新技術はアメリカから! 新型「ダッジ・チャージャー」からステランティスの未来を読み解く
2024.03.22 デイリーコラムステランティスの未来を占う試金石!
2024年3月5日、アメリカで新型「ダッジ・チャージャー」が発表されましたね。まぁ、読者諸氏で興味があるのはごく一部のアメ車好きだけでしょうが(なんせ日本未導入のブランド&クルマだ)、実はこのクルマ、欧州車ファンの御仁におかれても、注目すべき一台なのだ。なにせステランティスの次世代プラットフォーム「STLA Large(ステララージ)」を使った最初のモデルであり、そのディテールからは、みんな大好きな「アルファ・ロメオ・ジュリア」やら「ステルヴィオ」やらの未来も推しはかれる……かもしれないからだ。
とはいえまずは、クルマそのものの情報を。新型チャージャーは、ステランティスが北米で展開する大衆車ブランド、ダッジのフルサイズモデルであり、現状ではクーペとセダン、電気自動車(BEV)とエンジン車のラインナップがアナウンスされている。駆動方式は全車4WDが標準で、BEVモデルにはいずれも「デイトナ」のサブネームが冠される。生産については、まずはデイトナのクーペが2024年の年央に、その他のモデルは2025年第1四半期にスタートする予定。組み立てを担うのは、カナダ・オンタリオ州のウインザー工場だ。
真っ先に目を奪われるのは、その強烈なリバイバルデザインだろう。モチーフは間違いなく1968~1970年のチャージャー! 映画『ワイルド・スピード』シリーズで主役の“相棒”を務めているモデル……というより、webCG読者におかれては、往年の名作『ブリット』で爆発炎上したアレ、と言ったほうが通りがいいかもしれない。約5250mmというあきれるような全長も、ご先祖さまとほぼ一緒。見よ! 「Rウイング」なるエアロデバイスを開発してまで実現した、このシカクいフロントマスクを! ……まぁそれでも、ちょいと顔がタレ気味なのはご愛敬(あいきょう)。写真で見た感じ、ノーズもやや短めだが、いかにも「FRのマッスルカーでござい」というこの造形を、「BEV-native」(報道資料より)の車台で実現したのだ。ひとまずは拍手でもって迎えたい。
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「BEVのマッスルカー」という看板に偽りなし
搭載されるパワーユニットは、おおざっぱに分けると2種類。前後にモーターを搭載した2モーター方式の400Vフル電動システムと、ガソリンの3リッター直6ツインターボエンジンだ。前者の最高出力は「デイトナR/T」で496HP、「デイトナ スキャットパック」で670HP、後者の最高出力は「シックスパックS.O.」で420HP、「シックスパックH.O.」で550HPとアナウンスされている。古参のファンとしては、エンジン車が残ったことに感謝すべきか、いにしえの“V8ヘミ”が消滅したことを嘆くべきか、悩むところだ。
現状は2ドアクーペの詳細しか公開されていないが、スペックは以下のとおりである。
デイトナ R/T |
デイトナ スキャットパック |
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基本情報 | 全長 | 5247.9mm | 5247.9mm |
全幅(ミラー除く) | 2027.8mm | 2027.8mm | |
全高 | 1497.4mm | 1499.3mm | |
ホイールベース | 3074.3mm | 3074.3mm | |
乾燥重量 | 2648.1kg | 2648.1kg | |
車両総重量 | 3039.1kg | 3152.5kg | |
パワートレイン | 駆動方式 | 4WD | 4WD |
モーター | 永久磁石式同期電動機 | 永久磁石式同期電動機 | |
システム最高出力 〔パワーショット作動時〕 |
456HP(340kW) 〔496HP(370kW)〕 |
630HP(470kW) 〔670HP(500kW)〕 |
|
システム最大トルク | 547.8N・m(55.75kgf・m) | 850.2N・m(86.53kgf・m) | |
バッテリー総電圧 | 442V | 442V | |
バッテリー総電力量 〔使用容量〕 |
100.5kWh〔93.9kWh〕 | 100.5kWh〔93.9kWh〕 | |
バッテリー放電出力 | 550kW | 550kW | |
性能 | 一充電走行距離(EPA) | 510.2km | 418.4km |
0-100km/h加速 | 4.7秒 | 3.3秒 | |
最高速 | 220.5km/h | 215.7km/h | |
最大充電出力 (350kW<500A>EVSE) |
183kW | 183kW | |
充電時間(Level2 AC11kW 5-80%) | 411.2分 | 411.2分 | |
充電時間(DCFC 350kW EVSE 20-80%) | 27.6分 | 27.6分 |
