ダッジ・チャージャー SRT8(FR/5AT)【海外試乗記(後編)】
新世代の逸材(後編) 2007.08.17 試乗記 ダッジ・チャージャー SRT8(FR/5AT)6.1リッターのHEMIエンジンを搭載する「ダッジ・チャージャーSRT8」。431psを発生するハイパフォーマンスバージョンの乗り心地とは。
落ち着ける室内
「ダッジ・チャージャーSRT8」のドアを開ける。“SRT8”のロゴが刺繍された、たっぷりとしたサイズのシートに身を預けると、実車を目の当たりにしてはやっていた気持ちが幾分和らいだ。サイドサポートが大きく張り出したフロントシートが、178cmの筆者をすっぽりと包み込んでくれたからだ。バックレストのセンター部分にスウェードがあしらわれたシートのかけ心地はあくまでもソフト。ハイパフォーマンスモデルともなれば、その足まわりと同じようにシートも革がピンと張り詰めたものが多いように思うが、チャージャーSRT8は少々趣きが異なる。
それはインストゥルメントパネル周りの造形にも同じことが言えて、運転席からの光景は300Cのそれとあまり変わることのない、あくまでビジネスライクなスタイルを通している。仔細に観察すれば回転/速度計などがそれぞれ独立していることや、ステアリングホイールの上辺にカーボン調レザーがあしらわれていることに気づくが、それとて決して目を惹くようなものではない。余計な装飾を施さず、あえて流用パーツを隠そうともしないその潔さは、アフォーダビリティを旨とするダッジらしい仕立てと言えるだろう。
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粗さとは無縁
すっかり気持ちを落ち着けたところで、ようやくキーをシリンダーに差し込みエンジンに火を入れると、ドゥルッ!という低い響きとともに6.1リッターHEMIが目を覚ました。その後に続くアイドリングは8つのピストンが互いを鼓舞しあうかのように、しかしぴったり息の合ったリズムを刻みつづける。それはガスペダルを注意深く、時にラフに踏み込んだときでもまったく乱れることはない。大排気量V8エンジンと聞くと、それだけで腹の底を揺るがすかのような荒々しさを想像しがちだが、最新のHEMI V8にそんな所作はどこにも見当たらなかった。
ゆっくりとガスペダルを踏み込んでいくと、チャージャーSRT8はスルスルっと、期待したようなドラマもなく静かに歩み始めた。60kgmに届かんとする大トルクは、タウンスピードならペダルに乗せた足の指先に僅かに力を込めるだけですべてが事足りてしまう。このドライバビリティの高さは、日常的な場面では非常に心強い味方だ。
かといってスポーツドライビングに向いていないということは毛頭なく、レスポンスは鋭く、大きなピストンがせわしなく動いているはずのV8はまったくフリクションを感じさせないまま、リミットの6200rpmまで綺麗に吹けあがってくれる。それに伴うエグゾーストノートは変わらず低音を響かせているが、それとて音は乾いていて抜けもよく、4000rpm付近からは、ドライバーの気分を高揚させるような快音を響かせる。
どんな不満が?
そんなエンジンのフィーリングを注意深く観察できたのは、おそらく、このチャージャーの意外なと言っていいほどの、乗り心地のよさに安心して身を委ねられたからかもしれない。一般的には、ロードホールディング性を重視して足を硬めるというのがこの手のハイパフォーマンスモデルの常套手段だが、チャージャーが備えるSRTチューンの足まわりはひと味違った方向性で躾けられているようだ。
たしかに多少のロールも許すし、大入力に対してはややダンピングが不足気味に感じられることもある。が、あくまでも安定した姿勢は崩さず、高いスピード域でも安心してコーナーを駆け抜けることができる。それは54:46という前後重量配分も少なからず貢献しているはずで、ロック・トゥ・ロック2.8回転のステアリングから伝わってくるインフォメーションも豊富なため、今、自分が全長5m、全幅1.9mにもおよぶビッグサルーンを操っていることをすっかり忘れさせてくれる。
現代に甦ったアメリカン・マッスルカー、チャージャーSRT8は、想像していたほどの荒々しさや能天気さは持ち合わせてはいなかった。それは見ようによっては飼いならされたモデルと映り、そのことに昔からのファンは少し淋しさを覚えるかもしれない。しかし“使えないアメ車”の時代はもう終わったのである。見る者すべてを魅了するスタイリング、他を圧倒するパワーは当然として、それでいてどんなシーンにでも対応できるフレキシビリティを兼ね備えたモデルにどんな不満があるというのだ? そのうえ先頃発表されたこのチャージャーSRT8の日本市場での販売価格は651万円と、ダッジ・ブランドのアフォーダビリティはトップモデルにもしっかりと息づいている。過去の栄光だけに頼らないチャージャーSRT8は、新世代のアメリカ車の象徴たるに相応しい逸材だと思う。
(文=CG桐畑恒治/写真=ダイムラー・クライスラー日本/『CG』2007年8月号)

桐畑 恒治
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