けばいい。
このカート、ボクにとっては、究極の「ごっこ遊びグッズ」といえる。そのルーツを辿れば、襖にメーターを描き、お盆をハンドル代わりに運転手さんごっこをしていた子供時代に遡るに違いない。まさに、「コレよ、コレなのよ!」といった感じである。
でも待てよ。機内食カートというものは、客室乗務員のお姉さんがピアノのペダルを操るがごとく、赤のブレーキペダルと緑の解除ペダルを巧みに踏みかえる、あの萌えるプロっぽい姿あってこそ成り立つのだ。自分が押して動かしても、たいして盛り上がらない。
そこで思いついたのは、日系航空会社の関連会社がビジネスとして展開している企業研修である。豊富な接客ノウハウを活かし、出張マナー研修などをしてくれるものだ。
ボク個人ではダメだが、法人なら依頼できるだろう。ただし、教えてくれるスタッフは客室乗務員の育成経験豊富な方々と聞く。
「機内食カートあるんですけど、ついでにちょっと押してみてください」という冗談を、お局CAに言う勇気が必要である。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=Lufthansa WorldShop、Mercedes-Benz、大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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