フルサイズのBEVとして、動力性能は申し分ない。「World’s First and Only Electric Muscle Car」なる、ハデなうたい文句に偽りなしだ。対応する充電出力も高く、最速で毎分約13.1マイル(約21km)で充電できるというのだから、使い勝手もよさそう。新世代のBEVとしてはちょいと控えめな航続距離が気になるが、そもそもステララージは航続距離800kmを標榜(ひょうぼう)するプラットフォームであり、また今回の2台は、ラインナップのなかでも恐らくパワー自慢のモデルだろう。今後、「2WDの長距離巡航型を追加」なんて展開があるかもしれない。
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いよいよ登場した「STLA Large」の詳細
次いで、ステララージのキモもである電動パワートレインについて見てみましょう。資料にいわく、チャージャーのそれはクオーターマイルなどでの加速性能にフォーカスした、いかにもマッスルカーな感じのシステムとなっているそうだ。
たとえばバッテリーには、重量あたりの出力を重視してNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)系のリチウムイオン電池を採用(ステランティスでは小型車用に、ニッケル・コバルトフリーの低コスト電池も開発を進めている)。冷却は水冷式で、角柱型のセルを高剛性のケーシングに収める構造も、シャシーの強度アップに加えて高負荷走行時の温度上昇を防ぐのに寄与しているという。
いっぽう、駆動を担うのは前後に搭載される2基のEDM(Electric Drive Module)だ。これはモーターとギア、インバーターを一体化した、よそで言うところのe-Axleである。チャージャーのものは、ひとつにつき最大で250kW(335HP)の出力と300Lb-ft(406.8N・m/41.4kgf・m)のトルクを発生するという。「……あれ? だとするとデイトナR/Tのシステム出力は、数字が合わないじゃん」と思う人もおられよう。恐らくはハードウエアは同じで、制御のほうで差別化している(R/Tではアウトプットをわざと抑制している)んじゃないかな……と思います。たぶん。
またパワートレインには、当然ですがブレーキエネルギー回生の機能も備わっており、ドライバーはステアリングパドルで0.1G、0.2G、0.3Gと減速レベルの調整が可能。モーターが同期電動機ということで、コースティング時のひきずり抵抗を指摘する人もいるでしょうが、フロントのドライブシャフトにディスコネクト機能を付けるなど、高効率な走りも考慮しているとのことだ。
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他のモデルでもエンジン車の設定があるかも
以上が、ステランティスの未来を担うステララージ・プラットフォームの第1号車、新型ダッジ・チャージャーのあらましである。アメ車好きで、BEVも憎からず思っている記者としては、「ふむふむ、なるほど」という内容だったが……冒頭で「欧州車好きは未来のアルファを想像してね」と言ったものの、さすがにそれは無理があったかもしれない。
なんせチャージャーは、全長5250mmの巨人。寸法でいえば、「メルセデス・ベンツSクラス」や「BMW 7シリーズ」とも肩を並べているわけで、ステララージの車種のなかでも、恐らく最大級の一台なのだろう。対してアルファ・ロメオのジュリアやステルヴィオは、2クラスも小さなDセグメントのモデルだ。いくらなんでも差がありすぎる。「フロントが鍛造アルミ製のリンクを使ったマルチリンク式、後ろが4リンクのインテグラルリンク式。オプションでセミアクティブサスの設定もアリ」というサスペンションも、他の車種に受け継がれるとは限らない。むしろ機敏なハンドリングを好むアルファのファンは、乾燥重量2648kgというチャージャーの重さにガッカリしたかもしれない。Dセグメントへのサイズダウンで、これがどこまで削れるか。技術者の頑張りに期待しましょう。
一方で朗報というか、皆さん「おっ」と感じたのは、純エンジン車の設定ではあるまいか。ステランティスの4つの電動プラットフォームは、いずれも長らく「BEV専用」というニュアンスで語られてきたが、実際にはそうではなかった様子。「クアドリフォリオ」の2.9リッターV6ターボエンジンの延命もうわさされているし、2026年登場の未来のDセグメント・アルファにも、エンジン車を期待していいのかもしれませんね。……ジャン=フィリップ・インパラートCEOは否定的だったけど(参照)。
それにしても、ステララージの第1弾が、本当にアメリカのドメスティックなクーペ&セダンになるとは思わなんだ。まぁ、モデル末期の2023年ですらチャージャーは約7万6000台、「チャレンジャー」も約4万5000台が売れていたのだから、さもありなん。クルマもデカいが、マーケットもデカいんだわ!
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=ステランティス/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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